#29:決戦前
いよいよ魔王が……!?
それから、俺たちはしばらく訓練を続けた。魔物を 刈ってレベルを上げをしていた。王城に行き、5日が経過した。
突然、何かよくない予感がした。気を抜けば一瞬で感じられなくなりそうなほどの不安。しかし、とてつもなく嫌なことが起こるのではないかとそう感じた。
「カケル君!魔王が復活しそう」
「いよいよなのね、ライリー」
ライリーがそう言うと、胡桃が落ち着きながら彼女に確認した。すると、ライリーは表情を暗くした。
「うん……この感じだと前に私が倒した時より確実に強くなってる」
「……でも前回とは違う」
「そうねぇ、お姉さんたちがいるんだからもっと頼りなさい?」
「影音ちゃん、恵令奈さん。うん、力を貸して」
そんな彼女たちを横目に、エマがひっそりと俺に話しかけてきた。
「良かったですね、ライリーさん気にしていたみたいですから」
「ああ、そうだな」
彼女はこの世界の住人ではない俺たちに戦いを背負わせたくなかったみたいだ。相手は以前戦った時よりも強くなっている。以前は何とか勝てたみたいだが、そんな相手と戦うのだから余計にそう感じてしまっていたのだろう。
俺自身が何か声をかけようかと思っていたんだけど、どうやらその心配はなかったみたいだ。
「これから決戦ですね、佐山君」
「そうですね。新条先輩と暁先生は特に気を付けてください」
「その時はカッコいいナイト君が守ってくれるんでしょ?ねぇ、芹香ちゃん」
「ふぇっ!?」
そう言うと二人は俺の方を見てきた。一人はにやにやとした笑みを浮かべながら、もう一人は恥ずかしそうな表情をしていた。
「……ああ、勿論だ」
俺は恥ずかしさをごまかしながらそう言った。
「恥ずかしがってないで、翔」
「ああ、悪い」
しかしながら、胡桃の一声で俺は真剣な表情へと戻した。彼女たちは、俺たちと違う。俺たちはVRMMOの試作として飛ばされたため、よほどのバグが起きていない限りこの体はアバターである。
しかし、異世界召喚された二人は違う。俺たちは死んでもおそらく大丈夫だとは思うが、二人は違う。体そのものも転移させられているため、こっちでの死は現実世界での死を意味する。
「大丈夫だ、二人は俺たちが守る」
「ええ、任せといてください」
俺と胡桃は新条先生と暁先生にそう言った。
「頑張ってくださいね、先輩。……敵は私たちで倒しますから。先輩たちのもとへ何て絶対に行かせません」
そんな俺らを見て、未来がいつになく真面目に言った。こういう時の彼女は頼もしい。
「私の方も準備は終わりました。ライリーさんから聞いた情報をもとにいくつか未来さんが使えそうなものと、簡単な戦闘機も作っておきました」
「……流石エマ。私も影の力は使える」
「お姉さんも大丈夫よぉ」
「みんな準備はできてるみたいだな」
「分かった。えーと、魔王城には転移防止の結界が貼られているみたい。だから、魔王城がある城下町にテレポートするね」
まもなく復活といったところだろうか。しかし、既に転移防止の結界は貼られているとのことだった。
「敵の本拠地の近くだから。みんな気を引き締めてね」
ライリーは俺たちの姿を魔法で隠した後、『テレポート』で魔王城のある街へとワープした。
「……みんなついてきて」
ライリーは小さな声でそう言った。俺たちは、彼女の後をついていった。
しかし、人間の住む街とそこまでの違いはなさそうだった。見た目が少し違ったりはするものの、商売が活発に行われている。ただし空は薄暗く、街の外に出れば不気味な雰囲気を醸し出すような雰囲気がある。
ライリーの魔法を前にして、誰一人気づくこともなく、真っ黒な建物の前についた。そこは、周囲の建物とは桁違いに大きかった。
「ここが、魔王城」
ライリーは振り返って、そう言うと再び魔王城の方へと目を向けた。その時、先ほど嫌な予感が強くなったのを感じた。
「これは、魔王が復活する。みんな、行くよ!?」
「ああ」
ライリーを先頭に、俺たちは駆け足で魔王城の中へと入っていった。