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六英雄キ -異世界編-  作者: 上野 鄭
第二章 遭遇

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章末幕間1 見知らぬ森の美女

※とある人視点です。

 ――景色が歪(ゆが)む。


 それだけで、強制転移させられたのだとすぐに気付いた。

 目の前には見知らぬ森が広がっている。

 先ほどまでの見慣れた街並みからの落差が酷い。

 すぐさま魔力を流し、戦える準備を整えた。

 警戒して周囲を見渡す私に、忽然と女性の声が降り注いだ。


「――あぁ、良かった。今度は無事に喚ぶことが出来て」


 慌てて声のほうを振り返る。

 確認したばかりのはずなのに、突然、何(・)の(・)兆(・)候(・)も(・)な(・)く(・)姿を現した女性。

 その怪しさに、緊張で思わず喉を鳴らした。


 目の前の女性が敵意はないと示すためか、両手を上げて力を抜く。

 害意はないらしいと少しばかり警戒心を下げるが、それ以上にいっそうの疑わしさを抱いた。なぜならば、その女性の顔を窺(・)い(・)知(・)る(・)こ(・)と(・)が(・)出(・)来(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)からだ。

 顔を下げている訳でも、水色の髪が覆い隠している訳でもない。魔法を使っている形跡も感じられなければ、私自身に異常がある訳でもなさそうだった。

 それにもかかわらず、どうしても彼女の顔を認識できない不条理に、私は内心頭を抱えていた。

 そんな私の心の内を見透かしたように、目の前の女性が問いかけてきた。


「顔、認識できないよね? ちょっと訳(・)あ(・)り(・)で、顔が見られなくなっているんだ。ごめんね」


 明るい口調で首を傾けた彼女。

 本当は手を合わせて謝りたかったらしく、掲げた両手がぴくりと動いた。

 あちらもどうしようもないのであれば、仕方ない。

 このままだと話しにくそうなので、私も構えを解いて矛を収めた。……もっとも、警戒自体はしたままだが。

 私の態度に、女性もゆっくりと腕を下ろしてありがとう、と告げた。


「ごめんね、色々不思議に思っているだろうけど、じゃべれない事ばかりなんだ」

「……何となく、分かりますから」

「ありがと。――とりあえず、自己紹介はしておくね。わたしはユタ・セイボル。訳(・)あ(・)り(・)の(・)お(・)姉(・)さ(・)ん(・)だよ」


 何ともな自己紹介に、私は苦笑を返した。

 つっこんで欲しそうだったが、ここはあえてスルーする。


「私の名は――」

「あぁ、こ(・)っ(・)ち(・)は把握しているから、紹介は不要だよ」


 こちらも名乗り返そうとして、ユタと名乗る女性が口を挟んだ。

 ……まぁ、私を強制転移させたぐらいだから、知って然るべしなのだろう。

 一先ずはこちらから質問を投げかける。


「いくつか尋ねたいことがあります」

「はいどうぞ。答えられる範囲で教えてあげるね」

「まず、ここはどこですか?」


 よく森の中に行くとはいえ、似たような光景ではここがどの国なのか判断が付かない。特徴的なものでもあればよかったのだが、生憎と目立つ存在は何一つとしてない、普通の森だった。

 場所によっては国に戻るのが大変である。

 目の前の女性が送ってくれるなら問題ないのだが、それは不可能だと、己の直感が告げる。

 私の質問に、彼女は首を軽く傾けた。


「異世界」

「はい?」

「だから、異世界。ここは、君のいた世界とは別(・)の(・)世(・)界(・)」

「……」


 嘘を言っている訳ではないのだろうが、彼女の言葉を飲み込めない。

 ゆっくりと首を巡らせても答えは出ない。

 あまり得意ではないが、周囲の魔素を調べても結果は変わらず。

 ややあって彼女に視線を戻しても、女性は首を反対側に倒すだけ。それ以上、言葉を発しない。


「……本当、ですか?」


 ありきたりな疑問が喉を出る。

 答えはすでに分かっていた。それでも、吐き出した言葉は戻らない。


「残念だけど、ほんと。証明も、そのうち分かるよとだけで、今は出せないかなぁ」


 腕を組んで悩む様子を見せる彼女に、「いえ、大丈夫です」と告げる。

 全く大丈夫ではなかったが、これも先に言っていた話(・)せ(・)な(・)い(・)こ(・)と(・)に抵触するのだろう。

 これ以上掘り下げても時間の無駄にしかならない。

 そんなことよりも、核心的な疑問を口にする。


「分かりました。……では、次の質問です。あなたは他(・)の(・)『十(・)傑(・)』の居場所をご存じですか?」


 私の質問で、彼女がにやりと笑った気配がした。

 顔が見られないのであくまで想像だが、その質問で彼女のひと房だけ異なる髪が揺れた。

 もったいぶったように女性が顔に手をあてる。

 しばらく視線を交わらせている。

 ようやく口を開いた女性が、重々しく告げた。


「……うん、知ってるよ。今いる子たちも、行(・)方(・)不(・)明(・)の(・)子(・)た(・)ち(・)も」


 ――やっぱりそうか。


 己の直感に従った質問だったが、間違っていなかったと浅く息を零した。

 ともすると、いなくなった四人の行方も、この世界なのかもしれない。

 視線を下げながら、どうすればこの情報を友へと届けられるかと思い悩む。

 彼らを待つ人々が大勢いるのだから。


「――正解」


 彼女の声に思わず目を見張る。

 私の心の声を聞いていたかのように告げられた言葉に、身の毛がよだつ。


「あー、ごめんね。怖がらせちゃったかな? でも、君の顔に書いてあっただけだよ」


 そう言われて反射的に顔に手をあてる。

 その様子が可笑しかったのか、忍び笑いが漏れていた。

 揶揄(からか)われた……?

 彼女の言葉の真意が掴めない。

 どうすることもできない私は、ただ無力感に苛まれていた。


「ごめんね? 笑うつもりはなかったんだけど、君の反応が面白くて、つい……。代わりに、ちょっとしたヒントをあげるよ。……ほんとは言うつもり、無かったんだけどね」


 両手を合わせて謝る彼女がと(・)あ(・)る(・)情(・)報(・)を口にした。


「それは本当なのかッ!?」

「ほんと、ほんと。嘘はつかないのが、わたしの信条なんだ」


 荒げた語気、崩れた口調を気にも留めず、彼女があっけらかんと言いのけた。

 しかし、彼女がすぐさま釘を刺す。


「でも、来たる時までは他の人にはナ(・)イ(・)シ(・)ョ(・)ね」

「――っ、どうしてですか?」

「口調はそのままでもよかったのに……。まぁ、そんなことは置いといて。――みんなに話しちゃうと、未来が変わっちゃうからね」


 まるで見て来たかのように宣う彼女は、小さく肩を竦(すく)めていた。

 ……彼女としても、不本意ではあるのだろう。

 やはり顔は窺い知れないが、彼女はきっと物憂げな表情を浮かべているのだろう。

 そして、すぐさま私は一つの真理を悟る。


 私(・)が(・)知(・)っ(・)た(・)と(・)こ(・)ろ(・)で(・)、望む未来には左右されないということか……。

 得も言われぬ敗北感を味わいながらも、静かに首肯した。



 ◆◆◆



「暗くなっちゃったけど、まだ質問はある?」


 あたりはまだ日が照っている。

 明るい口調の彼女に、首を縦に振って最後の問いを尋ねる。


「私たちを強制転移させた目的は何ですか? 我々に、何をさせたいというのですか?」


 真剣な眼差しで女性を見つめる。

 彼女はどうするべきかと悩んでいるようで、腕を組んで、うんうん唸っていた。

 しばらく待つと、ようやく答えを見出したのか、先ほどと変わらぬ口調で話した。


「やって欲しい事は、まぁいくつかあるんだけどね。目的のほうは、残念ながら言えないかなぁ」

「どうしてですか?」

「言ったところで理解を得られないからね。どうしても詳しく話せない事情に絡んできちゃうから、お(・)あ(・)ず(・)け(・)状態にさせちゃうし」


 ……今も、含んだ言い方の所為で似た状況に陥っているのだが、如何なものだろうか。

 そのことを指摘しても、女性は変わらぬ声で話せないと告げた。


「……はぁ、分かりました。これ以上は聞かないことにします」

「ごめんね、ありがと。話せる状況になったら教えるから、それまでは勘弁してちょうだい」


 おどけたように手を合わせて首を傾げる女性に、ため息をつく。


「とりあえず、話せるやって欲しい事は伝えておくね。君たちにやって欲しい事は――」


 耳に届いたはずなのに、どうしても彼女の言葉が思い出せない。

 顔を顰(しか)める私に、「あ、もう時(・)間(・)だ(・)!」と慌てた彼女が手を口に当てて叫ぶ。


「ごめん! たぶんしばらく思い出せないと思うけど、説明する時間がなくて――!」


 その言葉を最後に、私は気を失った……。


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