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ひだまり商店街の小さな奇跡 〜海辺の雑貨店と、言葉にできない贈りもの〜  作者: ゆうぎり
第4章「商店街の輪」

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町の一員になる

 夕方の光が、通りをやわらかく染めている。


 昼の明るさは静かに落ち着き、

 影がゆっくりと長く伸びていく。


 ひだまり商店街は、少しずつ一日の終わりへ向かっている。


 それでも、流れは途切れない。


 動きは穏やかになりながら、

 どこかあたたかく続いている。


 モチオは、雑貨店の中にいる。


 作業台の前で、手を動かしている。


 小さな器を整え、

 布をたたみ、

 棚の上を静かに整える。


 その一つ一つの動きが、自然に続いていく。


 迷いはない。


 考えなくても、次に何をすればいいかがわかる。


 その流れの中に、自分がいる。


 カリーナは、少し離れた場所で同じように手を動かしている。


 いつもの動き。


 いつものリズム。


 それが、変わらずそこにある。


 モチオは、その様子を少しだけ見る。


 見ている、というよりも、同じ空気の中で感じている。


 その距離が、心地よかった。


 扉の向こうから、通りの音がかすかに届く。


 人の足音。


 誰かの声。


 遠くで鳴る、鈴の音。


 それらが、やわらかく重なっている。


 モチオは、その音を聞きながら手を動かす。


 外と内が、ゆるやかにつながっている。


 その感覚が、自然にある。


 カリーナが、ふと手を止める。


「ちょっと見てくるね」


 やわらかな声。


 モチオは、小さくうなずく。


「……はい」


 カリーナは、扉のほうへ向かう。


 ちりん、と音が鳴る。


 そのまま外へ出ていく。


 モチオは、その背中を少しだけ見る。


 それから、また手元に視線を戻す。


 店の中は、静かになる。


 でも、その静けさは変わらない。


 さっきまでと同じように、落ち着いている。


 モチオは、ゆっくりと息を吸う。


 この場所にいることが、もう特別ではない。


 当たり前になっている。


 そのことに、少しだけ気づく。


 外から、声が聞こえる。


 ユズの声。


「またねー!」


 明るく弾ける。


 それに、誰かが返事をする。


 少し低い声。


 パン屋の男性かもしれない。


 ミナの小さな声も、かすかに混ざる。


 そのやりとりが、通りの中に広がっていく。


 モチオは、その音を聞く。


 その中に、もう違和感はない。


 知らない人たちの声ではない。


 知っている人たちの、いつものやりとり。


 その中に、自分もいる。


 そう思える。


 モチオは、ふと手を止める。


 店の中を見渡す。


 整えられた棚。


 静かな光。


 やわらかな空気。


 そのすべてに、自分の時間が重なっている。


 モチオは、ゆっくりと扉のほうへ歩く。


 外に出る。


 ちりん、と音が鳴る。


 夕方の空気が、やさしく触れる。


 通りには、人がまだ残っている。


 帰る人。


 立ち話をする人。


 店を片付ける人。


 それぞれの時間が、静かに流れている。


 ユズが、少し離れた場所で手を振っている。


「おつかれー!」


 軽い声。


 モチオは、少しだけ驚く。


 でも、すぐに小さくうなずく。


「……おつかれさまです」


 自然に言葉が出る。


 ユズは、にっと笑う。


 それで終わり。


 でも、そのやりとりは、どこかあたたかい。


 ミナも、少しだけこちらを見る。


 小さくうなずく。


 静かな合図。


 パン屋の前では、男性が扉を閉めている。


 その手が、ゆっくりと動く。


 一日の終わりを整える動き。


 モチオは、その様子を見る。


 それぞれが、それぞれの場所で、一日を終えている。


 でも、それはバラバラではない。


 ひとつの流れの中にある。


 モチオは、その中に立っている。


 外から見ているのではない。


 中にいる。


 その感覚が、はっきりとある。


 モチオは、ゆっくりと息を吸う。


 夕方の空気が、胸に広がる。


 少しだけひんやりしている。


 でも、その中に、やさしい温もりが残っている。


 モチオは、ほんの少しだけ目を細める。


 この場所は、もう知らない場所ではない。


 通りの流れ。


 人の声。


 光の変化。


 そのすべてが、自然にわかる。


 モチオは、ふと気づく。


(……ここにいる)


 それは、ただ存在しているという意味ではない。


 この流れの中に、ちゃんと含まれている。


 その感覚。


 モチオは、それをそのまま受け取る。


 言葉にしない。


 でも、確かにわかる。


 カリーナが、店の前に戻ってくる。


 モチオの隣に立つ。


 何も言わない。


 でも、その距離は自然だった。


 二人で、通りを見る。


 夕方の光が、静かに落ちていく。


 その中で、人の動きが、ゆっくりと収まっていく。


 モチオは、その光景を見る。


 そして――


 何も言わずに、思っていた。


 ここは、もう、自分のいる場所だ。

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