3-1
ssです。皆様の評価、ブクマに感謝して。
「こんにちは、ユーラック様。本日はお招きいただきありがとうございます。つまらない物ですが、どうぞ」
「アンリ、着いたのかい?いらっしゃい。お土産ありがとう。その辺に置いておいて」
「その辺……」
「うん、お菓子でしょ。後で食べようね。それより、アンリが来るのを待ちわびていたんだ」
今日はジュリーの屋敷に招待された。折角ちゃんと挨拶をしようと思ったのに、ジュリーは相変わらずだった。もう私の前では良い外面をつくるつもりもないらしい。私に気を許してるってことで嬉しいのだけど。
「せっかくだし、屋敷を案内しますよ。おいで」
ジュリーが見せたいものがあると言って、私をバルコニーへ連れ出した。
「綺麗でしょう?このバルコニーからは街が一望できるんだ」
「ええ、素敵ですね。風も気持ちが良いです」
さすが侯爵家。こんな小高い好立地な場所に立派な屋敷を持っているが、維持費もかなり掛かるだろうなと詮もないことを考える。というか、そうでもしないとさり気なく私の隣、それも至近距離に立っている彼を意識してしまって、まともに言葉も紡げない。
「ん?向こうを歩いてるのは、あいつらじゃないか。おーい」
ジュリーが屋敷の前の道を歩く二人組の男性に目を留めて、手を振った。
「ご友人ですか?」
「うん。友人というか、昔から良くつるんでいた悪友だけどね。近衛騎士団のユアンとエルンストだ。あれでも一応期待の若手らしいよ。知ってる?」
「ええ、以前お父様の代理で書類を届けたことがありまして、そのときにお会いしました」
「近衛騎士団に?ちょっと文官の管轄外な気もしますが」
「なんでも、騎士団の財政が大赤字で手に負えないから管理してもらえないかと、団長様に頼まれたそうです」
こうしてお父様はどこからか余計な仕事を拾ってくるから、机の上に書類の山ができてしまう。そして、アンリがその被害に巻き込まれる。いつものことだ。
「ああ、アンリの父上ならありえるね」
「そのときに、あの二人が頻繁に剣をなくしたり器物損壊することが原因だと発覚しまして。父上の書状とともに少しお話をさせていただきました」
「うん、まぁ、彼らも悪気があった訳じゃないと思うんだ。すこし、雑な性格なだけで」
「ええ、悪い方でないのは分かりましたわ。ですから、処分ではなく内々にお話をしたのです」
「そうか良かった」
「でも、それ以来彼らは私を見かけると、壊したものの報告をしてくるんです。言ったから許せーって」
「うーん、彼らなりの誠意じゃない?」
そうジュリーと話している間に、こちらに気がついたニ人がバルコニーの下までやってきた。
「おお、ジュリーと、ルーアン伯のご令嬢!?で、向こうから親友が手を振っていたから挨拶をしにきたのに、なんで君がそこに居るんだ?そこはジュリーの屋敷だろ?」
私とジュリーという組み合わせが意外だったらしくユアンが驚いたような声を上げる。エルンストも同意だったらしく横で頷いている。
「ええ、見ての通りジュリーの屋敷に私が遊びに来たのですよ。もちろん不法侵入ではなくて正式に招待されましてよ」
「可哀想に、ジュリーは騙されたのか」
「ルーアン伯の令嬢って、美人じゃ無いけど黙っていればニコニコしてて、小さくて可愛らしいって評判なんだよね。で、その見た目に騙されるんだよなぁ」
「そうそう、俺らを呼び出したときもルーアン伯じゃなくて、可愛いお嬢さんでラッキーとか思ったけど、結局はとんだ目にあったんだぜ。怒ったら怖いしさ」
ユアンとエルンストが私とジュリーの間で視線を彷徨わせ見比べた末、口々に余計なこと言う。もう一度呼び出して締めてやろうかという思いが沸き起こるが、ジュリーの手前ぐっと我慢する。さすがにここで乱暴をはたらくのは淑女じゃない。
「俺ら、これから市へ行くつもりだったけど、やっぱりやめた。こっちの方が面白そうだ。話を聞かせてくれよ」
「ジュリー、ついでに俺らも招待してくれよな」
言いたいことだけ言って、勝手知ったる様子で二人はジュリーの屋敷の玄関に向かった。
二人を呆れたように見送っていたジュリーがふっとこちらを振り返る。
「ねぇ、アンリは僕のこと騙しているの?」
「えっ」
突然の発言に真意が掴めずに固まってしまう。
「なーんてね、うそうそ。アンリは可愛いけど、それ以上に真っ直ぐでしっかり自分を持っているところが好きなんだから」
私の驚いた顔を見て、ジュリーはしてやったりとニヤニヤ笑っている。
「もう、ジュリー、冗談はいい加減にして」
ジュリーの冗談に踊らされたのも悔しいが、それ以上に真っ向から好意を伝えられて照れ臭くて、思わず強い物言いをしてしまう。
「はいはい。下でユアンとエルンストが待ってるだろうし、行こうか?」
そう言って私の言ったことを軽く受け流すと、さり気なく私の手をとってエスコートする。そういうところはやはり大人だなぁと思ってしまう。
「そうね。ねえ、ジュリー。まえ、対等な友人が居ないって言ってたけど、彼らがいるじゃないの」
「いや、あいつらは悪友だ。断固として正式な友人とは認めませんよ。一緒に悪さをするだけの仲間だからね。僕に平穏なんてもたらしてくれない。今日もただ面白がっているだけなんだ」
「あら、まあ。ジュリーのお友達に条件は厳しいんですね」
「いいんだよ。僕にはお友達兼婚約者のアンリがいるからね。アンリが僕のことを見捨てない限り問題ないんですよ」
「もう!調子がいいんだから」
「さあ、行きましょう僕の婚約者さん」
そう言ってお茶目に笑う彼に私もつられて笑ってしまうのは惚れた弱みだ、仕方がない。




