こんわくするきんにく2
新族長は鳴き声をあげたあと、聖なる槍を構えもせずにムロフシに近づいてくる。
ムロフシを脅威と思っていない大型の猛獣のような自然な接近だ。
ムロフシは新族長が無傷でしきたりを乗り越えたことを思い出した。
ムロフシでさえマンモスと戦うことは命がけだ。
生死の境をさまよったこともある。
あのマンモスとの力比べをこの小さな新族長は無傷で乗りきった。
警戒度をあげたムロフシは石槍を構え、深くしゃがみ込んだ。
それは長い狩猟生活で会得した、威嚇する肉食獣たちと同じ姿勢。
強靭な脚力を余すことなく大地へ伝え、爆発的な推進力に変え、構えた槍を体ごと敵に突撃するランスチャージの極み。
これが小型中型の獲物を狩る場合ムロフシの最適解。
新族長が何をするかわからないが、ムロフシは今までの経験からこれ以外の選択肢は選べない。
新族長が無防備にランスチャージの間合いに入った。
彼我の距離を見間違うほどムロフシは愚かではない。
ムロフシの雷光のような突撃。
野生の肉食獣であれば脳天に石槍を食い込ませ絶命していたであろう。
しかしヒマワリは天才だった。
しゃがみ込む体勢から槍の角度。
腕の位置、突進してくることは間違いなく、軌道はすでに丸裸だ。
優れた動体視力で突撃してきた石槍の軌道をそらすため、最適な場所を体ごと聖なる槍で打ち払う。
まるで金属同士がぶつかり合ったかのような激しい不協和音を鳴らし、ムロフシの必殺は逸らされた。
その勢いでたたらを踏んだムロフシが振り返った時にヒマワリはそこに居なかった。
ヒマワリはムロフシの突撃をそらした直後、後方に行ったムロフシの背中に飛び掛っていた。
ムロフシは驚愕した。
中型以下のどんな肉食獣でも一撃で討ち取ってきたムロフシの必殺をこの小さな体で弾きとばし、振り返った時には自分の背中に飛びつかれている。
それだけではない槍の柄を首にかけられ、背中側に反り返られ、息ができない!?
抵抗しようにも背中にしがみついているヒマワリには、肥大化した筋肉が関節の可動域を阻み手が届かない。
水の中のようだ!
このままでは溺れてしまう!
だが抵抗する方法がない!
ムロフシの脳裏に浮かび上がる鮮明な死の危険。
もがきつづけたのは、数十秒か数分か。
ムロフシの意識は闇に包まれた。
騒ぎを聞きつけた族人が見守る中、新族長ヒマワリが最強の戦士ムロフシを倒し名実ともに部族を掌握した瞬間でもあった。




