博子の水曜日以降の流れを聞く。会計士先生を十三のチークタイム付きのキャバクラに放り込んだ話に笑ってしまう。レベル上げと熟成を促しているんですという博子
「じゃあ、水曜日以降は?」
弁護士先生が、天ぷらをつまみながらそう聞いてくるのだった。
博子は、揚がってきた茄子を少し冷ましながら、今週後半の流れを頭の中でなぞる。
「木曜日は、私、完全オフだったんです。」
「おお、珍しい。」
「いや、でも一応、土曜日に東京メイン社長が来るから、その手配とか、ちょっと整えてましたかね。」
「なるほど。」
「金曜日は会計士先生だったんですけども。」
「その前の週に外遊び入れてたので、そこら辺をなぞりながら、おしゃべりしてたのと。」
「うん。」
「あと、十三にね。」
「うん?」
「チークタイムできる昼キャバがあるから、行ってみませんかって話をして。」
弁護士先生が、そこで思わず笑う。
「出た。」「また変な球投げてる。」
「いや、でも。」
博子も笑う。
「一つ玉掘ってますと。」
「玉掘ってますと、って言い方がもうおかしいねん。」
「で、週末にね、行ったよって。」「すごい衝撃だったので、また話しますって連絡来てたから。」
「多分、その話は戻ってくると思います。」
弁護士先生は、そこで感心したように首を振る。
「博子さん、あれですね。」
「うん?」
「お客さんを遊ばせるの得意ですね。」
その言い方に、博子は少し苦笑いする。
「得意というか。」
「全部、私で完結できへんっていうのが一つあるんですよ。」
「なるほど。」
「先生もそうですけど。」「会計士先生も個別で来てくれてはって。」
「で、まあガチ恋感も多少あるけれども。」
「所詮、言うても私、二十歳のキャバ嬢ですから。」
「ガチ恋になった時に。」
「うん。」
「残酷な話、最終的には、一人に絞るとあかんかった時のダメージでかいじゃないですか。」
弁護士先生は、その言い方に少しだけ真顔になる。
「まあ、それはそうやな。」
「で、もう一個は。」
博子は、天つゆにくぐらせた海老をつつく。
「レベルを上げさせることで、より深みが出るというか。」
「何の話してるんですか。」
先生が吹き出す。
「味噌でも作るつもりですか?」
「そうそう、そういうことですよ。」
博子も笑う。
「だから、自分の遊びの幅を広げてもらうことで。」「話ぶりとか、余裕とか。」
「なんかその辺が熟成される可能性があるじゃないですか。」
「熟成。」
「せやから、そういう楽しみっていうのも、なくはないかなとは思ってます。」
弁護士先生が、そこで箸を置いて博子を見る。
「絶対、キャバクラでチークタイムなんかしたら。」
「会計士先生、面白くてその話どっかでするやろうしな。」
「でしょ。」「で、それをすると、おしゃべりも上手になるじゃないですか。」
「引き出しが増えるからか。」
「そう。」「だから、それも兼ねてと思うんですけども。」
「ひょっとしたら、そっちで恋に落ちる可能性もゼロじゃないですけどね。」
その一言に、弁護士先生がまた笑う。
「博子さん、余裕っすね。」
博子は、そこで少し肩をすくめる。
「それはやっぱり、新地の女と十三の女では、色々違いますけども。」
「でもそれは、ファーストフードとフレンチの違いであって。」
「食の好みって人それぞれやから。」
「うん。」
「別に、同じ店を比較する必要はないですよね。」
「なるほどな。」
「土曜日の晩はこっち食べたいけど。」
「整った日にはこっち食べたい、って形でもできるから。」
「たしかに。」
「全部が新地、新地ってなってしまうと。」
「それはそれで、なんか変な呪いにかかりそうでね。」
「札束系の?」
「そうそう。」「だから、健全に遊んで。」
「フラットにモテるようになること考えたら、多分いろんな経験してる方がいいと思うんです。」
弁護士先生は、そこで少し面白そうに笑う。
「どこまでアフターサービスしてるんですか。」
「いやいやいや。」
博子も笑う。
「結果論だな、って話ですよ。」
「で、ワンチャンだと私だってその球で怒られる可能性ありますしね。」
「変なとこ連れてくなよ、って。」
「なるほどな。」
先生は、そこでひとしきり笑ってから、また話を戻す。
「で、東京メイン社長の方は?」
「仕事の話ですね。」「奨学金返済と、社食補助について色々話をしたりして。」
「日曜日に軽くパンケーキ食べて帰る、みたいな。」
「そんな感じです。というところかな。」
弁護士先生が、そこで少しうらやましそうに言う。
「うーん、いや、パンケーキもいいっすね。」
博子はすぐに笑う。
「先生、なんでもいいっすねって言いますやん。」
先生は、そこでちょっとだけ本音を混ぜる。
「僕だって、一通り話を聞いて。」
「やっぱり自分にない玉を、博子さんが他の人に投げてるのは。」
「ちょっとやっぱ、嫉妬するとかいう気持ちになりますからね。」
その言い方に、博子は少し笑う。
「じゃあ。」「十三のあれですか?」
「うん?」
「チークタイムのあるところ、行かはりますか?」
すると弁護士先生は、すぐに首を振って笑う。
「いや、それはちょっとあれやな。」「恥ずかしさが勝つかな。」
「出た。」「先生、そういうとこありますよね。」
「ありますよ。」
二人で最後に少し笑って、それから先生が言う。
「まあ、そろそろ店行こうか。」
「そうですね。」
天ぷらも一通り食べ終わって、
博子の水曜以降の流れもひとしきりほどけて、
嫉妬まじりの冗談まで出たところで、
二人はご飯屋を出て、そのまま店へ向かうのだった。




