3―5 広島へ その五
水泳を楽しんでいる人達はビニールのボールを使って水上で結構楽しんでいるようだが、麦わら帽を被って舳先で釣りをしている瑠偉嬢のご両親は、若干苦戦中のようだね。
艫(船尾)の方で複数の人がバシャバシャと泳いでいるからねぇ。
魚が寄り付かない可能性もある。
で、底物を狙ってはどうかと思い、餌を変えてはどうですかと俺が提案したよ。
餌は、船内に保管してある貝の缶詰なんだ。
赤貝とつぶ貝が有るんだが、両方を出してみた。
ここの海底は砂場だからね。
カレイなんかが結構いるはずであり、魚が餌の臭いや味に寄せられるのかは知らないが、味付けした貝には結構寄ってくるはずなんだ。
例の瀬戸内海で宝探しをやっている際に、ネットで見て試した釣りの方法だ。
餌をつけて釣りをする前に、小さく切って蒔き餌をするのがコツみたいで、釣り針にかける餌は少々大きくても大丈夫みたい。
早速、おとうさんが試してみて、糸を垂らした途端に大きめのマコガレイが釣れたよ。
おとうさんは、底物狙いじゃなく中層のマアジとかキスを狙っていたみたいだね。
折角だからと、おかあさんにも釣竿を貸してあげて試してもらうことにした。
おかあさんがやっても、やっぱり入れ食い状態みたいだね。
釣りを始めてするおかあさんが、キャァキャァ騒いで、お父さんに魚を外してもらっていたよ。
これで最上さんご夫婦も海釣りを少しは楽しめるだろう。
問題は、釣れた魚をどうするかなんだが、・・・・。
俺の経験では、多分十匹じゃきかないくらい釣れるはずなんだ。
まぁ、冷凍庫が有るんで、一旦〆て広島港へ帰るまでは冷凍保管もできるけれどね。
魚の件は、後で確認しよう。
今は、自前のクーラーに入れているけれど、1時間もしないうちに一杯になるんじゃないかな?
一応予備のクーラーも用意しておこう。
おもてなし側としては水分補給のために、清涼飲料水や麦茶を準備して小型のクーラーに入れて傍に置いてある。
お二人で適宜水分補給はしているみたいだ。
お酒が好きな人なら良く冷えたビールあたりが良いのだろうけれど、最上家は代々下戸なんだそうで、大酒のみは居ないらしいよ。
午後三時ごろになって、砂浜に上陸したい人を募ったら、全員が手を揚げた。
折角、ここまで来たのだから砂浜にも触れてみたいということらしい。
ゴムボートには運転する俺を入れて、定員は五名までだから二回の往復になる。
貴重品は、更衣室代わりの部屋に鍵をかけて、保管することにする。
因みに、警報装置をセットしているから無断で船内に侵入すれば俺のスマホに通知される仕組みが有るんだよ。
船の方もスターターキーは生体認証を使っているから、滅多なことでは他人が動かせるような代物じゃないんだ。
だから安心して留守にできる。
第一陣目は年齢の低い、順で最上美耶、最上宗一、河内理沙、須藤美恵の四人である。
砂浜の海浜で降ろして、再度沖野シレーヌ号まで戻り、近藤は最上夫婦、瑠偉嬢それに城野奈美嬢を砂浜まで運んだ。
ゴムボートは、砂浜に杭を打ち込み、ボートを砂浜に引き揚げて、ロープで固定する。
この船外機も生体認証付きだから、誰かが盗もうとしても動かないな。
その前に俺が魔法で異常を感知できるから、滅多なことは起きないはずだよ。
但し、中にはワルが居て、ゴムボートにスイスアーミーナイフで穴を開けようとした輩が居たよ。
その意図を察して、気付かれないうちに背後に忍び寄って現行犯で私人逮捕した。
因みにこの手のアーミーナイフは持ち歩くこと自体が禁止されている部類なんだ。
それで、ゴムボートに穴を開ければ、歴とした犯罪だよね。
但し、未遂に終われば、その器物損壊罪は問われないが、少なくともアーミーナイフを所持していた罪はある。
従って、この不逞の輩を片手で抑えたまま、110番に通報してやった。
すぐに警官が駆けつけて来た。
この近くだと柳井警察署の周防大島派出所が近いけれど、それでも車で25分以上はかかる筈なんだけれど、わずかに5~6分で制服警官が駆けつけて来たね。
夏場のこのシーズンは海浜での犯罪が多いので、巡回中だったようだ。
俺は、最低30分は待たねばならんだろうなと思っていたのに、ある意味でとてもラッキーだったね。
まぁ、そんな些細な事件もあったけれど、砂浜でビーチバレーをやったりして、皆で楽しく一時間ほど過ごせたな。
飲み物やおやつは船から持参してきたから、売店等で購入する必要も無しだった。
そうして本当にこの砂浜は綺麗だったね。
きっと海水浴場を維持するために沢山の人達が清掃をしているんだと思うよ。
海の場合は、多少の時化でもいろんなものが浜辺に漂着するからね。
特に最近は、人が使った廃棄物の漂着が多い。
川で流したものが海まで流れて砂浜に漂着することもある。
少し遠い話ではあるが、ハワイに漂着するペットボトルの類は、日本製の者が結構多いらしい。
船から捨てられたか、陸で捨てられたかはわからないが、海流に乗ってハワイにまで漂着するんだから、ある意味で日本の恥をさらしているようなもんだよね。
俺達もごみは適切に処理しなければならないよな。
午後四時半頃まで浜辺で遊んで、船に戻った。
これから日差しも斜めになって来るので、帰り支度を始めよう。
明るいうちに観音マリーナに帰還することが大事なんだ。
船に戻って、ゴムボートや浮体を片付け、エンジンを始動する。
広島への帰り道は、乗っているお客さんに操縦をやらせてみた。
無論、速力は余り出さない。
危険な場合は、すぐに俺が取って代われるように傍についている。
前にも言ったかもしれないが、動力船の場合は、色々と資格が必要なんだが、例えばシレーヌ号の場合、小型船舶操縦士の免状を持っている俺が、常時操船をする必要はなく、俺が乗船している場合は、他の資格の無い者が操船をしても構わないんだ。
この辺は自動車と違うよね。
自動車の操縦は、運転免許を持っている者に限るから。
例外は、自動車学校の特別車両の場合で、運転免許を取るために入校した生徒が無免許でも指導員が助手席に座り、必要な指示をし、危急の場合にはブレーキを掛けられる状態ならば公道での走行も許されているぐらいかな。
あ、私有地ならば、無免許で車を運転しても違反にはならないらしいけれど、事故を起こした場合の責任は免れないよね。
米国なんかの場合は、プレジャーボートの資格は必要の無いケースもあるようだ。
欧州を含めて、西洋人は冒険に関しては寛容であり、ドライに自己責任と割り切っていることが多い。
日本だと危険な冒険の計画が有れば、関係するお役所が出て来て色々クレームをつけ、無謀な計画をやめさせようとするけれど、欧州や米国では一応の警告はするけれど、後は自己判断に任せるようだ。
そうして事故が起きた際には、救助には出動するけれど、例えば捜索なんぞは打ち切りが早いね。
そんなアホな行動をする奴に国費を掛けてはいられないと割り切っているようだ。
まぁ、そんな話は置いといて、操縦席に座った乗船者で意外と勘が良いのは、おとうさん、瑠偉嬢と宗一君だった。
次点でおかあさんと美耶嬢、それに須藤美恵嬢だったね。
他の人は、狭い海域や船が服装sる海域では危なくて操縦は、任せられないな。
総じて、最上家は操縦センスが良い血筋なのかもしれないね。
そうしてこの船を操縦するという体験は随分と喜ばれたみたいだね。
確かに普通に陸上で生活していた日には、大きめの船を操縦できるなんて中々体験できることじゃないからね。
そうして、大なり小なり、皆さん今日一日でしっかり日焼けをしてしまったようだ。
船内には、事前に日焼け止めのクリームなんかもたくさん準備していたし、相応に皆さんに注意喚起もしていたんだけれど、しっかり塗らなかったり、回数を重ねなかった人も居たみたいだね。
瑠偉嬢は流石に人前に顔を晒すのが商売なんで、かなり頻繁に日焼け止めクリームを城野奈美嬢と一緒に塗っていたから大丈夫のようだけれど、・・・。
宗一君と美耶嬢はちょっと危険なまでに焼けている感じだな。
大学生の二人のお嬢さんも結構焼けているみたいで、絶対に今夜はひりひりするはずだよね。
治癒魔法をかけて軽減もできるけれど、今回は人目も多いので、敢えてしないよ。
ヒールを使うと朧な光が出るんで、勘の良い人に気づかれてしまう可能性もあるからね。
まぁ、夏場の当たり前ということで、本人達は納得するだろう。
尤も、日焼け止めが利かないって文句を言うかもしれないが、少量では駄目だし、一日中日光に晒される場合は頻繁に塗らないと効果が無いんだ・
ま。自己責任と云うことで、放置する。
操縦経験をさせるために速度を落として15ノット(時速28キロ前後)で帰途についていたから、途中で速度を上げたけれど、観音マリーナに到着したのは午後六時少し前だったが、日没までは未だ一時間以上もある。
クラブまで見送りして、瑠偉嬢達と別れたよ。
俺は、観音マリーナを出て、音戸の瀬戸、安芸灘大橋を潜り、大久野島の沖で仮泊、明日の朝には福山箕沖マリーナに到着する予定だ。
夜航海もできるんだが、無理はしない方が良いだろう。
別れ際に、瑠偉嬢が言っていた。
「来月は土日の休みが取れそうにないので、9月の17日に、また福山にお邪魔したいと思っています。
できれば、矢田さんのご家族にもご挨拶をしておきたいのですけれど、御都合は如何でしょうか?」
「さて、僕の方は問題ないが、・・・・。
実家の方の都合は聞いてみなければわからないな。
近いうちにメールか電話で知らせるよ。
休みは一日だけなのかな?」
ポッと、顔を赤らめながら瑠偉嬢が言った。
「いいえ、9月17日と18日は久々の連休なんです。
ですから、18日の予定も開けています。」
おう、これは、泊まり込みもありってか?
随分と瑠偉嬢は積極的だね。
まぁ、俺に不満は無いけれど・・・。
「わかった。
じゃぁ、二日分の予定で実家に都合の良い日を選んでもらうよ。
お盆はともかく、9月ならば今のところ特段の予定も無い筈だから。きっと大丈夫だと思うよ。
じゃぁ、身体に気を付けて、9月に会いましょう。」
「はい、楽しみに待っています。」
因みに、今日の乗船者達は少し離れてはいたけれど、話の内容は聞いていたみたいで、みんなニマニマとした目で俺達二人を見ていたね。
うん、今日の同乗者の間では、俺が瑠偉嬢の恋人候補で認定されているみたいだな。




