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土曜日。東京イキリ社長の店内一セット目。銀座との差は明白。博子との遊びが楽しいとなるも、博子は他の社長とのバランスも考える

博子と一緒に店に入って、席について、ようやく一息ついたところで、

東京イキリ社長はしみじみと言った。

「やっぱり銀座と比べて、こっちの方がいいわ。」

博子は、グラスを整えながら、少しだけ笑う。

「ほんとですか。」

「ほんまや。単純に外遊びのことを考えずに言うてもやで。往復の新幹線に乗ってきて、

泊りっていう距離的なハンデがあってもやで。それでも今日みたいな同伴をしてくれたら、

そらこっち来たくなるって。」

その言い方には、半分大げさ、半分本音、という感じがあった。

でも、博子から見ても、本音の方がだいぶ強い。

銀座でへこんだあとに、今日京都で迎えられて、日本酒の店に連れて行かれて、

ちゃんと流れを組まれて、今また店に戻ってきてる。

その一連の動線が、もう向こうの感覚を書き換えてしまってるんやろうなと思う。

「銀座は本当に雑やと。」

社長は続ける。

「雑やし、あの子らは若いからっていうのもあるかもしれんけど、自分のことしか考えてへん。

おもてなしの気持ちがないわ。」

博子は、そこをそのまま受け止めすぎずに返す。

「いや、でも大阪も似たようなもんですよ。」

社長が、ちょっと意外そうな顔をする。

「そうなん?」

「そうですよ。進撃のノアのグループなんかは、銀座六本木の安いバージョンみたいな感じで、

安いから遊びに来るっていう東京の社長層もいるぐらいですから。」

「へえ。」

「だから、なんでもかんでも大阪に来たから、私みたいなサービス受けられるって

いうわけでもないんです。」

博子は、少しだけ肩をすくめる。

「そこがね、困りもんなんですよ。替えが効かないんで。」

その言い方に、社長が吹き出す。

「お前、自分のことめちゃめちゃ持ち上げるな。」

博子も、そこで笑う。

「いや、持ち上げるというか、事実やないですか。」

「すぐ言う。」

「だって、社長の電話かかってきた次の日にね。」

ヒロコは、そのままおじいちゃんの話に繋げた。

「大阪で、ずっと押してくれてるおじいちゃんがいるんですけど。社長の話したら、

“わしも酒蔵行きたい”って言ってきたから、次の日行ったんですよ。」

「おお。」

「で、この辺の話をちょろっとしたら、おじいちゃん爆笑しましたよ。」

社長も、それを聞いてもう笑っている。

「そらそうやろ。」

「だから、私の接客を受けてから、他のそういう“シャンパンで殴る世界”に戻ったら、

それは無理やと。」

「言い方。」

「こっちの居心地が良すぎてって。」

「うん。」

ヒロコは、そこで少しだけ社長の方を見る。

「で、現に今日ここにいてはるじゃないですか。」

社長は、その視線を受けて、少し笑いながら頷いた。

「うん、そりゃそうやな。」

その返しが、妙に素直で、博子はちょっとおかしくなる。

イキリ社長やのに、こういうところでちゃんと認めて笑ってしまうのが、

この人の人間っぽいところやった。

「いや、落差がえぐいで。」

社長は、少し背をもたれさせながら言う。

「もう俺の中では、まあまあ、博子ちゃんが言うてくれるから六本木にはもう一回だけ行くかも

しれんけど。」

「行くんですね。」

「付き合いもあるからな。」

「そこは大人や。」

「でも、気持ちは大阪に向いちゃってる。」

博子は、その言葉を聞きながら、少しだけ嬉しいような、でも少しだけ困るような顔で笑う。

「でもあれですよ。」

「うん?」

「一応、社長さんたち三人で来てはるから。

今日は一人で来て帰って、って感じですけども、集団で来た方が楽しいところもありますから。」

社長は、そこでちゃんと聞く姿勢になる。

「そうなん?」

「そうですよ。うちもグループで受けた手前ね。」

博子は、少しだけ本音を混ぜて言う。

「また温度差が出てきたら、ちょこちょこ空気が微妙な感じになってくるんでね。」

社長は、そこを聞いて苦笑いした。

「それをお前、なんとかせえや。」

博子がすぐに笑い返す。

「いやいや、なんとかするのも仕事ですけど。」

「仕事やろ。」

「仕事ですけど、限界はありますよ。」

「そこを超えるんが博子やん。」

二人でまた笑う。

店の中の一セット目は、そんなふうに、銀座との落差と、大阪の居心地の良さと、そして集団で受けることの意味を、少しずつ確認する時間みたいになっていた。

社長は一人で来てる。

だから今日の会話は、どうしても博子との距離が近くなる。

でも、その近さをただ個人的なものにしすぎると、また前の三人組の時みたいに、温度差が出る。

博子はそこをちゃんとわかってるから、あえて「また三人で来た方が楽しいところもある」と

差し込んでいる。そのバランス感覚が、やっぱりうまい。

「でも、今日は一人で来てよかったわ。」

社長が、少しだけ低い声で言う。

「へこんだままやったら、なんか気持ち悪かったし。」

「大丈夫です。」

「うん。」

「今日はちゃんと回復して帰ってください。」

「回復って。」

「銀座で削られた分を。」

「お前、ほんま容赦ないな。」

「容赦ないです。」

また笑う。その笑いの中で、最初の一セットはきれいに終わっていった。

社長の中では、銀座と大阪の差はもうかなりはっきりしている。

博子の中では、その差をどう“自分だけの勝ち”にせず、“また三人で来ても楽しめる空気”に

変えていくかが次の課題やった。

一セット目が終わる頃には、その両方が、なんとなく同じ卓の上に乗っていた。

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