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「番様、どうかそのベールは外さないでくださいまし。番様のお顔が他の男性たちに見られたとなったら、白龍様のお怒りがどれだけの被害を生むかわかりませんので」
メラニー様に念を押すように言われてこくこくと頷く。
すでに場所は城の中。カムイ様から出来る限り声を出さないようにとお願いされている。
抱きしめられて、気絶したのは一瞬だけだった。カムイ様がすぐに気付いて離してくださったからだと思う。
優しいカムイ様にますます胸の高鳴りが誤魔化せない。
「ベル、行こうか」
カムイ様が私の腰に手を回す。どきりと心臓が跳ね上がって、それから言葉でなにも言えない代わりにその手に自分の手を重ねた。
緊張してる。だけど、大丈夫。そんな気がする。だって、カムイ様が隣にいる。
カムイ様が隣にいれば、怖いことなんてない。
──そう、なにも。
しん、と静まり返った大広間。大広間はどうしてだか天井が空いていて、青空が広がっている。雨が降ったら大変なのでは、と思ってしまうのは仕方ないことだと思う。大広間自体はとても広くて、おそらく龍のお姿のカムイ様が300人は入りそうなほどだ。広過ぎて、扉のほうが全く見えない。
上座には七つの椅子が用意されていて、その椅子には昨日お会いしたリュウザン様と、それからリュウカイ様がいらっしゃる。他の方々に見覚えはないけど、おそらくカムイ様たちと同じ存在なのだろう。どの方も人外染みた顔立ちで、どこか冷めた印象を受ける。
下座にはドラゴンと、人の姿をしたドラゴン族たち。下座にいる人たちはみんな頭を下げていた。
なんだか、怖い。
私とカムイ様が揃って残されている中央の椅子に座ると、カムイ様が右手を上げて合図する。頭を下げている人たちが一斉に顔を上げた。
「ぇ……」
見知った顔があって、思わず声が出てしまった。
「皆の者、よく集まった。この場には様々な種族が集まっているが、決して無駄な争いはせぬよう最初に伝えておく」
リュウカイ様の宣言の言葉。静まり返った会場にはリュウカイ様のお声がよく響く。
リュウカイ様はこの祭りの概要を話しているけど、うまく頭に入ってこない。それよりどうしてあの人たちがここにいるのか、そっちの疑問の方が強い。
あの人たちだけじゃない。よく見れば私の知っている人たちは他にもいる。
ドラゴン族だけが集まっているんじゃない。この場には人族の王族たちも、他の種族の人たちもみんな集まってるんだ。
「──そして、この度は嬉しい報告もある。龍族族長リュウセン・ホワイディアに番が出来た。我ら龍族が番と出逢えるのは奇跡に等しい出来事である。此度の聖世祭の時期にこのような慶事に恵まれ龍族として大変嬉しく思う。番に対する詮索は一切不要。詮索するものはリュウセン・ホワイディアだけでなく、我ら龍族をも敵に回すと理解せよ」
リュウカイ様はそう締めると、カムイ様と目を合わせてこくりと頷く。二人の間でなにがあったのかはわからないけど、カムイ様はその視線を受けて頷くと私の手を取り立ち上がった。
「我、リュウセン・ホワイディアが聖世祭の始まりを宣言する!」
カムイ様がそう宣言なさったとたん、外でなにやら大きな爆発音。驚いてカムイ様に抱き着くと、小さな声で「花火だ。安心せよ」と言われる。
花火って……、あの花火? そう思って切り抜かれている天井へと目を向けると、なにやら明るい花が青空に咲いていて驚いてしまう。
すごい。前世の記憶の通りのものなら、あれは夜にやって綺麗に見えるはずなのに。真昼間からでも全然綺麗。これは魔法なのかしら。すごい。
「では、我らはもう行く」
「リュウセン、まだ始まったばかりだ」
「挨拶はしたであろう。我がこれ以上残る必要などないと思うが」
「開催の挨拶はしたが、今度は各国の種族たちが個別に来る」
「我ではなくおぬしらがいればそれでいいだろう」
「龍族の長だろう、リュウセン」
「そんなものおぬしにくれてやる」
「……番にいいところを見せなくてもよいのか」
カムイ様はグッと言葉に詰まって、私を見つめた。
今までの会話からきっとカムイ様はいたほうがいいのだと思うけど、私は関係ないんじゃないんじゃないかと思う。
……カムイ様が他の人と仲良く談笑してる姿は見たくないな。
チリ、と醜い嫉妬心が現れて慌ててそれをかき消す。
「カムイ様、頑張ってください」
「んむぅ……」
私の言葉にカムイ様は不満そうに唇を尖らせる。それからリュウカイ様を見て、カムイ様の視線を受けたリュウセン様は大きなため息を吐いた。
「番殿と一緒にいればいい。お前が玉座に座るならなにも言わない。番殿がどこにいようがな」
「それなら仕方あるまい。ベル、我の膝の上に」
「……えっ?」
なにかを言う前にお腹にカムイ様の腕が回る。あ、と思ったときにはカムイ様の膝の上にいた。
「あ、あのっ……カムイ様……?」
「ベルは我の番だからな。離れていたら番だと理解されず手を出されてしまうかもしれない」
そんなことはないと思う。
すりすりと首筋に擦り寄ってくるカムイ様のサラサラの髪にくすぐったさを覚えながら心の中で呟く。
先程あれほど盛大にリュウカイ様がご紹介してくださったし、まさか手を出す人はいないと思う。ましてや顔も隠してる女に。
「私は先にお部屋に戻ったほうがよいのでは?」
「ベルと離れるならば我は寂しくて死んでしまう。一緒にいてはダメか?」
そう言ってカムイ様は私の胸に顔を埋める形で上目遣いをされる。
カムイ様ったらずるい。かっこよくてかわいいだなんて。思わずぎゅーっとカムイ様の頭を抱きしめて、「ダメじゃないです」なんて言ってしまう。
だって、こんな甘やかしたくなるお顔。まるで捨てられた子犬のようで。よしよし、とカムイ様の髪を梳くように撫でていると、カムイ様が声を出した。
「……ベル」
「はい?」
「我的にはとても嬉しいのだが、その、やはり少々刺激が強すぎるのではないかと我は思う……」
そう言いながらも堪能するように私の胸の谷間に顔を押し付けるカムイ様にボンッと顔が真っ赤に染まって、慌ててカムイ様のお顔を離した。
「そんな勢いよく離さずとも……」なんてカムイ様が呟いてるけど、でも、だけど、カムイ様にこんなはしたないことをしてたなんて。しかも大勢いる前で。セイリュウ様なんてわざわざをこちらを見ないようにわざとらしくそっぽ向いてる。いいえ、それは他の龍様たちもだわ。
「……リュウセン」
「なんだ?」
「そろそろ黙ってもらってもいいか? お前は話すと、なんというか、ダメだ」
「そうか」
すん、と黙り込んだカムイ様だけど、どこか拗ねたような顔をしてる気がする。リュウカイ様、とても容赦がないのね。驚いた。
「では、加護を受ける六龍の元へ並べ」
今からなにが起こるんだろう。少しだけドキドキした。




