43話 襲われた村
アルシアたちは馬車に乗って南下していく。
街道を走っているだけだったが、毎日のように盗賊に襲われていた。
その都度撃退し、ついでに拠点も潰して回る。
ゼインが馬車から数キロ範囲をすべて索敵し、十人以上人の集まる場所に赴く。
大抵は盗賊だったが、一か所だけ逃げてきた村人たちがいた。
なんでも、村が盗賊に襲われたらしく、運よく逃げ延びた人たちだったようだ。
「なんとお礼をすればいいのやら……。生憎と持ち合わせが何もなくて――」
「お気になさらずに。私のやりたいようにやっただけですので」
「おお! なんと慈悲深いお方。このご恩、一生忘れませんっ――」
感極まって泣き出した男性。
その傍らにいる女性も深々と頭を下げている。
他の人たちも、アルシアを奉るかのように拝んでいた。
村人たちを見つけた際、大半の人が軽い怪我をしていた。
数人は裂傷や骨折をしており、中でもとある子供は傷口が化膿し、高熱を出して寝込んでいたほどだった。
それらすべてを癒したアルシアは、彼らにとっての救世主と言えた。
「あなた方の村はどちらにあるのですか?」
「ここから南西に四、五日行った所ですが、それがどうかしましたか?」
「ありがとうございます。良かったら、盗賊たちも退治しようかと思いまして。――ゼイン様」
アルシアに声を掛けられると、男の指した方角に顔を向けた。
「ふむ、いるな。……十五、八、四、十七、十一。遠くの三人や四人もそうか? とりあえず、今までで一番大きい盗賊団っぽいな」
漏れ聞こえた人数にキエラが反応する。
「それって村人も数えていないかしら?」
「男だけの数だ。捕まってるならそうかもしれないが、さすがにもういないんじゃないか?」
残酷な真実に男性たちは顔を曇らせる。
口から出まかせを言っていると思いたかったが、自分たちを助けてくれたアルシアが悲しそうな顔を浮かべていたので、口に出すのは憚られた。
村人たちの一人が、藁をもすがる気持ちで質問をした。
「――子供は残っているのでしょうか?」
「ああ、どっちもいる。一か所に固まってるから、閉じ込められてるんだろうな。……近くに男はいないがな」
ゼインの言葉で村の男性が全滅したことがほぼ確定した。
不幸中の幸いは、子供たちが生きていたことだろう。
男女ともにいるとなれば、商品として残されていたのかもしれない。
そんな考えに行き着きながらも、少しだけ安堵の表情を浮かべた。
「とっとと片付けるか」
「あら、私も行くわ」
「――いや、お前はここでアルシアたちの護衛に残れ。さすがに、な」
立ち上がったキエラに、ちらりと村人たちに目線をやって残るよう伝える。
ないとは思うが、この人数が一斉に襲いかかりでもしたら、リタたちでは防げないとみていた。
真っ向から来るなら問題ないだろうが、大人だけでも十四人が全方向から、しかも突然来るようなら手に余る。アルシアを確保されれば為す術はないだろう。
その点、キエラであれば魔法で余裕をもって対処できるうえ、即座に結界を展開すれば安全は確保されたも同然だった。
過保護ね、と呆れ半分に肩を落とす。
「貴方がいなくなるなら、索敵にも人が必要よね。守る人も増えたもの」
もっともらしいことを言いながら、キエラは了承する。
「終わったら呼ぶ」
それだけ言い残してゼインはどこかへと消え去った。
◆◆◆
突然いなくなった彼に村人たちはどよめく。
どこへ行ったのかと問いかけると、アルシアが一言「盗賊退治へ行きました」と笑顔で告げる。
半信半疑な彼らだったが、すぐに分かると言う彼女に、それ以上追及しなかった。
しばらくの間、誰も声を発せずに静寂が訪れる。
沈黙を破るよう、唐突な小枝を踏む音が聞こえてきた。
「ただいま」
「お疲れさまでした」
ものの数分で戻ってきたゼインに、アルシアが労いの言葉をかける。
驚きや怪訝な様子の村人たちを見たゼインは、彼らを放って話し始めた。
「さっき言った連中は全部盗賊だった――遠くに出ていた奴含めてな。盗賊の死体はすべて始末したが、村人らしき奴は残してある。生き残りや子供はそのまま置いてきた。今は広場に集めている」
「ありがとうございます。すぐに村へ行けますか?」
「あぁ、魔道具を置いてきた。こっちに来る前に馬車のセルマにも話はつけてきた。一緒に転移できる」
用意周到なことに、残してきたセルマにも連絡していたゼイン。
盗賊の拠点へは、最初の一度以降は全部ゼインの転移だよりだった。
今回も例にもれず転移で来ていたため、居残りのセルマへの連絡方法を考えていたところだった。
「分かりました。――みなさん、これから魔法でみなさんの村へと移動します。必要な荷物を持ってください。準備ができましたら移動しますので」
振り返ったアルシアが村人たちに説明する。
いまいち要領を得ない村人たちだったが、アルシアの言葉に素直に従って荷物を持つ。とはいっても、ほとんど着の身着のままだったのでそれほど時間がかからなかったが。
代表して準備が出来たと言う男性から、ゼインに顔を向ける。
「お願いします」
「あぁ」
ゼインが指を弾くと、周囲の景色が一瞬で変わった。
周りが騒然とする。
転移した彼らの目に映るのは、一部が倒壊しているが見慣れた村の風景。
驚きの声や泣き声に振り向くと、そこには見知った顔ぶれが並ぶ。
「お前たち――っ!」
「生きていたのねっ……」
「おじちゃん!」
口々に再会を喜ぶ声が聞こえた。
それぞれ抱きしめたり、手を取り合って泣き出したりと、しばらく収まりそうになかった。
彼ら彼女らに水を差す訳にもいかず、アルシアたちは静かにその様子を眺めるのだった。
◆◆◆
「この度は、本当にありがとうございましたっ――」
逃げ延びた男性が代表して言葉を紡ぐ。
他の面々も後ろで深々と頭を下げていた。
「いえ、もう少し早くに辿り着けていたらと思うと、残念でなりません」
あの後、村の中を見て回ったアルシアたちは、村人の男性陣の亡骸を発見した。
ゼインの言う通り、盗賊の死体は一つもなかったが、亡くなった彼らを見た村人たちは悲しみに暮れる。
生き残った村人たちも、盗賊の慰み者にされていた女性が多かったので、一層のやるせなさを感じていた。
そんな彼女たちに、せめてもとアルシアが色々と手を貸すことにした。
まずはキエラに頼んで浴槽を作ってもらった。
数日碌に水浴びもできない状況だった彼女たち。
死者を供養する前に、一度綺麗にしたほうがいいとの思いでお願いした。
都合の良さそうな場所を聞きながら、キエラは大きな大衆浴場を作り上げる。
土塊が勝手に積み重なっていく様子に、子供たちは興味津々に眺めていた。
その一方で、アルシアは怪我や体力の落ち込んだ人を見つけては回復魔法を施していく。
出来上がった浴場にお湯を張る。
子供と女性が体を綺麗にしている間、普段使いも考えて、取水・排水機構も敷設する。
流石にお湯にはできないだろうが、近くの川から水を引っ張って来れるように水路とため池を増設していた。
次に遺体を集めて火葬することにした。
この村では土葬が一般的であったが、三十人近くを一度に埋めるのは大変である。
魔法で埋めるという手もあったが、それなら火葬にしたほうがいいとなった。
失った者は戻らないが、一つの区切りとするために。
「骨は残したほうがいいのかしら?」
「そうですね。お手数でなければ、それぞれ誰の骨か分かるようにしていただけると助かります」
「形見にでもするの?」
「いえ、供養のためですね。お墓に入れたり、散骨したりします」
「ふ~ん、そうなのね」
あまり馴染みのないキエラには理解しにくいことだったが、言われた通りに行った。
火葬が終わると、誰からともなくお腹の鳴る音が聞こえた。
すぐさまリタたちが協力して食事を用意する。
供された料理に涙を流しながらも食べ進める村人たち。
食べ終わると、子供たちはそのまま寝てしまう子が多かった。
肉体的にも精神的にも辛かったのだろう。
身を寄せ合うようにして眠る様子は、どこか物悲しかった。
最後に、当座の資金と今後のための資材を渡した。
放棄するのかと尋ねると、どうにかして建て直したいと口を揃えて話した。
男での少なくなった村。
働き手が足りなく、生産力もガタ落ちとなっては当分の間厳しいことは目に見えている。
それでも、亡くなった者たちのためにもこの村を残したいと宣言する村人たちに、盗賊狩りで手に入れた物資を分け与えることにした。
幸い、盗賊たちの使っていた馬や荷馬車は数多く残っていたので、街までの足は問題なかった。
荷運びの手間を考えて、軽めの物を中心に渡していった。
「こんなにも頂けません!」
「いいんです。これぐらいしか協力できませんので」
遠慮する村人に、アルシアが愁いを帯びた目で強引に譲り渡した。
感極まる村人たち。
このままアルシアが信奉されそうな勢いだった。
「とりあえずこれでいいかしら?」
一仕事終えて戻ってきたキエラが確認を求めようとして、その光景に思わず足を止める。
目を瞬かせて、何事かとゼインに問いかけた。
「さぁ? 盗賊の戦利品をあげてたら、いつも間にかあんな感じになってた」
変なものを見るような目をするゼインと、その一言で理解したキエラ。
とりあえず絡まれないようにと、二人はそっとその場を離れていった。
◆◆◆
「私たちはこれで失礼します」
「本当に、ほんっとーうにありがとうございましたっ――!!」
村人総出で見送られながら、アルシアたちは馬車を走らせる。
見えなくなるまで頭を下げる者、手を大きく振り続ける者、感謝の言葉を叫ぶ者と人それぞれだった。
その後ろには、ついでとばかりにキエラが作った石壁と立派な門があった。
他にも大きな集会所も作っており、木造家屋の中でそれらはだいぶ浮いていた。
アルシアたちが発つ前、ゼインも食料の提供をしていた。
「とりあえずこれ。あとは近場には盗賊連中はいないし、これからも見つけ次第始末する予定だ」
これ、と言って指差されたのはレッドボア。
近く――と言っても数キロ離れていたが――にいた群れを狩ってきていた。
それを見たアルシアが「あとで冒険者ギルドに報告しないと……」と遠い目をし、リタに慰められていた。
都合四匹のレッドボアに村人たちは歓喜した。
Eランクの魔物とはいえ、村人たちからすれば高級品。
それが四匹もいるとなれば喜ばないはずは無かった。
血抜きや解体をして切り分けられ、一部は保存食へと加工された。
こうして、アルシアたちは村を後にした。
◆◆◆
村を出発してから二日。
今まで同様、ゼインが発見した盗賊の拠点は次々と潰していった。
襲いかかってくる盗賊も一様に始末して。
面倒がったゼインは盗賊を一人残らず生かしておかなかった。
盗賊の拠点を襲えば、どこかしらで囚われた人々を保護することになる。
謝礼のいらないアルシアたちは、保護した人の意志を確認して、その場で解放したり、近くの街に転移させたりした。
もちろん、幾らかのお金と荷物を渡して。
大半が女性だったこともあり、何も持たせずに放り出すことを良しとしなかったアルシアの意向だった。
そうした寄り道を挟みつつ、アルシア一行はゴルジ子爵領の領都カミロに辿り着いた。




