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六英雄キ -異世界編-  作者: 上野 鄭
第二章 遭遇

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29話 予期せぬ出会い

少し長いです。


※アルシア視点です。

「――さて、どうする?」


 悠然と告げるゼイン様は私に判断を仰ぎます。


 ――これはチャンスかもしれません。

 ゼイン様のお力を証明するために、一度冒険者ギルドに戻るのも手です。


 私のために実力を隠してきたゼイン様。

 王都の一件が辺境まで届いたことで、少しは改善したとはいえ、まだまだ彼を侮る方が見受けられます。

 最近になるまで気付けなかった私の落ち度でもありますが、内緒にしていたリタたちもあんまりです。三人で結託して私の耳に届かないようにするなんて、仲間外れのようで寂しかったです。

 リタたちにはゼイン様の名誉回復に協力してもらうことで手を打ちました。……あまりうまくいってはいませんが。


 今回のことはいい機会です。

 頭の中でそろばんを弾き、ゼイン様を見つめ返しました。


「一度ギルドに戻りましょう」

「ほう、なぜ?」

「仮にここで解決したとして、“魔物の異常行動”との関係を証明する手立てがないからです。主犯がこの先に居ればいいですが、留守ですといよいよ難しくなりますから」

「術者ならこの奥にいるぞ。ざっと四キロ先に」


 まさかの情報に言葉が詰まります。

 さすがゼイン様と感心する反面、せっかくの機会が……、ともやもやした気持ちも湧き上がります。


「……それでも一度ギルドに戻りましょう。第三者がいたほうが説得力も増しますので」


 苦し紛れの意見を絞り出します。

 逡巡(しゅんじゅん)していたかのように目を伏せて、もっともらしい理由をこじつけて。

 幸い、ゼイン様は特に気にされた様子もなく、素直に了解を得られました。


「なら、とっとと戻るか」


 すぐに転移で戻れるようにと、木陰に魔道具を設置されていました。

 そのまま、ゼイン様の転移で私たちはギルドへと戻りました。



 ◆◆◆



 ギルドに到着すると、ブリジットさんを探します。

 私たちに気付かれると、驚いた表情でこちらを見ていました。

 それも束の間、すぐに察したようで別室に案内されました。


「何か手がかりがありましたか?」


 部屋に入ると挨拶もそこそこに端的に聞かれました。

 私は(うなず)いて、ゼイン様に説明するよう促します。


「森の中で“人払いの結界”を見つけた。直接的な原因でないだろうが、事情を知ってそうな奴が潜んでいる可能性がある」

「失礼ですが、その結界の根拠は何ですか? 今までそのような報告は聞いたことがありません」

「私たちは惑わされましたが、ゼイン様だけ正常な道を辿れていました」

「なるほど……」


 ブリジットさんには事前にゼイン様の能力の一部を伝えてあります。

 状態異常が効かないこともご存じなので納得いただけた様子です。

 指をあごに添えて考えていたブリジットさんが、断りを入れて部屋を離れます。

 数分後、ギルドマスターのリカード様を伴って姿を見せました。


「久しいな。――単刀直入に聞くぞ。結界の中の()()()が怪しいか?」


 リカード様は魔物の異常行動の首謀者かとゼイン様の見解を尋ねます。


「どうだろうな。とはいえ、他に手がかりはないし、あんなところで結界を張るぐらいだ。後ろ暗い()()はあるんだろうよ」

「そうだろうな。……問題は誰が捕まえるかだな」


 腕を組んで考え込むリカード様。

 ちらりと私に視線を配ります。


「でしたら、ゼイン様に活躍していただきましょう!」


 お膳立てしていただいたチャンスに乗って、名案とばかりに手を叩いて告げました。


「俺は――」

「よろしいので?」


 否定しようとしたゼイン様を阻んでリカード様が大きな声を上げます。

 こちらの意図を汲んでいただいて大変助かります。さすが、ギルドマスターと支部長を兼任していらっしゃる方です。

 確かめるように私を横目で見たゼイン様はすぐに気づいて小さなため息を漏らしました。

 それに構わず、話を進めます。


「はい。私事の心配はおかげさまで無くなりました。ゼイン様の実力を隠す意味も晴れて無くなりましたので、大手を振って実力を示せます」

「……別に目立たなくていい」


 私の言葉でぼそりと(すね)ねた呟きをしました。

 そんなゼイン様の手を取って目を合わせます。


「私は――私たちはゼイン様が過小評価される現状をよく思っていません。……私が原因でしたから、こんなことを言える義理ではありませんが、それでも言わせてください。――ゼイン様のお力を、その勇姿を、皆に示してください。こんなに凄いんだって見せつけてください」

「そんなことをして何の意味がある?」


 案の定、ゼイン様は(いぶか)し気に問いただしました。

 そんな彼へ、力を込めて言い放ちます。


「私が喜びます! ……あとは厄介ごとが減るかもしれません」


 前半だけで言い切れば恰好がついたというのに、途中で気後れしてしまって、ごにょごにょと言い訳がましいことが口から漏れてしまった。

 視界の端のリタたちが、ちょっとだけ残念そうに見つめていたのは気のせいだったのでしょうか……。

 私の言い分に眉を吊り上げていたゼイン様でしたが、おもむろに鼻を鳴らして相好を崩しました。


「――わかった。自ら喧伝する気はさらさらないが、それでも良ければ」

「はいっ!」


 ゼイン様の言葉に思わず笑顔で肯定しました。

 そんな私を見るゼイン様の目が、幼子を見守るように生暖かかったのだけは解せませんでしたが……。


「――そういうことなら、ギルドから人をやろう。護衛も含めてな」


 リカード様が話を進めます。


「護衛はいらない。数人程度なら俺が全部面倒をみる」

「いや、冒険者を連れて行ってくれ。そのほうが信憑性(しんぴょうせい)も高まる」


 きっとゼイン様の実力に関してを指していたと思うのですが、ゼイン様は結界のことと勘違いした様子でした。


「ふーん、そんなものか。何人いても大差ないからいいけどな。移動は俺が転移で運ぶ。場所は中層手前の休憩スペースだ」


 ゼイン様に補足するようにリタが座標を示します。

 そこからは話が早く、小一時間ほどで準備が整いました。


 冒険者ギルドからはブリジットさんとその上司の男性のお二人が。

 その護衛にBランクパーティ「銀嶺(ぎんれい)の鐘」の四名が同行するそうです。

 パーティリーダーのルネさんと挨拶を交わします。


「今回はよろしく、お嬢さん」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 ルネさんのパーティは男女二名ずつで、ルネさんとヘレナさんとおっしゃる方がブリジットさんの護衛につくそうです。

 ヘレナさん以外がBランク冒険者とのことで、勉強になりますと告げると苦笑されました。


「ハハハ、褒めてくれるのは光栄だけど、()()()()には遠く及ばないよ」


 壁に背を預けて瞑目(めいもく)するゼイン様にちらりと視線を送り、肩を(すく)めるルネさん。

 彼女は言外にゼイン様には敵わないと伝えていた。


「ご存じなのですか?」

「いや何も知らないさ。ただ、一目見た時から何となく気付いてはいたよ。あたしの勘だけどね」


 その時の勘は間違っていなかったさ、と嘆息交じりに話すルネさん。

 高ランクの冒険者の勘は馬鹿にできないとリタたちが話していました。きっとこの方たちのような冒険者がたくさんいるのでしょう。

 私もその境地に至れるぐらいには実力を付けたいものです。

 そんな決意を胸に秘め、挨拶を終えた皆さまと合流しました。


「――皆、よろしく頼むぞ」


 リカード様に見送られながら、合計十一名の臨時パーティは転移で「誘いの森」へと向かいました。



 ◆◆◆



 中層の手前にやってきました。


「ここはまだ結界範囲外だ。あと五歩の距離に張ってある」


 ゼイン様の説明にルネさんたちがそれぞれ確認に動き出しました。

 今はまだ結界に入らないようにと言い含められていましたので、皆さんそれに従って周囲を調べています。

 確認が終わるとギルドから持ち出した魔道具を使って再度周辺を調べていました。


「何も分からないな」

「こっちも異常ありません」


 ブリジットさんたちギルドのお二人は魔道具の様子を確認していましたが、異常は無かったご様子です。


「変な痕跡はないな」

「罠の類も見当たりません」

「ダメですね。私も分かりません」

「あたしも特に変な感じはしなかったな」


 ルネさんのパーティも男性方が物理的な痕跡を探されていましたが何もなかったそうです。

 ヘレナさんは魔法使いらしく、魔法で調べてもダメ、ルネさんも違和感を感じなかったそうです。

 一度集合すると、全員の疑わしそうな目がゼイン様に集まります。


「なら、このまま進むぞ。十歩進んだところで止まって振り返ってみろ」


 皆さんの態度を気にせず、ゼイン様は淡々と告げました。

 私たちはこの場で留まるよう言われました。

 どうしてかと首を横にすると、「すぐ分かる」とだけ言い残して、ルネさんたちと歩いて行ってしまいました。

 ゼイン様のお言葉はすぐ理解できました。


 歩き出してちょうど三歩目。

 結界が張ってあるとおっしゃった距離になると、ルネさんたちが急に身を翻してこちらに向かって歩き始めました。


「これは……」

「私たちもこんなんだったんすね」

「傍から見ると不思議な光景だ」


 リタたちも驚きの声を上げています。

 反転したルネさんたちは私たちには目もくれず、横を通り過ぎていきました。

 そのまま十歩目を歩き終えたルネさんたちが振り返ると、私たちが後ろにいることに驚きを隠せないご様子でした。


「えっ……どういうこと?」

「確かにまっすぐ進んでいたはずだよな?」

「うん、地面に線を描きながら進んでたから間違いない」

「そうだよね。でも、ゼインさんはもっと先にいるし……」


 ルネさんたちは困惑したまま意見を出し合っています。

 ブリジットさんたちは信じられないものを見たように固まっていました。


「言っただろ?」


 戻ってきたゼイン様がルネさんたちに話しかけます。


「……未だに信じ難いですが、身をもって証明されると何も言えないですね」

「で、どうする?」


 視線がギルド職員のお二人に集まります。

 相談しながらブリジットさんが代表して質問を投げかけます。


「結論を出す前に幾つか質問をさせてください。この結界は破れますか?」

「問題ない」

「破ったことは相手に知られますか?」

「このぐらいの高度な結界が張れる相手だ。すぐにバレるだろうな」

「相手の位置は把握できていますか?」

「分かってる。逃げても捕捉できてるから取り逃がしはない」

「転移で皆を目の前まで移動することは可能ですか?」

「出来るがこの距離だ。数人は魔力酔いするだろうな」

「なるほど」

「魔道具の予備があるから、先にそれを打ち込めば問題ない。ただ、奇襲は不可能になるだろうがな」

「……」


 ゼイン様の説明に静かに考え込んでしまった。

 小声で二言三言男性職員と確認を取ると、ブリジットさんが口を開きました。


「――ゼイン様の負担が大きくなりますが、魔道具を先に設置してから皆で乗り込みましょう。奇襲される可能性もありますが……」

「大丈夫だ。()()()()()()()


 ブリジットさんはそこで言葉を切ってゼイン様に視線を向けると、なんてことないように言い切りました。


「――とのことですので、彼に任せましょう。異論はありますか?」


 ブリジットさんが全員を見渡します。

 誰も異論はないようで、頷きを返しました。

 最後に、私へ顔を向けた彼女に力強く頷きました。


「準備が整い次第、ゼイン様お願いします」

「俺はいつでもいいぞ」


 ゼイン様の言葉にそれぞれが装備などの点検を始めました。

 そんな中、リタが静かにゼイン様に近寄りました。


「……ゼイン様、可能であれば転移する地形を選べないでしょうか?」

「どんな場所がいいんだ?」

「相手とある程度距離を空けて、かつ周囲は開けている場所が好ましいです。欲を言えば背後に木々等の障害物があると助かります」


 リタの注文に少しだけ考えるゼイン様。


「さすがに今は細かい地形までは分からないから、結界を壊す衝撃に紛れて探っておく」

「ありがとうございます」


 礼をして離れていくリタ。

 今度は準備を終えたルネさんがゼイン様に質問をしました。


「この結界のお相手はどのぐらいの距離にいるんだい?」

「ここから四キロぐらい。そこにある塔に住んでるみたいだ」

「塔? そんなものあったかなぁ」


 腕を組みながら記憶を探してルネさんは視線を動かします。

 そんなこんなで全員の準備が整いました。


「先に言っておくが、結界を破った後は間を置かずに転移する。一応、分かりやすいように指を鳴らす。それが合図だ」


 ゼイン様は結界を向きながら顔だけで私たちを振り返って告げました。

 皆さん静かに頷きました。


「じゃあ、いくぞ」


 掛け声とともにゼイン様は音もなく結界を破きます。

 私はそのときに発生した魔力の揺らぎを何となく感じ取れました。

 自分の成長を噛みしめる余韻もないまま、小気味いい音が鳴り響きます。


 パチン――。


 指の鳴る音と共に目の前の景色が紙芝居のように変化します。


 後で聞きましたが、この時ゼイン様は魔道具だけを先に転移させた後に指を鳴らしたそうです。結界を破ってから全員が移動するまでに二秒と掛けなかったとも。

 本当はほぼ同時に行いたかったそうですが、急な魔力変化に体調を崩す人がいるかもしれないからと聞いて心が温かくなりました。


 目の前に現れたのは、石造りで出来た三階建ての塔。

 数メートル先には玄関と思わしき扉が一つ。

 後ろは木々が生い茂っていて、塔の周辺だけ綺麗に整地されていました。


 こっそりとゼイン様を盗み見ると、目を細めて不可解そうな表情を浮かべていました。

 どうしたのでしょうか……?

 そんな心の声は、正面の扉から音が聞こえたことで消えてしまいました。

 皆さんが警戒する中、正面の扉がゆっくりと開きました。


 扉から現れたのは、漆黒に染められた煽情的(せんじょうてき)なマーメイドドレスを着た女性でした。

 そう感じるのは、彼女の肉付きの良さと腰の細さも相まって、胸やお尻がとても強調されて蠱惑的(こわくてき)だったからかもしれません。

 彼女は女性にしては長身で、私たちで一番背の高いセルマよりも十センチは高く感じました。足元のピンが細くて高いヒールのせいもあるかもしれません。


「――あら、お客さんなんて珍しいわね」


 鈴を転がしたような声の彼女が、腕を組んで扉に寄りかかりました。

 彼女の動きに合わせて、夜空を連想させる腰まで伸びた髪が静かになびきます。

 澄んだ青紫色の瞳が私たちを順番に通り過ぎます。

 ふと、視線がゼイン様に向かうと探るように留まります。

 何かに気付いたように目を丸くすると、彼女は前のめりになりました。


「ゼイン……? 貴方、ゼインじゃない!」


 どこか嬉しそうに彼の名前を呼ぶ女性。

 おそるおそるゼイン様を見上げる。

 彼は渋面を浮かべて小さく零した。


「『孤絶(こぜつ)』がなぜここに……」


 その一言で言いようのない不安に襲われた。


きっちりと決めてないですが、主人公たちの身長を置いておきますね。


ゼイン  一六〇後半

アルシア 一五〇前半

リタ   一六〇後半

ネリー  一六〇前半

セルマ  一七〇前半

「孤絶」 一七〇後半

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