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本箱の味方  作者: 髙橋 翔太
あの噂って…
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バックルームから本屋の "地下" へ


「今朝、話していたのはこういうことだったんだね。」

「えっ? あぁ~。学校で話してたあれ? ん~。」


何だか歯切れの悪い会話をしながら、店内よりもキレイなバックヤードをトボトボと歩いていた。


バックヤードは入って直ぐにいかにも「本屋の裏側です」と、言いたげなオフィスルームが広がっていた。

「ここで事情聴取をされるのか…」と思っていると、その部屋をスルーし、

更に奥に続く『倉庫』と書かれた重苦しい鉄の扉を開けた。




倉庫はかなり広く、色んなものが繁雑にただ捨てられているような部屋だった。

その倉庫をトボトボと歩く途中に、立花さんの独り言の正体は、仕事用に使っている無線機である事に気がついた。

店内より静かになったからだと思うが、

「友達なんで嫌です。」とか「学校にどうやって説明するんですか?」とか僕を庇ってくれているみたいだったので、


「ありがとう、立花さん。」


と小さな声で言ったが、その声を聞くと立花さんは振り返り「今から大切な話を始めます。」と言う様な口調で、


「これからここに連れて来た理由を説明するからよく聞いて」

「はい。」


そして一瞬、振り返った立花さんのネームプレートには『尾崎』と書いてあり、何だかもう万引きの弁明とかより

「立花さんって複雑な家庭だったんだ…」

とすっかり押し黙ってしまった。


僕は悪さがバレて怒られるのを待つ子供のように俯いていると立花さんは急に立ち止まり、

何やら他の扉とは明らかに造りの違う重苦しい扉に指をかざしながら、


「それから、今から私の名前は『立花さん』じゃなくて『尾崎さん』って呼んで。」

「はい。」


立花さんの複雑な家庭の事情とそれをバイト先に隠して一生懸命に働く姿に少し感動しながらも、

目の前の何だか荘厳な扉は、立花さんの指を認識し、自動ドアのように軽快に開く。




そして扉の先には地下へと続くエスカレーターが姿を現した。


「なんでこんな所にエスカレーターがあるの?」

「いやいや…エスカレーターの前に指認証の自動ドアの時点で「おかしいな」って思ったでしょ?」

「あっ! 確かに…」


とは言ったものの特に気に留めてもいなかったけど…


「じゃあ立花さ…」

「尾崎さんね!」


名前を言い終わる前に結構、強めに怒られた。

またトボトボと歩きはじめ、1列しかないエスカレーターに乗ろうとするとそのエスカレーターは人を感知して自動的に下り方向へ動き出した。


「知らなかったんだ。そんな複雑な家庭事情があったなんて…」

「何のこと? あっ… あのね…」


エスカレーターは駅で乗るようなものとは違い、ゆっくりと動いていた。

薄暗いトンネルのような作りの空間をゆっくりと地下へ運んでゆく。


「尾崎っていう名前は、私が決めたんじゃないのよ。でもその説明は後でね。」


エスカレーターはそろそろ降り口に近づいていた。

そして立花さ… 尾崎さんは悩みながらも僕のほうへ傾いてこの状況の説明をしてくれた。


「先ずは山内をここへ連れてきたのは、万引きとかナンパ行為の取締りとかそんなんじゃないの。あの女の子も静香ちゃんって言って、ここの従業員だし。」

「えっ?」

「あの噂話は嘘の部分もあるけど、本当の事もあるのよ。」




エスカレーターを降り、扉がいくつかある空間で尾崎さんは立ち止まった


「順を追って説明すると、あの文庫本『シバラレ絵本』はアナグラムになっているのよ。つまりあれは


『シバラレ絵本』→『シバラレエホン』→『エラバレシホン』→『選ばれし本』


って訳。」

「…」



驚きすぎて声も出なくなっていた。頭の整理の付かない事がこんなに一気にやってくると「そんなものか。」と納得するほうが楽に感じる。


「それで私達はあの本を読んでる人に対して、ゲリラ的に面接をするのよ。本の内容をつらつらと話したり、価値観を押し付けるような回答は0点。あとは静香ちゃんの独断と偏見で神隠しされる人が選ばれるわけ。」

「じゃあ僕はこれからどうなるの?」



不安げな僕を余所に、尾崎さんは何やらピンク色のボールみたいな物を取り出して、徐に扉を開けた。

説明をしようとしていた尾崎さんは


「えっ? そんなに急いでも… わかりました。」


と無線のマイクに呟くと、半ば強引に広めの部屋へ僕を誘い入れた。


「これから始めますが大丈夫ですか?」


そういうと『シバラレ絵本』を地面に置く、すると何処からともなく


「大丈夫。新しい候補生はその子だね? 臆する事はないよ。存分に楽しんでおいで!」


その声が終った同時に室内は薄暗くなった。


「もう何が何だか意味がわからないよ。しっかりと説明して!」


なんて叫び声も虚しく、尾崎さんは「ほい!」と言うと、手に持っていたピンク色のボールを『シバラレ絵本』を目掛けて投げ捨てた。



ドカーン



大きな爆発音と共にそのピンク色の爆弾は大爆発し煙と爆風が室内を包んだ。

「いってらっしゃーい。」

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