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まるでウェディングドレスみたい。
メラニー様が着させてくださったドレスを見下ろしながら、心の中で呟いた。
メラニー様が用意してくださったのはキラキラとした金色の粒が散りばめられていて、真っ白い不思議な光沢を放つ手触りのいい布で作られたドレス。顔を隠すヴェールは細やかな意匠のレースで作られていて、このヴェールには顔がわからなくなる魔法がかかっているらしい。
とてもお金がかかってる。王子妃になるはずだった私でさえ、ここまで素敵なものは着たことがない。
そもそもこのドレスはどんな布で作られているのかしら? 不思議。いつまでも触っていたくなる。
それに金色の粒。カムイ様の目のようでとても素敵だけど、これはなんていう宝石なのかしら? 初めて見るわ。小さくて、キラキラとしていて、けれど決して安っぽくは見えない。むしろなんだかとても上品に感じる。
「番様……なんてお美しい……」
メラニー様が着飾った私をうっとりと見つめる。
私が美しいというより衣装が素敵なのだと思うけれど、その言葉は素直に嬉しい。「ありがとう」と微笑めば、メラニー様は興奮したように白い肌を赤く染めた。
「早く白龍様に見せてさしあげましょう。きっと、白龍様もお気に召します」
「そうだと嬉しいのだわ」
少しうきうきと心を弾ませながら、メラニー様に手を引いてもらって、隣室に待機しているカムイ様の元に向かった。
「わがつが、」
「カムイ様、その、どうですか?」
カムイ様の元に姿を見せると、カムイ様が腕を広げて私に近づいてきた。それに嬉しくなって微笑むと、何故かカムイ様がその状態で固まってしまった。
カムイ様のお気には召さなかったのだろうか。
私はとても素敵だと思ったのだけど、カムイ様は気に入らなかったのかもしれない。
「お、おお、おおお……」
カムイ様が言葉を失っている。
「なんと……」
「あ、あの、カムイ様……、やっぱり今からでも違うドレスを……」
「んむっ! そのドレスは気に入らぬのか?」
「私はとても気に入りましたが、カムイ様が気に入られないのでは?」
「そんなわけないだろう!」
とっても力強く、カムイ様が机を叩く。びっくりして目を丸くすると、カムイ様は私の様子に気がついて、あわてて首を振った。
「そなたがかわいすぎて、その姿を誰にも見せたくないのだ……」
「ほんとですの?」
「かわいいというより美しい……。そなたは本当にどこまで我を虜にするのだ……。かわいくて美しいとは最強では……?」
うっとりと言われてなんだか気恥ずかしくなって俯く。
今、絶対顔が赤い。カムイ様のお言葉は嬉しいのだけど、あまりにも直球過ぎてどう返事をしていいのかわからなくなってしまう。
「これで、カムイ様の隣に立っても少しは見れるようになったかしら……」
「なんと。そんなことを気にしていたのか」
少しだけ呆れを含んだ声。カムイ様は全然気にしないかもしれないけど、周りはそうじゃない。周りから見てもカムイ様に相応しい私でありたいから。
そう言おうとする前に、カムイ様の言葉が続いた。
「我の今の造形は作られたものだ。見せかけだけの姿と釣り合おうとなどしなくてもよい。それにベルはとても美しい。我と逢わずに人間たちの中にいれば、多くの男たちから求婚されただろう美しさだ。性格も造形も良くて、誰が放っておくか」
「カムイ様……」
「だが、もうそなたは我の番。誰がなんと言おうと、それがそなたであっても、そしてそれがそなたの幸せになろうとも、そなたをこの手から逃すことはしない」
カムイ様は本当にそう思って言ってくれている。
信じたい。
そう思ってるのに、どうして私はこんなに不安に思ってしまうのだろう。
まっすぐに私を見つめるカムイ様の瞳から逃げるように目を閉じてカムイ様の逞しい身体に抱き着く。ぎゅ、と私が強くこれ以上ないくらい抱き締めても、カムイ様はびくともしない。
「カムイ様のこと、すきです」
「んむぅ……」
カムイ様のためなら死んでもいい。
もう私の心にエドガー様はいない。きっと会ったら寂しく思うのだろうけど、今の私にはカムイ様がいる。
そもそももうエドガー様と会うことはないだろう。きっと、お父様ともお母様とも。でもそれでもいい。それでカムイ様と一緒にいられるなら、それで。
「白龍様、ここではいけませんよ」
「わかってはおる、わかってはおるが……たまらぬ」
優しく私を抱き締め返してくれるカムイ様にホッとする。
私は一人じゃない。私にはカムイ様がいるんだって安心できる。もうカムイ様以外なにもいらない。
「白龍様、わたくしはこれで失礼いたします。お披露目には時間がありますので、それまではお二人でどうぞ」
「んむ」
「……ただし、先には行き過ぎないようにしてくださいまし」
「わかっておる!」
先には、ってきっとその、身体の関係は持たないように、ってことだよね……。
メラニー様の言葉に恥ずかしくなりながら、カムイ様の腕の中に顔を埋める。
カムイ様の人型のときはなんだかひんやりと冷たい肌をしている。普段の龍のお姿のときは温かいのに。きっとそれがカムイ様の作られた造形という言葉の意味なのだろう。
「あの、カムイ様。本当に似合っておりますか?」
「もちろんだ。あぁ……誰にも見せずに閉じ込めておきたい……」
私の言葉にしっかりと頷いたあと、うっとりとカムイ様が呟いた言葉に少しだけたじろぐ。
そうすると、カムイ様は慌てたようにぴったりとカムイ様の胸に引っ付いていた私を引き剥がして口を開いた。
「ち、違うのだぞ! これは、その、そなたを監禁したいとか、鎖で繋いでおきたいとか、そういった欲求ではなく!」
どうしてだかとても慌てるカムイ様に私は首を傾げる。
「カムイ様?」
「……すまない。人間の娘は監禁すると弱ると本で読んだ。大丈夫だ。我はルビリアをそのような目には合わさぬ」
「カムイ様……」
グッとなにかを耐えるように私の肩を強く掴むカムイ様の手。
そんな本、どこにあったのだろう?
「私は、カムイ様に監禁されたらきっと嬉しいです」
「ルビリア、そなた、そんな。我を喜ばそうと嘘など」
やめて、私の気持ちを否定しないで。
そう思ったら自然とカムイ様の口に手を合わせて、カムイ様の言葉を止めていた。
「嘘ではありません。カムイ様のこと好きだから、私はカムイ様にならなにをされても嬉しいし、二人きりになれることほど幸せなことってないのだわ」
誰にも邪魔されない。誰にも奪われない。そんな世界は幸せ以外なにものでもない。
もしもカムイ様が監禁したいというならそれでもいい。カムイ様がずっと私といてくれるのなら、だけど。
「嘘では、ないのだな?」
「はい。カムイ様と二人きりになれるのなら」
私の本音。
「う、ううううう愛い奴めーーっっ!」
「あぅっ」
ギュッとカムイ様に力強く抱き締められて、私の意識は遠くに飛んだ。
なんだか焦ったカムイ様とメラニー様の声が聴こえたけど、とっても幸せだった。




