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大秦戯界開拓録  作者: 御食山左近
ある商人の冒険
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夜明け前の雑貨商

原色の絵の具をまき散らしたような壁から「ずるり」と無造作に引き抜かれた戦斧は青く輝いていた。


煌々ときらめく蝋燭の明かりに混じって、仄かな燐光を放つ双眸がこちらを向いている。


俺たちが立っているのはただの廊下ではない。玉座の間に続く唯一の通路だ。となると必然、まあそういうものがあったり居てもおかしくない訳だ。



----あなたを暗殺したのはこいつの上司の親戚の娘です!お邪魔しました!



その死霊の王から目を逸らさずに、全力で後ろ歩きする。熊などの野生動物に突然出会った時は、決して目を逸らしてはいけないのだ。伝説によると、かの温泉の守護聖人の使いは絶滅した白熊だったはずだ。なんとなれば熊と同じで大丈夫に違いない。


お、ヘクターが信じられないものを見るような目でこっちを見ているな。信じてよいのは自分だけなのだぞよ同志。たぶんこいつ死んだな。



「てめぇこのペド野郎ぶっ殺すぞ!」



気持ち悪い速度でこっちに汚い長髪の男が走ってくる。事案だな。



----こっち来るなこの馬鹿!追いかけてきてまとめてハンバーグにされるだろ?!お前は奥で俺は手前の二手に分かれるんだよ!


「よしわかった!二手に分かれたら一旦下で合流するぞ!」



わりとテンパっているだけに、俺も一切躊躇せずにともだちを犠牲にしたがこいつ実はいい奴だな。死んでから友情ってのはわかるもんだ。


軽やかに後方へ転戦していると無事にあいつは辿り着いたようだ。


それにしてもあんなに大きな得物を振るっているのに、幽霊だから何も音が立たないんだなと思ってたら遅れて聞こえてくるのか。怖っ…



「よくも囮にしてくれやがりましたね!もらった剣が折られるとかそういうのじゃなくて消えたんですのよ!」



うわぁ生き残りやがった。化物か。あと口調崩れてるな。



----いやこの一本道で二手に分かれてほんとに前に行く貴様の頭にびっくりだよ。それはそうと、なんでこっちに来ないんだ?



指差した先のゆらぐ人型は廊下の中ほどで、道をふさぐように仁王立ちしていた。



「大方あれだ。城の中枢部か、もしくは私室あたりだけ守るために置いたとか?あのサイコホモだし。」



----あのホモならありうるな。親友の死体を絶対服従の死霊兵にするなんて、まさか普通の人間では考えられん。いや皇統の術を使う人間にマトモなのなど聞いたこともないが。



「皇帝はただ一人まともだったろうよ。まあ後継者が正直アレなのしかいなかったけどよ。」



まあ山の下の唯一の王が華麗に暗殺されて、そのまま帝国がドミノ倒しのように崩壊する程度にはろくな連中はいなかったしな。それはそうと一時撤退である。



----素敵な内ゲバで誰が本当に生きてる人間かわからないってのが、マジでホラー怖すぎて俺的にありえなかったんだけど。だから西方の辺境に逃げてきた訳だしさ。貴様は出稼ぎに行ってたんだし色々知ってんだろ?



この男はロールプレイでしょっちゅう馬脚をあらわす割には、思いのほかキャラ設定には拘るタイプだ。元歴戦の傭兵の謎の店主を演じる為だけに、数多の戦場でかっこいいプレイが出来る方について戦い続けた猛者だ。



「いや所詮は昔の話だ。それはそうと、確かアレの死因は毒キノコだ。まだ諦めちゃあいねえだろうよ?」



下の階から天井を破壊して潜入するためにと階段を下りると、ヘクターは露骨に話を逸らしてきた。



だがそうだとも。この程度で諦めていては、とっくのとうに本国で畑でもやっていたろうよ。



----霊体にどうやってキノコ食わせるってんだ?まさかお前が全裸で「ぐへへ、この屈強な髭ダルマめ」とか言いながら行為に及ぼうとして貧相なエノキダケを音速超過で射出するわけでもあるまい。いや、半分ぐらい割って中に青銅のナイフでも挿しておけば一撃で仕留められるぞ!



我ながら素晴らしいアイデアだ。明日の労働英雄は俺だな。バンザイ俺。いや、俺同志ルシノー書記長?



「やめてくれよぉ… ただでさえ俺の貧相なスティックが爪楊枝になっちまうじゃねえか。ところでひとついいか。実際やるとしてもペーパーナイフすら無理だ。」



----すまない悪かった。代わりに俺が行く。



友の名誉の為に、ここは俺が行くしかあるまい。あいつはいい奴だ。俺が囮にしても斬りかかってくる事もなかった。俺なら後ろを向いた瞬間に首をはねていたのに。



「お前さんが死ぬのはいいが、無駄死にってのはゴメンだぜ?絶対あのホモはサイコだから罠ぐらいあるだろ。搦め手でいくべきだ。」



ふつうにありうるのが怖い。というか一柱倒したら、たぶん次は二倍三倍と増えて戦前のように西方領は死者の軍勢で埋め尽くされかねん事態もありうる。



----それもそうだな。冷静になるべきだった。だが機が来たら俺はやるぞ。やらねばならんのだ。



もう少し進むと玉座の間の下あたりかなというところで、天井からするっとさっき見た顔が落ちてきた。



「球形あるいは二次元的な範囲で移動可能みたいだな。本来は龍騎兵とかの上空からの爆撃への対策だったっぽいか。」


----だが逆に考えるとチャンスだ。あっちは一定の範囲からこっちには来れない。つまり遠距離攻撃で倒せばいい。それに罠を考えても、浄化の類なら死霊王の邪法も無力だろうよ。


「つまりお前の馬車に残してある塩の残りを遠くからぶつければいける訳だ。」



そして俺たちを待ち受けたのは長い戦いだった。


まさか普通の霊体なんてのは、マッシリアの触手もそうだが塩がかかると溶けるというのに、異様にこのドワーフの哀れな魂は抵抗したのだ。


仕方ないので精神体だから効くだろうと思って



----やーいやーいお前の嫁さん伝説によると鬼嫁ー!



と精神的ダメージを与えようと適当なことを叫んでみても、言われた方は「やべえ日記が歴史に残ってしまったのか」と魂の抜けた表情をするぐらいであり、



「やーいお前の親友サイコホモー!!」



などと言うとわりと本気で絶望的な表情をしていたし、普通に大ダメージを食らっているようだな。


ちょっと言い過ぎたかな。だがさらに現状報告は続く。


延々と続け、もはや我々のストックが切れたあたりで、もう早く止めをさしてくれと五体投地をしていたので慈悲を与えて差し上げた。なにやらレベルがぐーんと上がった気がするぞ。


そして再び玉座の間へ向かうと、今度はふつうに入れて一安心である。


聞いた話のわりに、玉座の間は灰色と白が目立つ窓のないつくりで意外と質素である。ところどころで自然の石をそのまま使ったような、プリミティブでさほど洗練された感じはしない。もっとこう派手に虐殺をして派手に圧制を敷いていた王だけに、人民の血と汗で今日もボクの部屋はピカピカさ!ぐらいは期待していただけに肩すかしである。


…しかし冷静に考えると洞窟を思わせるこのつくりは闇が深すぎるかも知れんな。


どうもこの道中でターゲットを見かけないなと思っていたら、おおよそ無敵の守護者に守られて安全なこの部屋に隠れていたらしい。適当に楽園への片道切符を無料配布していると、なにやら死体がモゾモゾと動き出しているではないか。これは一番苦手なパターンだ。



----俺さっき斬ったやつをもう一回斬るとかマジ勘弁なんだけど。かわりにやってくれね?


「いやそれにしたっておかしくないか?どう考えてもこんな雑兵を復活させるメリットが思い浮かばんぞ?」



ぱしゃりと俺が斬った肉塊たちがはじけた。既存の物理法則では考えられない動きで、部屋中に血がまき散らされる。そしてそれは明らかに死体の総量よりもはるかに多い。俺たちが目を向いた刹那の間に、その水面から浮かび上がった。確かにどれもさっき斬ったのと同じ顔をしていた。まさかである。



「いち、にの…」


----さん!



俺たちは恥も外聞も捨てて、全力で前を向いて後ろに走り始めた。













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