<40>8年前⑩
「それにしても軍の人たちが近くにいてよかったねぇ」
「……そうだね」
待機を言い渡された私たちでしたが、いつまでも黙ったまま待機というのはさすがに少しつらいものがあったので私はとりあえずハナちゃんと少し話をすることにしました。幸い先生も少しくらい会話する分には特に何か言うこともなかったのです。
「本当に先生から話を聞かされた時はどうなることかと思ったよ」
「……うん」
「でもホント、どうしていきなり現れるなんてことになったんだろうね?」
「……」
そう、そこに関しては先生ですらいまだわかっていない。普通30もの魔物なんて出現すれば気付かないなんてことはまずありえない。
「……魔物の中に特殊な個体がいたとか?」
「うーん。それはありそうな感じだねぇ」
―魔物。
―魔なる力を持つ化け物。
つまるところ魔物とは人が神聖力を持つのに対して魔力を持つ存在の事を指す。そして魔物の中にはごくごくまれであるが魔力を用いて神聖術と似たような現象を引き起こす個体が存在する。詳しくは私も知らないが―そもそも神聖術でさえ一般人の私では何ができるのか詳しくは知らないのだけど―さっき先生が見せてくれたみたいに私たちにはわからないような力を持った存在がいるのかもしれない。
「……」
「じー……」
「……」
「……。えいっ!」
「ふわっ!?にゃ、にゃにを!?」
少し考え事に没頭していたらいきなりほっぺをつままれてしまいました。うぅ、ちょっと痛い。
「もう、やっとこっちに戻ってきてくれた」
「え、えと……」
「さっきからリリスちゃん反応薄いよ」
「そ、その。ごめんなさいです」
確かにさっきからずっと心ここにあらず名感じだったかもです。……反省です。
「それにさっきから雰囲気がすごい暗いし」
「……逆にハナちゃんはほとんどいつものままですね」
「えっへん」
なんか胸を張ってすごい自慢げですこの娘。
「何でそんな自慢げなのかわかりませんが、その……すごいですね」
「それほどでもぉ」
「何でそんないつも通りでいられるのですか?」
これは本当に思う。言っては悪いが現在この教室、軍のことで多少緊張が解けたとはいえ、それでもまだお通夜一歩手前みたいな雰囲気がある。要するにかなり暗いのである。そんな中でも持ち前の明るさをまったく失わないハナちゃんを本当にすごいと思う。
「んー。まぁなんというか、ここであんまり暗くなっても仕方ないと思うの。色々と考えるのは大事だと思うけど、そのせいで『今』を身動きが取れないものにしちゃったらだめだと思うの。……なんだかうまく言えないけど私はそう思うの」
「……ハナちゃんはすごいね」
「ん?そうかな?」
本当にすごいと思う。
そしてそんなハナちゃんだからこそ、私は彼女の友達になったんだと思う。
「よし、なら私も平常運転でいきますか!」
「ははは。でもあんまり騒ぎすぎちゃだめだよ。何事も限度が大事です」
「……はーい」
こうして私はしばしハナちゃんととりとめのない会話を続けるのでした。
それからしばらく時間がたってからのこと。
「そういえば聞こえる音もだいぶ少なくなってきましたね」
「……。ホントだ!」
少し前までそれなりの頻度で発生していた遠くからの音も、今ではかなりまばらになっている。
「どうやら無事に魔物の数を減らせているみたいですね」
「うん、きっとそうだよ!」
まぁ実際に見たわけではないのですけど、この際そう思うことにします!
「援軍というのはもう到着したのでしょうか?」
「それはわかんないけど……多分そうなんじゃないかな?」
「はぁー。ホント、先生の話を聞いたときははどうなることかと思いましたよ」
「はは。そうだねぇ」
「なんだかすごく気疲れしてしまいました」
「へへへ。実は私も」
「普段どおりに見えましたけど、やっぱりハナちゃんも気疲れしてたんですか?」
「そりゃそうだよぉ」
それから私とハナちゃんはお互いに顔を見合わせ「ふふふっ」とどちらからともなく笑いました。
「早く終わるといいね」
しかし私がこの問いかけの答えを聞くことはなかった。
それは本当に唐突に起こった。
『キィーーーーーーーーーーイ』
そんな甲高い音が突如上から響いてきた。
そして―。
気付いたらさっきまで目の前にあったものがすべてなくなっていた。




