無、開き直りのすゝめ
「…………トウ?」
雰囲気が変わるトウを訝しみながら眺めるイース。両者の中に疑問が浮かんでいる中、トウが話を切り出した。
「正直な話、君に対して理解が出来ないのだよ、私は。結局の所君は確かに利己主義者では無い、それが私の結論だ」
「そうだね。確かに私はそう言ったじゃないか」
「が、君は私と出会った時聞いても居ない事をペラペラと喋りだしたな。まさに自分が真正の屑である事を証明するかの様にな」
トウにとってはそれが理解出来ない。意味が無い物ほどトウは好きになれない、何故ならそれは無駄でしか無いから。
だが、トウにとっては其処で引っ掛かる。趣味思考の問題ではなく、トウはイースの事は嫌いではないのだ、寧ろ好ましくすら思う。
「結局の所、君は何がしたいのだ? 具体的に言うと良い」
「私は別にそんな事を考えてる訳じゃな「試していたんだろう、簡単な話だ」ああ、そう、その通り」
トウにとっての違和感は、既に理解の到達点を迎えている。
「その通りさ。私は利己主義者、そう造られたのだからそうあるべき「それも違う」………」
「君は忙しい奴だな、『そう』、と言ったり、『違う』って言ったり。私から見れば、君は試すと言う体で、自分と同じ、同族を探している、違うか?」
イースの態度は、常にどっちつかずだった。決して善人では無く、悪人でも無い。過去を語る癖に今しか見ようとしないのだ。
「これは、トウには分かる事では無いけれど、私はあくまで人間だよ。君とは違う」
「それで良いのだよ、アウトサイダー・エゴイスト。君は私の友人なのだから、人間らしくあるべきなのだ。ーーーあれを見るといい」
イースがトウに言われ、指を指した方を見やる。其処には、ポーション瓶が夥しい数並べられており、貧相な少女がポーションに残る水滴を集めている。
「あれを見てどう思う?」
「可哀想とは思わないよ。得をする者が入れば、損をする者も必ず出る、それが人間だからね」
「じゃあ、あっちを見るといい」
指を指した方向では、NPCの経営しているであろう店舗に、数十、数百年とも言えるプレイヤーが列を組んで並んでいる。
「私は理解した、この現実を生み出したのはプレイヤー自身であると。この誰一人死ぬ事の無い街で、国で、人の価値は米100gよりも小さいかも知れない。故に、プレイヤーは他者を低く見る。ならば、そうなのならば!」
トウは前を向いて、少女の方に歩き出す。それをイースは止める事は無い。
「お嬢さん、ポーションが欲しいのかね?」
トウの言葉に少女は困惑するが、小さく首を縦に振る。
「来ると良い、私が一緒に並んであげよう」
「でも、神使の人は、怖いから……」
「安心するといい、私も神使だ。私が怖いかね?」
見た目も美しく、正しく妖精であるトウを見て、少女は頬を赤らめる。その黒髪は不安を吸い込むように美しく、自然と足が進む。
そして列に並びーーー忘れていたかの様に少女に話し掛ける。
「ああそうだ。それでも怖いと言うのならばーーー。やあ、其処のお兄さん」
前に並んでいたプレイヤーの腰を叩き、注意を向ける。
「ああ、なんですか?」
こちらを向いたプレイヤーに向けて、ゆっくりと、自然な行動の様に指を向けて、こう言い放つ。
「この少女が君達の事が怖いらしい。
どうか死んでくれたまえよ。
『バン』」
銃声と共に、こちらを向いたヒョロいプレイヤーを弾丸は顔面を貫き、即死させる。
ーーー最も傍迷惑な生物は、エゴイストでは無く、理解者であるのだ。
◆◇◆
巨大な音に一瞬広場に居る人間は皆凍り付く。その後、ざわめきが広がり、逃げようとする人が居るが、混雑のせいで身動きが取れない。
それもその筈、一般的な感性の人間からすれば、私の行動は理解出来るはずもない。
「プレイヤー諸君、話を聞いて欲しい」
少女の手を離し、私が空を飛ぶ。声を高らかに叫ぶと、周囲に居る人間が私を注視する。
「この世界のNPCは、ポーションすら満足に手に入れられないらしい。なぜか分かるか!?」
その声に、数多の反応が帰ってくる。
「お金が無いからじゃ無いの?」「NPCの店の補填速度が遅いから?」「別にNPCにポーションが無くたって良いだろ!」「どうせ蘇るんだしな」
「ああ、諸君らには分からん様だ。知能が赤子時から成長していないようだな」
天に助けを求める様に空を仰ぐが、私に見えるのは赤く染まった名前だけ。
「はぁ? そんな事貴女に言われる「貴様等のせいだ! 貴様等がNPCの店を買い漁り、更には市場を独占している! この場所でNPCが並んでいる店が一つでもあるか!?」…はぁ?」
「事実、無いだろう」
辺りを見るが、この広場にある店にはプレイヤーしか居ない。とどのつまりこれはーーー。
「何かしら、NPCが神使を畏怖する原因あった、と言うこと」
本来神使とは、来たるべき災害に向けて神が使わした戦士にして英雄。そういうコンセプトだと取り扱い説明書には書かれていた。少なくともここは街だ。領主やら神官やらからその説明がある筈、国の希望である、と。それなのに畏怖する原因は、プレイヤーにあったに他ならない。
「で、それがどうかしたんだよ。NPCに対してヒーロー気取りか? だいたいこれ、ゲームなんだしさーーー」
「だから私は諸君らを殺す事にした」
「…はぁ?」
こちらに話しかけて来たプレイヤーの言葉に割り込み、宣誓する。その宣誓に対して、呆気に取られた様に呆然とするが、すぐ殆どのプレイヤーがこちらを馬鹿にする様に笑い出す。
「………? 何がそんなに面白いのだろうか?」
「いや、この人数に対して、それ言えるとか…ぶふっ! ちょっと冗談にしてはな………ふふふ」
「そーだぜ、このγ鯖は色々なクランのお陰もあって、今では高レベルプレイヤーの巣窟、レベル10以上のプレイヤーもゴロゴロ居る。俺だってもうレベル「『バン』」…は? お前ッ…………!?」
ぺちゃくちゃと説明してくれた男に感謝の一撃。
私の弾丸を食らった男は無事脳天を貫かれ、体はポリゴンと化していく。そこに残ったのは何かしらのモンスターの素材と、お金。そしてポーションだけだった。
「ふむ、結構通るじゃないか。なら問題は無いな」
「は? ……はぁ!? お前! いきなり撃つとか頭可笑しいんじゃないか!?」
「言っただろう? 諸君らを殺す事にした、と。逃亡は許容しない、が、協力して向かってくる事は許可しよう」
その言葉を聞いて、真っ先に動けたのはポーションを売ってた商売人の一人だった。
(冗談じゃない! ここまで稼いだ売上をくれてやるわけにはいかん!)
行動は迅速だった。撃たれたと同時に「メニュー!」と叫ぶ。そして「ログアウト!」と言えば自分は世界から消える事が出来るのだ。
早く、早く、早く!
「ログアウ―――「『バン』」―――ァ…」
商売人の意識は途切れた。残ったのはポーションとお金、それだけで、ポーションがばら撒かれたのを見てハイエナ共がポーションを集め出す。そこには、先ほどの少女も混ざっていた。
「言っただろう。逃亡は許容しない、と。下手な真似をした奴から殺す。衛兵が私を殺すまで、自分が殺されないのを願うと良い」
「―――食らえッ! 『スラッシュ』!!!」
飛んできた飛ぶ斬撃を曲芸の様に回って躱す。地上に居る人間でも空に居る私を捉える事が出来るか、面白い。面白いが―――。
「数で囲め! 相手のスキルは魔法使いのバレット系統に酷似している! 数で押しつぶせば問題ない!!」
「オーケー分かった! 『スラッシュ』!!!」
「『スラッシュ』!」
数の暴力で押し潰そうとするか。正しい、それも正しいな。
「随分とのろまな斬撃じゃないか! 見てから避けることが出来るぞ!」
だが効かない。一度見た攻撃に当たってやるほど私は善人ではない。
突然の低空飛行と共に、相手の頭の零距離まで近寄り、殺害する。
「『バン』」
撃ち出された弾丸は最初に直撃した男を貫通して、すぐ後ろに立っていた角の生えた種族の女の頭すら撃ち抜いた。
「意外と殺すのに時間が掛かるな……。ああ、すまない予定変更だ。そこでボーっとしてる諸君らを殺せば少しは報いになるだろう」
私が戦っている間に逃げなかったのだろうか。先ほどの商売人が殺されて怖気づいたか、誰一人ログアウトすることなく唖然としている。
「逃げなきゃ殺さないって……「言っていない。許容しないだけだ」」
もう彼らの心は委縮しきっているな。ああ、ああ。抵抗を諦めたか、遂に逃亡してしまったか。凄惨たる彼らの心に終わりを齎せてやろう。それが私の責務だ。
「言い残すことはあるか? 簒奪者として聞いてやろう、それが責務であり、私の栄光だ」
「なんで……こんなことをするんですか?」
目の前の少女が膝を付きながら、膝をついて絞り出したように懺悔をしている。
「責任の問題だ。私が『こう』思った事は『こう』あるべきなのだよ。他者の許可は要らん、弱者の味方と言う訳では無いが、私は少数派の人間の方が好ましく思う。尊重せねばならんのだ、尊重を。その尊重の犠牲者が諸君らだ。受け入れたまえよ」
「受け入れられる訳がないじゃないですか! こんな、身勝手な事で…!」
「身勝手…? 何処が身勝手なのだ?」
理解が出来んな。周りを見れば分かるだろうに、この一件で得をするものも居る。
「自らの行為を正当化させる訳では無いが、理由を付けるとするならば、富の再分配だよ、富の再分配。部外者がリソースを減らしたのだから、少しくらい分けてやっても構わんだろう? ……ふむ、喋りすぎたな、そろそろ死のうか」
右手を少女に向けた瞬間、膨大な光量が辺りを照らす。
「ふむ、これは予想通りか? 随分と演技派じゃないか」
「フフ、前を向かないで大丈夫なんですか? 彼はいけ好かないですけど、実力は本物ですよ?」
「ああ、構わんよ。そうだ、最後に聞いておきたい。名前は?」
「桜餅、〈得比寿〉のクランリーダー、桜餅です。以後、お見知りおきを」
「―――なるほど。妹と仲良くしてくれたまえよ、少年」
その言葉を聞いて、桜餅は驚いたようにこちらを見る。そして「妹って―――」と言おうとした瞬間、後ろでチャージが終わったようだ。
「『エンチャント・ホーリー』……! 勇者技能、ホーリースラッシュ!!!」
中々の威力じゃないか。だが少し、頭が足りなかったようだ。
◇◆◇
あたりには砂埃が舞い、なにも見えなくなる。
「ーーー流石ユウキだな! γ鯖最強のプレイヤー!」
……聞き覚えるある。あー、あの。ヴィンテージみたいな名前の……、まあいい、覚える理由は無い。
「そんなんじゃないよ…。この力も、偶然手に入れたものに過ぎないからね」
「謙遜は……美徳。カッコいい…!」
随分と愉快じゃないか。
「---ああ、止めには火力では無く、知能が足りなかったな?」
「まだ、生きていたのか?」
私が喋った瞬間、ユウキは軽く驚いたのちにこちらに剣を向けてきた。
ああ失礼な、私には傷一つ見えないだろう。頭も悪ければ目も悪いか?貴様らは。
簡単な話だ。“スラッシュ”やら“ホーリースラッシュ”やら、同系統の技なのだろうが、直線的すぎるのだ。威力がちょっと大きくなっただけで私を殺せるなんて思うのは早すぎる。
「『リロード』」
残弾数はゼロでは無いが、沢山殺すには沢山弾が必要だ。
「ああ、どうしてか待っててくれたらしい、どうにか感謝しよう」
「フェアじゃあ、無いからね。後ろから仕留めようとしたんだ、それくらいは待ってあげるさ」
「それじゃあ、始めようか。―――『バン』『バンバン』『バン』」
「何を―――」
初めは商売人諸君を撃ち殺す。桜餅も、見知らぬ人間も容赦なく。
「『バン』『バン』『バンバン』『バン』」
残り総弾数は5発、一人一発で殺してやるならあと二人殺せるな。
「何をするんだ! 卑怯だとは―――」
「『バン、バン』」
殺してやるならこれで十分だ。それじゃあ、と、ユウキ君等に向き直る。
「お前……〈服禄寿〉に居た……!」
漸く気づいたか。少し遅いな。
「残弾数は三つ、君らも三つ。それじゃあ、始めようか」
これは、どちらかの雌雄を決める、などと言う訳では無い。本物の利己主義者と、人々の正義を名乗る人間の戦いなのだ。




