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予言の紅星5 ロームズの反乱  作者: 杵築しゅん
ロームズ潜入

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ビルドの町到着

 ルナ正教会の馬車に乗ったイツキたち一行は、昼食の為に途中の町に寄ったが、それ以外は馬を休ませる時だけ休憩しながら、次の目的地であるビルドの町まで急いだ。


 ビルドの町に到着したのは、既に午後10時を過ぎた頃だった。

 なんとか神父の執務室だけには明かりが灯っており、一行はほっと胸を撫で下ろした。

 ビルド教会の神父は、前回(2年前)立ち寄った時のイスト神父から、バレル神父に替わっていた。

 そろそろ寝ようとしていたビルド教会のバレル神父は、教会の前に馬車が停まった音がして、執務室の窓から外を覗いて驚いた。


「あれは、教会の馬車!ルナ正教会ファリス(高位神父)のドーブル様の馬車ではないか!」


バレル神父は血相を変えて執務室を飛び出していった。

 出てきたバレル神父に、ルナ正教会の馬車の御者をしているゴートンさんが、ドーブル様からの伝言を告げる。


「馬車の中の方々に、決して粗相があってはならないとの、ドーブル様からのお言葉です。今夜は私も泊まりますのでよろしくお願いします」


 御者のゴートンさんの話しを聞いたバレル神父は、馬車の中の客がドーブル様ではないと分かり、緊張を緩めたが、ドーブル様からの伝言を聞き、馬車から降りてきたモーリス(中位神父)の神服を着ているフィリップを見て、再び緊張した。そして新しく建てられた集会所に、失礼がないよう一行を案内する。


「前に寄った時は集会所は有りませんでしたねモーリス(中位神父)様」


ハモンドは2年前を思い出しながら、モーリス(中位神父)のフィリップに話し掛けた。


「皆様は、前にもビルド教会にいらしたことがおありなのですか?昨年のハキ神国の侵攻の前に、本教会より集会所を造っていただき、戦時中は子供達が集会所に避難できました。守ってくださったのはレガート軍の皆さんでしたが……」


バレル神父は、少年を抱き抱えているモーリス(中位神父)様に視線を向けながら、集会所の説明をする。

 集会所は2つの部屋があり、寝具等が揃っていた狭い部屋の方をフィリップは選んだ。



「フィリップ神父、イツキ様は大丈夫でしょうか?前回より目覚められるのが遅いように思いますが?」


ハモンドは2年前にも、イツキが気を失って倒れた姿を見ていたので、その時よりも容態が悪いのではないかと心配する。


「ハモンド、今回イツキ様は……死者の強い悲しみや怨みの念を受けられた。しかも死者の言葉を代弁されたのだ…………ドーブル様は、死者の声を聞くことは、神父の力の中でも……禁忌の能力だと言われた」


「「禁忌の能力・・・」」


ハモンドとレクスが仲良くハモって絶句した。



「フィリップ、ひとつ気になることがあるんだが、ハモンドとレクスは、イツキ様のことをどこまで知っているんだ?」


ヤマギは寝ているイツキの横顔を心配そうに見つめながら、ハモンドとレクス、そしてフィリップの顔を1人ずつ見る。


「ええ~と、イツキ様はミノス正教会で育って、軍学校の先生であり、今は上級学校の学生で、そして【治安部隊指揮官補佐】の仕事をされていることしか知りません」


レクスは親友のハモンドから、2年前にロームズに行ったことは聞いていた。しかし、教会で奇跡を起こしたことや、祈りの力については何も聞いてなかったのだ。


「俺は、イツキ様が特別な神父様であることは知っています。ミノス正教会やルナ正教会のファリス(高位神父)様を動かせる立場であり、実際にこの目で奇跡を見ましたから」


「ええぇーっ!き、奇跡を見たのか?」


ハモンドの言葉に、レクスが驚きの声を上げた。


「静かにしろ。イツキ様の睡眠を妨げるな!」


フィリップは小声で2人の若者を叱りながら、心配そうにイツキに視線を向けて、フーッと息を吐く。それは目覚めなかった安堵と、まだ目覚めないことへの不安が含まれた吐息だった。



「ヤマギ、ハモンド、レクス、俺の口からイツキ様のご身分を申し上げることは出来ない。ただ、今から話すことはブルーノア教会の最高機密事項だから、決して漏らしてはならない。漏らすとイツキ様のお命は勿論のこと、レガート国、延いてはランドル大陸に災いをもたらすことになる。覚悟して聞け」


フィリップの強い意思の込められた言葉に、3人はゴクリと唾を呑み込み姿勢を正す。

 ランドル大陸に災いをもたらすと言われたレクスは、微かに体が震える。


「イツキ様は、サイリス(教導神父)様をも従えるお立場だ。そして、生まれた時からずっと、人々の平和のために戦っておられるのだ。俺はそんなイツキ様を守る使命を、神より授かった者だ」


「サイリス様をも従える・・・」(レクス)

「生まれた日から戦っておられる・・・」(ハモンド)

「やはり……やはりそうなんだな!」(ヤマギ)


3人は目を瞑ったり、窓の外の夜空を見上げたり、祈るように手を組んだりしてから、視線をイツキに向ける。

 そして、やっと正気に戻ったハモンドが、立ち上がって正式な礼をとろうとして止め、イツキの方を向いて平伏した。

 その姿を見たレクスとヤマギも、我に返ったように平伏した。


 サイリス(教導神父)様より上のお立場……それはシーリス(教聖)様か、リース(聖人)様である。敬虔なブルーノア教の信者であれば、正式な礼をとるか平伏すのが一般的であった。


「ただし、俺から話したことはイツキ様には内緒だ。平伏すのも礼をとるのも、作戦上必要な時だけにしろ」


どこかまだボンヤリしている3人に、フィリップはきちんと念押ししておいた。




「う~ん……あれ、皆どうしたの?何か落としたとか?」


イツキはようやく目を覚まし、自分に向かって平伏している3人を見て、布団の中から的外れなことを訊いてきた。


「あぁイツキ神父!お目覚めですか?」(ハモンド)

「イツキ様、お体の調子は如何ですか?どこか、どこか痛いところはありませんか?」

「心配症だなあフィリップさんは。ちょっと怠いけど大丈夫だと思う。ところで、ここは何処だろう?」


 イツキの問いにフィリップが答える。ルナ警備隊本部で倒れてから現在までの出来事を。先ずは要点だけ伝えて、後はイツキの質問に答えるフィリップだった。

 その様子を口を出さずにじっと見守っていた3人は、イツキが大切で大切で堪らないフィリップの雰囲気と、心からイツキに従っている従者のようなフィリップの姿に、先程の《イツキ様を守る使命を神より授かった》という言葉を思い出し、頷きながら納得するのであった。





 翌朝、イツキとレクス以外のメンバーは、情報収集のため町の食堂でお茶を飲んだり、商店で買い物をしたりしに出掛けた。

 然り気無くロームズの町の情報を仕入れようと話し掛けると、町の人々は皆親切に応えてくれた。それはフィリップとハモンドが神父の服を着ていたからだと思われる。


 今回フィリップもハモンドも、前回ロームズへ行った時の神服は持ってきておらず、急遽ルナ正教会で夜なべ作業で用意して貰ったのだ。

「色々と面倒なので、フィリップ神父はモーリス(中位神父)の神服でいいでしょう」と言われ、恐れ多いがモーリスを装っている。

 ハモンドはフィリップ神父の従者という役なので、一般神父の神服と警護服を改良して、ブルーノア教の印である五星を刺繍していただいた。

 ちなみにイツキの青いリース(聖人)の神服は、フィリップがきちんと持参している。


 町で得られた情報は3つあった。

(1)ロームズの町ではカルート国民は宿泊が出来なくなった。

(2)入国審査(一応レガート国なので)が厳しくなり、身分確認は当然だが、入国の目的まで記入させられる。

(3)ロームズの住民は、ロームズから外出できなくなった。


「いったい誰が勝手にそんなことを・・・」


まだ体が万全ではないイツキと共に、潜入捜査についてのいろはを、みっちりと学びながら留守番していたレクスは、お土産の菓子を食べながら、集めた情報の内容を聞いて驚く。


「レクス、それを調べに行くんだ。恐らく例の伯爵だろうが、どんどんエスカレートしているのが気になる」 


ヤマギは得られた情報内容に、事態は益々悪くなっているようだと心配になった。


「ところで、僕が頼んだ物はあった?」


「はいイツキ神父、こんな感じの服で良いでしょうか?よく分からないので、2着買ってきました。でも、こんな物どうされるのですか?」


そう言いながらハモンドは、女性物の服を、それもどちらかと言うと質素な服を袋から取り出した。


「うん、こんな感じでいいよ。ではちょっと着てみよう」

「はい?今なんと?」

「嫌だなフィリップ……さん。僕が着ると言ったんだよ。他の誰がこれを、女性ものの服が着れるのかな?」


 確かに全員体型からして、女性ものの服など入りそうになかった・・・?いやいや、そこじゃないだろうと、4人は目を白黒させながらイツキを見る。


「で、こっちがカツラだね?良かった。もしかしてビルドの町には無いかと思って心配したけど、素敵な焦げ茶の髪だ。似合う?」


イツキはもう1つの紙袋からカツラを取り出すと、早速自分の頭に被せてみた。

焦げ茶色のカツラの髪は、イツキの肩より少し長く、緩くウエーブのかかった、ゆるふわな感じの物だった。

 当然美少年の、下手をすると女の子と間違えられる程の顔立ちのイツキである……似合わない訳がない。 


「「「「・・・」」」」


「さあ、着替えるから……見ないでね。レディーの着替えは見ちゃぁダメ」


ゆるふわカツラを装着して、にっこり可愛い笑顔でイツキが微笑むから、何故か「す、すみません」と謝って、赤い顔をして後ろを向く4人だった。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

現在シリーズ2の予言の子の、加筆・訂正を行っています。

そのため、これから更新が遅れることがあると思います。

申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします。

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