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ことわか  作者: ふらん
3/9

キシキシ

 心がキシキシって音をたてながら空に飛んでいく。薄い雲が朝方の空気を吸い徐々に青い色を帯び、そこに太陽からのオレンジ色の光が差し込み、青がオレンジに侵食され緑になる。そんな緑色の朝を迎えて、鳥達は嬉しそうに鳴き、植物達は我が同色の朝を静かに受け入れて揺れる。


 ぼくは深夜帯の物語をファミレスの無機質な机の上に片肘をつきながら思い出し懐かしむ。そう、懐かしむ。まだ、おばあさんが亡くなって一日も経っていないのに懐かしむ。

 そんな時、キシキシって音をたてながら空に飛んでいく心を見る。

「誰の心だろうか?」

 窓の向こうでは緑色の朝が来て静かに呼吸を始め、あらゆる事物に酸素を供給し、そこで吐き出された廃棄物を吸い取り循環して、動の流れを作り出している。

 そんな中をゆっくりとキシキシ、キシキシって音をたてながら空に飛んでいく心は、

「誰の心だろうか?」って。


 本来なら、心がない状態で酸素を吸い廃棄物を吐き出しながら朝方の眠りから覚めようとするその一時に、事物は息苦しい夢を見て、ハッと覚醒し、心を捕まえようと動き出すかもしれない。

 もしくは、心がないからその息苦しい夢も息苦しいと思わず、ただ、ただ、空虚な白い空間に身を預け空っぽのまま夢遊し続けて目覚めないかもしれない。

 いずれにせよ、誰一人としてキシキシって音をたてながら空に飛んでいく心に関心があるようには思えないからぼくも見ているだけで何もしない。


 そのうち空が雲に覆われて太陽のオレンジ色が青色の濃さに負け緑色から徐々に黒くなり、透明な白い雨粒が降ってきて、灰色の世界が現れる。周りにはカラフルな人種が席を埋めていき、その中で埋没しそうなぼくはカメレオンのように周りを伺いながら自らの色を変えていって、ふと気付くと灰皿の煙草が山盛りで、何杯珈琲を飲んだのか分からないけど、胃が重く感じられ、吐き気がした。


 そんな時


 キシキシって


 キシキシって


 音が聞こえるんだ。


 そう、ぼくの心がキシキシっていう音をたてながら体から出ていくところで、ぼくは慌ててアっていう声を出してしまって、そしたら周りのカラフルな人種達が一斉にぼくの方を見て、ぼくはそんな視線を受けとめられず、すぐに透明な色になったけど、ぼくの心はキシキシって音をたてながら、あっという間に体から抜け出し、捕まえる間もなくファミレスを通り抜けてしまった。

 ぼくもファミレスを出て心の行方を探したけど、もう手の届かないところで浮遊しており、見送ることしか出来なかったのです。



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