17
咲倉の家の帰りに神様のところに寄った。神様と会うのは約一週間ぶりだ。
音々ちゃんも誘ったが、彼女には「疲れた」と言って断られた。
そりゃ、疲れるよね……望まない三角関係に巻き込まれてるんだもん。私だってイヤだよ。
――満月が散ってしまった紅葉を照らす。午後七時。
確か前回来た時は紅葉が見頃だったから、時の流れは早いなぁ、と感服する。
私たちは神社産の三色団子を食べていた。
「叶の実家にも三色団子って売ってるよな?」
「売ってますけど、それがどうかしたんですか?」
「俺の食べかけ三色団子を紛れ込ませてもバレなさそうだな、と思って」
そう宣う彼の腕に串を突き刺す。そんな深く突き刺したわけではないのに、京はオーバーリアクション。
「いって! 最近の叶、藤白音々化が進んでないか?」
「音々ちゃん、そんな暴力系ヒロインじゃないです。それより――」
「――なんだ?」
「うちの三色団子と神社の三色団子、どっちのほうが美味しいですか」
京は辺りをキョロキョロ見回す。そして、気まずそうにする。
私も何事かと思い、周囲を見回すと。巫女さんや下級あやかしの視線が京に集中していた。なるほど。
「――それは答えにくくてだな……」
「分かりました。もう楪葉さんには三色団子、売りません!」
「なんでそこで拗ねる」
三色団子を完食した私はベンチから立ち上がる。
――まだ栞事件は解決したわけじゃないんだよね……。
枯れ葉となった紅葉を見て黄昏れる私。
「どうした? 、ぼーっとして。早く神様の所に行くぞ」
「な、なんでもないです」
「そういえばこの頃、『京さん』って呼んでくれないな」
「……京さん」
「……!」
「私は気まぐれなので、そこはツッコまないで下さい」
そう告げると彼は私の指に自らの指を絡ませた。そして歩き出す。
何百段もある、階段を上って、鳥居をくぐったタイミングで――
「随分、いちゃついてるようじゃな」
――後ろから神様に声をかけられた。
「いちゃついてないです!」
確か、音々ちゃんにもいちゃついてる、とか言われたような……。
でも、彼は否定しなかった。
なんで否定しない?
「では、その繋いだ手はなんじゃ?」
「こ、これは……楪葉さんからしてきたことで……!」
「そうか」
「ま、わしは君らの未来は視えているからな」
「どんな未来が待っているんですか」
「やっぱり人間は妖狐のこと気になってるじゃんか」
「……!」
否定したいのに否定できない。でも私と彼の行く末が幸せとは限らない気がして、寒気がした。未来不安。
「――それは教えられない」
京も私たちの最期を知っているのかな。
聞けなかった。でも、いまは聞かなくてもいい。そんな遠い未来のことより、いまを大事にしたい、と思ったから。
――神様の後を無言でついていき、辿り着いた先は――奥宮だった。
なんと言っても奥宮には酒瓶が山ほどあるらしい。……ここって猫神様を祀る神社だったよね?
「それで、人間の具合はどうじゃったか? わしが眠くならないうちに話してくれ」
お酒飲まなければ眠くならないんじゃない? と率直に思ったが、口に出してもこの神様は聞く耳を持たない。
《《眠くならないうち》》とは一体、何分、何十分を指しているのだろうか。下手したら、神様のことだから何秒単位なのかもしれない。
――神様が一口酒を呑む。まだ寝ない。
神様が寝ないうちに妖狐が咲倉の家に行った日の一部始終を語りだす。
「――夜刀神と女郎蜘蛛と闘ったようだな。やはり妖力が強い家は多種多様なあやかしが憑きやすいんだな。妖狐は余裕だったじゃろ?」
「よゆーよゆー」
「ウザいです!」
私は京の腕を叩いた。
「俺いないと叶、死んでたぞ? それに藤白も」
「ありがとうございます、とでも言えばいいんですか? 命の恩人、というと寒気がします。虫唾が走ります」
「心底嫌われてるな」
すぴーすぴー。
寝息が聞こえる。これはもしやして……。
「寝ている!」
「俺らがいちゃつくと寝るんだよ、このアル中は」
「いちゃついてません!」
「……なんか言ったか? アル中?」
起きたようだ。
「どこまで話したっけ」
「わしがアル中だとかなんだとか」
「そうじゃねえ」
神様が人間の容態を確認する。
「――残念ながら」
でも生きていただけ、良かったのかもしれない。いくら上級妖怪の力を借りても、神の力を借りても復元できないこともある。
神様はそういう事例を幾度となく見てきたからか、動揺するそぶりは見せなかった。
「保護結界は張ったか?」
「言われずとも」
「でも油断するでないぞ? まだ切り裂き女は人間を狙ってる」
「だから、囮にするんだ」
「囮……!?」
作戦のあらましを神様に説明したら、神様は絶句してしまった。
でも少しすると表情が僅かに緩んだ。そして――。
「――まあ、妖狐が言うなら……じゃが、半分あやかしだからどうなってもいい、とか思ってないじゃろうな?」
「思ってるわけないだろ。危険だからこそ叶と藤白がいる。何かあったら、俺が責任取る。任せてくれ」
鋭い眼差し。相当な覚悟があるんだろうけど……私も正直、囮作戦は不安だ。
「……それで、その撮った写真はどうするんじゃ?」
作戦では切り裂き女を誘き寄せたら、現れた切り裂き女の写真を撮るらしい。その写真をどうするのか、までは私も知らない。
京は頬を掻いた後――。
「あいつに渡す」
――そう、ひとこと告げた。
神様は《《あいつ》》が誰なのか分かったようで、「ああ」と言って目を細めた。
「あいつって誰ですか」
「叶は知らなくていい。もうじき知ることになる」
「なんか発言、矛盾してません!?」
「妖狐。囮作戦の決行日はいつだ?」
「決めてない。決まったら神様に連絡する」
「ふむふむ。決行日には人間の周りに大勢の守り神や上級妖怪を派遣する」
「助かる」
――咲倉の様子も話したし、囮作戦についても話したのでもう話すことは何も無いだろう。
夜遅いし、帰りたい。
でも――
秋の夜の神社は風情があって、綺麗で。しんみり泣きそうになるくらい、感動できて。
やっぱり、帰りたくない。
そう思わせてくれるほどのものがあった。
「……夜遅いし、帰りな。今日は有益な話が多かった。感謝じゃ。あとファミレスのナポリタンは絶品じゃぞ。二人でこの後ファミレス行きなしゃい」
ちょっと待って。
何で神様がファミレスのパスタ、知ってるの?
神様はその格好でファミレス行くの?
てか、ファミレス行ったこと、あるの? 人間時代? 何百年前?
その頃、ファミレスなんて無かったはず。いや、あったのか?
神様がファミレスとかシュール過ぎるんだけど!!
白ひげ生やした長老だよ!?
実際、宙に浮いてるんだよ?
一人で行くの? それとも集団で行くの?
「叶、ファミレス行こう。イザナ……神様、じゃあまた」
なんにも触れずに神様に手を振る彼。
私も流れで手を振る。私の頬は引きつっていた。
「神様ってお酒にしか興味無かったんじゃないんですか!? 何故ファミレスのナポリタン?」
「ファミレスで酒を頼む。ナポリタンは酒のつまみだ」
「は????」
この後、京とファミレスに行った。ナポリタンを注文してみた。神様が食べたナポリタンだと思うと、いつもと違う味がしたけど……。
――正面に座る彼はというと。まだ何も頼んでいない。
「ビ――」
「ダメですよ?」
「ビー――」
「……ぺしっ!」
「ビール」
酒を注文しようとする彼を全力で止める。
というか。
――チリン。
「……お客様。ご注文、承ります」
「あ、あのー。なんでもないです」
「はい!?」
店員に妖狐の姿は見えないし、妖狐の声も聞こえないのだ。だから、私が注文した扱いになっている。許さん。帰ったら、塩投げつけるか。
てか、私いなかったら完全に心霊現象になってるよね。
「すみません、ビール1杯下さい」と京が言う。
「……」
どう頑張っても店員に伝わらない、と諦めたのか今度は私に「ビール頼むんだ」「叶ならできる」と囁くようになった京。あまりにもうざいので、仕方なく――。
「ビール1杯、お願いします」
そう言うしか、私に選択肢はなかった。
「お客様、身分証か免許証のご提示お願いします」
ほら、こうなるでしょ。
「……楪葉さん」
「なんだ?」
「殴っていいですか。私、めちゃくちゃ怒ってます」
恥ずかしくなった私は会計だけ済ませて、ファミレスから《《逃げた》》。
そして帰宅後、塩を投げつける、じゃ物足りなかったのでソルトサークル――京の周りを塩で囲む――で彼の動きを封じた。
ソルトサークルによって、彼は今夜は一睡もできなかったらしい。
翌朝、酒瓶や酒缶が全てゴミ置き場に捨てられているのを見た彼は泣き崩れた。
私はあのファミレスにはもう二度と行けなくなりそうだった。全部、京のせい。
このエピソードだけなろう先行公開です。




