ビビド村 (1)
イツキは女性の服に着替えて「どう?似合う?」と、どや顔で皆の前に立った。
「「「「う……うん」」」」
白と赤のチェック地の綿の服を着たイツキが、ドレスの裾を翻し、焦げ茶色の髪をフワフワさせながら、クルクルと回ってみせる。
それは質素ながらも胸元に白い刺繍がしてある、可愛いデザインの服だった。
「これは……逆に危険度が増したような気がします」
フィリップが顔をしかめて文句?を言う。すると他の3人もコクコクと大きく頷く。
「えーっ……そんなにダメかなあ?直ぐに男だとバレる程に危険な感じ?」
「そうではありませんイツキ様!むしろ逆です」
「逆って?胸に何か詰めた方がいい?」
「いえいえ、どう見ても、充分可愛い娘さんに見えるので危険なのです!」
イツキの問いに、フィリップは困った顔をして答え、は~っと脱力する。
「ふーん、それなら大丈夫だね。うん。僕はロームズには、いや、これから向かうビビド村でもずっと女装して行動する。名前は……キアフだから……キアにする」
お供の4人の心配などさらっと無視して、どんどん計画を決めていくイツキである。
「それでは、女装して作戦を行うのですかイツキ様?」
「ハモンド神父、親しみを込めてキアちゃんと呼んでくださいね。皆も間違えないよう気を付けてね」
「「「「…………」」」」
既に女装モードをスタートさせたイツキに、全員戸惑いながらも従うしかない。指揮者はイツキであり、反対することは許されない……と言うより、目の前の黒く可愛く微笑むイツキに、逆らう勇気のある強者は誰もいなかった。
まあ強いて言えば、可愛い娘姿のイツキに妙にドキドキする、ハモンドとレクスの落ち着きがなくなったことが問題かも知れない。
「私の顔は、ビビド村でもロームズでも完全に割れているの。だから、そのまま潜入すると住民たちが混乱するし、救いを求めて教会に押し掛けることになるでしょう?だから私は、教会の手伝いをするビビド村の娘として潜入するわ」
ちょっと気の強い、元気で明るい村娘に成りきって、腰に手を当て小首を傾げる仕草まで、完璧に気を配るイツキだった。
「「「「…………」」」」
あまりの成りきり方に、思わず本当にイツキなのか、はたまた本当にこれが少年なのかと、ヤマギとレクスは何度も目を擦りまじまじとイツキを見る。フィリップとハモンドは波乱の予感がして頭を抱える。
「さあ、作戦内容を話します。皆さん、これから先は完璧に役に成りきってくださいね。私の名前はキア。ビビド村のキアよ。フィリップさんは前回と同じブルーノア教会の【魔獣調査隊】の神父。そしてハモンドさんはフィリップさんの従者です」
イツキの声は、だんだんと女の子の声に変わっていく。まだ声変わりしてなくて良かった……のか?
「そしてヤマギさんとレクスさんは、フィリップさんを守る教会所属の護衛です。教会の、しかもモーリス様の護衛ですから、ロームズの統治官も手出しは出来ないでしょう」
ポンポンと役割を決めると、お互いの呼び方や役どころまで、細かな指導がイツキから入る。ロームズの町に到着するまで完璧に成りきるよう指示(命令)も出す。
午後になり、イツキたち一行は辻馬車に乗って隣のビビド村に向かうことにした。
「バレル神父、いろいろお世話になりました」
一同を代表してフィリップが挨拶をする。後ろで残りの4人も「お世話になりました」と頭を下げた。
「いえいえ、何も出来ませんでしたが、どうぞこれからの旅が安全であるよう、そして無事に任務を終えられることを、心よりお祈りいたします。ところで……こちらのお嬢さんは?……昨夜の具合の悪そうだった少年はどちらに?」
バレル神父は、昨夜は居なかった娘が突然一行の中に入っていたので、首を傾げながら質問してきた。それに、あの具合の悪そうだった少年は何処に行ってしまったのだろうかと、当然のことながら疑問に思ったのだ。
「まあ神父様、わたし色々な事情があって、教会の皆様に守って頂いているのです。危険から身を守るために男装していたのですわ。驚かせてごめんなさい」
イツキは可愛い笑顔でバレル神父にそう事情を話す。バレル神父は同一人物だとは思えなかったらしく、目を見開いてイツキを見て、本当なのですか?という視線をフィリップに送る。
「我々も任務なので事情は話せませんが、どうぞこの事は内密にお願いします。お嬢様の身の安全が懸かっていますから」
フィリップもにっこりと笑って、しっかりと脅しておく。
バレル神父に別れを告げ、イツキたちは辻馬車に乗ると、ビビド村を目指した。
ビビド村は人口650人、養蚕が盛んで家の造りは独特な形をしており、人々は優しく皆親切である。
2年前ビビド村に来た時、カルート国は戦時中で混乱していたが、ブルーノア教会の神父の一行として立ち寄ったので、村長や村の人々に歓迎され、村長宅に泊めて頂いたりしてお世話になっていた。
「フィリップさん、村長さんの家に行ってみましょう」
「分かりましたキアさん。ライラさんとシーバルさんは結婚されたでしょうか。ぜひ、幸せなところを見てみたいですね」
2年前、ロームズ教会がハキ神国軍に占拠され、結婚式が出来なかった2人のことを思い出しながら、村の中心に向かって歩いていると、偶然村長の息子さんにばったりと出くわした。
「おや、貴方様はあの時の神父様。お久し振りです」
「お久し振りです。皆さんお元気ですか?今日は村長とロームズ教会で働いているミリドさんに、お願いがあって来ました。いらっしゃいますか?」
フィリップは丁寧に村長の息子さんに挨拶をして、早速用件を告げる。
「実は、昨年2度目の戦争の時、父はハキ神国軍の斥候部隊を偶然見付けて、殺されてしまったんです。それで、現在は私が村長をしています。ロームズ教会で働いているミリドさんは、今日は孫の世話で家に居るはずです」
なんと、あの優しい村長さんは亡くなっていた。でも息子さんが村長になっていたので話は早そうである。フィリップは村長の家にお邪魔して、ロームズの統治について情報を集めることにした。
村長によると、自分の娘ライラと、ミリドさんの息子シーバルが結婚して、3日前に可愛い男の子が産まれたばかりだと言う。イツキたちはお祝いを(教会の人間として)兼ねて、村長のお宅へ行くことになった。
村長の家は、宿屋の無い村の為に、養蚕をしている2階家の隣に、来客専用の平屋の家を持っていた。
「キアさん、私に赤ん坊の洗礼など出来ませんが、どうしたら良いのでしょう?」
フィリップは青い顔をして、どう対応したらいいのかと小声でイツキに問う。
「洗礼と祝福の前に、ロームズの話を聞きたい。その後でゆっくりと儀式をしましょうと言ってください」
イツキは赤ん坊の洗礼と祝福を与えるのは、神父として大変喜ばしいことなんですよとフィリップ神父に言いながら、なんだか嬉しそうに「洗礼の祝福名を考えなくては」と言って、名前を考え始めた。
そうこうしている間にも、村長の家に到着してしまった。
「まあこれは、フィリップ神父、モーリス様に昇進なされたのですね。おめでとうございます。それとイツキ神父様の従者だったハモンド様も、お久し振りです。あの時はロームズと住民を救っていただき、本当にありがとうございました」
フィリップがやって来たと村長から聞いたミリドは、嬉しそうに駆け付けて来て、命の恩人に近いフィリップとハモンドに、深々と頭を下げて礼を言う。
「こちらは私の護衛のヤマギとレクス。それとレクスの従兄妹のキアと言います。この度ロームズの町に不穏な動きありと聞きつけ、調査に参りました。私にとってもロームズは縁のある町なので、もしも住民の皆さんが苦しんでいるようなことがあれば、解決しなければなりません」
誰が見ても立派な神父にしか見えない雰囲気で、フィリップは切り出した。
ロームズ教会で働いているミリドなら、必ず何かを知っているはずなので、ミリドの口から直接様子を聞くのが、1番間違いないだろうとイツキは考えていた。
「あぁ、ありがとうございます。現在ロームズ教会は、レガート国の統治官様の管理下に置かれ、住民達は朝の祈りも夕べの祈りもさせてもらえません。何故かは分かりませんが、住民が教会に集まることまで禁止されました」
ミリドは涙を浮かべて、現在のロームズ教会の様子と、統治官の様子を話し始めた。
「なんですって?一介の統治官が、教会の活動を監視し、人々の信仰を妨げていると言うのですか?信じられません」
フィリップは酷くショックを受けた風を装いながら、ロームズの様子をミリドから聞くために、質問を開始する。
「統治官に会ったことがありますか?」
「はい、ございます。赴任してこられた頃は、毎日のように朝の祈りにいらしていました。教会の活動も色々と支援してくださり、私も神父様も良い方が来られたと喜んでいたのです。ところが、新しい事務官の方が赴任されてからは、統治官様のお姿をお見掛けすることもなくなりました」
ミリドは辛そうに「は~っ……」と深く息を吐いて、首を数回横に振った。
「その頃からです。ロームズの町の様子が一変してしまったのは……」
今度は村長が、ミリドに代わって説明を始めた。その内容は次のようなものだった。
統治官の姿を見掛けなくなった頃から、成人男性全員に、領主の館を造るからと1日3時間の労働が義務付けられた。
住民たちがそれに黙って従っていると、1か月後には労働に駆り出される時間が長くなり、自分の仕事が出来なくなった住民達は、生活に困窮し始めた。
見かねた神父様が、統治官の元へ意見をしに行ったところ、数日後、神父様は何者かに襲われケガをした。
4月に入って直ぐに、住民の教会への出入りが禁止され、抗議に出掛けた町長と織物工場の代表が、反乱を起こそうとした罪で捕らえられた。
現在では、女や子供まで館を造る手伝いをさせられている。
働けなくなった住民は、統治官から支給される僅かなお金で、ギリギリの生活をしている。
逃げようとする住民が多発したので、住民の領内からの外出が禁止された。
同時に、ロームズの町に入ってくる人も、1日しか滞在が許されず、町の中を自由に歩くことさえ制限されるようになった。
「このままでは、ロームズの町の織物工場は潰れ、産業は大打撃を受けるでしょう。住民達は……まるで……まるで奴隷のように働かされて、教育も受けられず……教会にも行けず、いつ暴動が起こるか分からない状況です」
村長は悔しそうに、憎しみの籠った声で危機的状況を訴えた。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
更新が遅れてしまいました。
【予言の紅星2 予言の子】の加筆・訂正を行っているのですが、あまりの文章力の無さに、悪戦苦闘しています。
あの頃に比べると、今の方が少しは上達しているのかなあ……?と思いましたが、どうでしょうか?




