Ep.18
「ここが物置部屋ですか~」
物置部屋の前についたサクラがすこし驚いている。
そこは、かなり小さな扉だった。その人一人が入れるくらいだ。これまでの食堂などの扉とは違い、あまり手入れもされていなさそうだった。
「おお、暗いですね!」
いざ、物置部屋へと入る。なかに窓はなく、天井から吊り下がったライトが一つあるだけだった。
おかげで、他の部屋よりもかなり暗いものであった。
木材のいい匂いがするが、通気性が悪いのか、施設が古いのか、芳香剤などが色々混ざったかのような匂いもする。
正直かなりきつい。
かなり広い場所であるが、多くの棚に高く物が積まれているため、実際の大きさよりも狭く感じてしまう。
「いや~懐かしいなぁ」
ユイは、一度ここへ来たことがある。
ヒカリの事件の時に、調査という名目でここを訪れていた。
「さてさて、ラジコンはどこですか~?」
早速、サクラが物置をあさりだす。
せっかくなので、ヒナタたちも物置部屋を探索することにした。
「おお、これは……なんだろう?」
ふと見つけたものは、透明な棒状のものである。中には銀色の液体が入っており、先は体温計のようになっていた。
「あ、それは体温計ですね! 中に入っているのは……水銀でしょうか! なかなか珍しいですね!」
「そうなんだ……」
その体温計をさすっていると、サクラから注意が飛ぶ。
「あんまり触って割ると、水銀が飛び出して大変ですよ! 確か体温計ならば無機水銀なので、吸入すると大変ですよ!」
「えぇ!?」
びっくりして思わず落としかける。なんとか落とさずにすんだが、怖くて元あった場所にそっと置いておく。
「はぁ、怖かったぁ~」
「まぁ、触るくらいなら大丈夫なので! 元気だしてください!」
少し気を落とすが、サクラに慰められる。そして、サクラは再びラジコン探しに向かった。
「これは……?」
そんな時にキヨが見つけたのは、大きな円状の闘技場のようなものであった。中央が大きく滑らかに凹み、かなり傷がついている。
「あ、ボクそれ知ってる! あれでしょ! ベ◯ブレード!」
ユイが言う。
言われてみれば、たしかにこの上でコマを回しぶつけ合えばいい戦いになりそうだ。
「え、そんなものがあるんですか!?」
ラジコンを一生懸命さがしていたサクラだったが、楽しそうな単語を聞きつけて黙っていられるわけがない。
「あ、でも肝心のコマのほうがみつからないね」
ヒナタの言う通り、今はベイスタジアムしか見つかっていない。遊ぶには、どうにかしてコマ本体を見つけなくてはならない。
「こんな面白そうなもの見つけておいて遊べないなんて嫌です! 私は探しますよ! いつまでも!」
「いつまでもは、厳しいんじゃ、ないかな……」
サクラの意気込みに、キヨがツッコミを入れる。
「そんなことありません! 私、遊びには全力投球なので!」
しかしその言葉は、サクラのやる気を引き出していく。
「私も、探す」
そしてそこにアズキまで加わった。ここまできたらもう誰にも止められない。
そうして結局五人揃って物置部屋を探し回ることとなる。
「うーん、なかなか見つからないですね~。普通スタジアムがあればベイの方もあるのが自然といいますが……」
だが実際、どれだけ探してもベイが見つかることはなく、すでに時間は午後の四時を指している。
「諦めるしか……」
キヨが弱気になっている。
「しょうがないですね! 見つからないものはどれだけ探しても見つからないものです!」
サクラは、すでに心を入れ替えていた。その切替の早さは、見習うべき長所である。
「うーん、でもこれからどうするの?」
「そうですね、やはり困ったときはレクリエーションルームですよ!」
サクラが提案したのは、レクリエーションルームであった。たしかにあそこなら暇つぶしに必要なものすべてが揃っている。
「レクリエーションルーム……!」
キヨが目を輝かせている。
キヨにとっては、レクリエーションルームは皆との心の距離が縮まった最高の場所なのだ。
「ボクもサクラへのリベンジマッチがまだだし、異論はないかな」
ユイも、サクラへのライバル心をメラメラと燃やしている。
「ふっふっふ、望むところですよ! ユイさん!」
サクラも、そんなユイに対して王者の構えで相手する。
二人の間では、まるでバチバチと火花がぶつかり合っているかのようだ。
「あはは、まずはレクリエーションルームに向かおうか」
そんな二人をヒナタはなだめ、レクリエーションルームへと向かう。
そしてレクリエーションルームにはすでに先客がいた。
「おー、どもども! そんな大所帯でどうした?」
ケイとヒビキだ。前に来たときは将棋をしていたが、今はチェスをプレイしていた。ちょうど今対戦が終わったようだ。
ちなみにヒビキの勝ちである。
「ふっふっふ、今日は人数多いですよ!」
サクラの言う通り、今日はヒナタにサクラ、アズキにキヨにユイがいる。
「……これだけ人数が多いと、ボードゲームは無理そうね」
ヒビキの言うことはもっともであった。流石に将棋やチェス、オセロといったものをプレイするには人数が多すぎる。
「ビリヤードは……ルール知ってる?」
「……わからない」
「ごめん、なさい……」
ユイの提案のビリヤードは、アズキとキヨがビリヤードのルールを知らなかったので無理となる。
「だったら……これとかどう?」
そう行ってヒナタが差し出したのはトランプだった。
「大富豪やる?」
「いやいや、別に大富豪じゃなくてもトランプならいろんなゲームがあるし……」
ヒナタの言う通り、別にトランプゲームは大富豪以外にもたくさんある。
「なら、みんなでババ抜きしませんか? シンプルですがやはり王道ですよ!」
サクラの提案は皆を頷かせるだけの物があった。
ヒナタにより、ササッとシャッフルされ、皆に配られる。
「さて、はじめましょー!」
サクラの掛け声の合図とともに、ゲームがスタートする。まずは、初手に揃っているカードを減らしていく。
「……ラッキー」
アズキがそんな言葉を呟いた。
皆がアズキの手札を見ると、すでに残り二枚となっていた。
「えあ!? アズキずるーい!」
ユイが素っ頓狂な声を出し、文句を言う。
「運がいい……」
ヒビキもその光景に絶句している。
いや、ヒビキだけでなく、皆が驚いていた。
「く、アズキさんやりますね! でも勝つのは私です!」
そうして、七人によるババ抜きが始まった。
†
「いやー、アズキさんが強かったですね!」
時刻は夜の九時。皆と別れて夕ご飯も食べ終わり、寝るには早いが遊ぶには遅いくらいの時刻となっていた。
「そうだね……楽しかったなぁ」
サクラのつぶやきに、ヒナタも答える。
いま彼女たちは外で夜風に当たっていた。
「……ヒナタさんはここから帰ったら何をしますか?」
「え?」
サクラがなんの脈絡もなく突然聞いてきた。
「ケイさんはずっとここから帰りたいそうです。塀をよじ登ったりしたけどうまく行かなかったらしいですが」
「……」
ケイはおそらくここにいる少女の中で誰よりも帰りたい気持ちが強い。初日からそんな様子をヒナタは感じ取っていた。
「だから、もしもここから家に帰ることができたのなら何をしたいのかな、と」
それは純粋な好奇心である。桜色の髪が夜風に揺れている。月光に反射して、どこか儚げな雰囲気を出している。そんなサクラの曇りなき眼がヒナタをとらえていた。
「……そうだね、帰ったらまずは、家族にサクラちゃんたちを紹介したいな」
ヒナタは少しずつ語る。
サクラだけでなく、アズキやユイ、ケイたちも例外ではない。
こんな友達ができたんだと、家族に報告がしたかった。
気づけば夢中になって語っていた。もしもの話だとしても、語るだけならばいくらでもできる。
「いい家族がいるんですね!」
「うん、自慢の家族だよ!」
ヒナタの自慢げな声に、サクラもどこか温かい気持ちになっていた。
「おっと、そろそろ時間ですね。また明日遊びましょう!」
「うん!」
いつの間にか、時間は十時を回っていた。
そうして二人は牢屋へと戻るのだった。




