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ひだまり商店街の小さな奇跡 〜海辺の雑貨店と、言葉にできない贈りもの〜  作者: ゆうぎり
第3章「空気に馴染む」

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居場所になる

 午後の光が、ゆっくりと色を変えていく。


 さっきまでやわらかく広がっていた明るさが、

 少しずつ落ち着いた色に変わり、

 店の中の空気を静かに包んでいた。


 モチオは、作業台の前に立っている。


 手は動いている。


 でも、その動きは、朝とは少し違っていた。


 迷いがない。


 考えなくても、自然に次の動きがつながっていく。


 小さな器を整え、

 少しだけ距離をあけて、

 最後に、ほんの少しだけ触れる。


 その一連の流れが、もう体に馴染んでいる。


 モチオは、ふと手を止める。


 目の前の棚を見る。


 並べられた雑貨たち。


 整えられた空間。


 その中に、自分の手が入っていることがわかる。


 大きな変化ではない。


 でも、確かに、ここに触れている。


 その感覚が、静かに残る。


 カリーナは、少し離れた場所で、同じように手を動かしている。


 いつもの動き。


 いつものリズム。


 それが、変わらずそこにある。


 モチオは、その様子を少しだけ見る。


 見ている、というよりも、ただそこにあるものとして受け取る。


 その距離が、心地よかった。


 しばらく、静かな時間が流れる。


 音は小さい。


 動きも大きくない。


 でも、その中で、すべてがちゃんと動いている。


 モチオは、ゆっくりと息を吸う。


 この空気が、自然に胸に入ってくる。


 違和感はない。


 無理もない。


 ただ、そのまま受け入れられる。


 モチオは、ふと思う。


(……また来るんだろうな)


 考えたわけではない。


 決めたわけでもない。


 ただ、そう思った。


 明日も。


 その次も。


 特別な理由はない。


 用事があるわけでもない。


 でも、ここに来る。


 それが、自然に思える。


 モチオは、その感覚をそのまま受け取る。


 無理に意味をつけない。


 ただ、そういうものとして置いておく。


 カリーナが、ふと手を止める。


 モチオのほうを見る。


「今日は、このくらいにしようか」


 やわらかな声。


 区切りを告げる言い方。


 モチオは、小さくうなずく。


「……はい」


 それだけで、十分だった。


 二人は、作業台の上を整える。


 使っていたものを元の場所に戻す。


 布をたたみ、道具をそろえる。


 その動きも、自然に揃っている。


 最後に、モチオはひとつだけ、棚の上の器に触れる。


 ほんの少しだけ、指先でなぞる。


 それで終わりになる。


 その感覚が、ちゃんとわかる。


 カリーナも、同じように手を止める。


 小さく息をつく。


 それが、今日の終わりの合図のようだった。


 店の中に、静かな余韻が残る。


 何かが終わったというよりも、

 ただ一日がそこに置かれたような感覚。


 モチオは、ゆっくりと店の中を見渡す。


 朝と同じ場所。


 同じ棚。


 同じ光。


 でも、どこか少し違って見える。


 その中に、自分の時間が重なっている。


 そのことが、自然に感じられる。


 モチオは、扉のほうへ歩く。


 足音は、小さい。


 すぐに空気に溶ける。


 扉の前で、少しだけ立ち止まる。


 振り返る。


 カリーナは、いつもの場所に立っている。


 何も変わらない。


 でも、その姿が、さっきまでよりも近く感じる。


 モチオは、小さく言う。


「……また、来ます」


 その言葉は、迷いなく出てきた。


 約束というほど強いものではない。


 でも、自然な流れの中にある言葉。


 カリーナは、やわらかく笑う。


「うん、待ってるね」


 それもまた、自然だった。


 強く引き止めるわけでもない。


 でも、ちゃんと受け取っている。


 モチオは、扉に手をかける。


 押す。


 ちりん、と音が鳴る。


 その音が、やわらかく広がる。


 モチオは、一歩外へ出る。


 夕方の空気が、少しだけひんやりとしている。


 でも、不思議と、さっきまでの温かさが残っている。


 振り返ることはしない。


 でも、そこにある場所が、ちゃんとわかる。


 モチオは、ゆっくりと歩き出す。


 足取りは、軽くも重くもない。


 ただ、自然な速さ。


 その中で、ひとつだけ、はっきりしていることがある。


 ここは、また戻ってくる場所だ。


 理由はいらない。


 約束もいらない。


 ただ、そうなっている。


 モチオは、静かに息を吸う。


 夕方の光が、商店街をやわらかく包んでいる。


 その中を歩きながら――


 モチオは、何も言わずに思っていた。


 ここは、もう、居場所になっている。

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