月曜日。弁護士先生との同伴後半。東京の社長勢は隠れどM?現状の価値観を横からひっぱたかれたい願望??
「そういう意味ではですね。」博子は、パスタを少し巻きながら、弁護士先生の方を
見てゆっくり話した。
「東京からお金持ちのお客さんが来た時っていうのは、多分、私ら三人のチームで受ければ、
かなりの確率でハマってくれる、っていう座組は、もうでき上がってるところかなと思ってるんです。」
弁護士先生が、フォークを止める。
「ほう。」
「要は、東京の“シャンパンで殴る”ヒエラルキーに飽きた人たちが来るわけじゃないですか。
もちろん、そういう人たちって、そのまま進撃のノアグループみたいな、派手でわかりやすい
ところに流れる人もいると思うんです。でも、そうじゃなくて、“ちゃんと丁寧に接客してほしい”
っていう層が一定数おるんです。」
「なるほど。」
「それって、別に私じゃなくても、地方キャバクラ全般に多少はあるかなっていうところ
やと思うんです。東京よりは、まだ人との距離が近いし、丁寧にやる文化も残ってる。
でも、私たちはその中でも、特にちょっと違うことをしてて。」
博子は、そこで少しだけ笑った。
「価値観を、横から引っ叩くような形でいくんです。」
弁護士先生も、思わず笑う。
「横から引っ叩く。」
「はい。“高い方がいい”“有名な方がいい”“女の子は綺麗なだけでいい”“お金かけた方が満足度高い”
みたいな、そういう東京の常識を、横からバンって殴る感じです。」
「たしかに、昨日今日の話を聞いてると、そうですね。」
「で、私らは、安くても美味しいところ、お金がかからなくても心に刺さる何か、っていうのを、
常に探しながらやってるんです。しかも、それを頭の中だけじゃなくて、現場で回し続けてるんで。」
博子は、そこを少し強めに言った。
「だから、引っかかってくれるんですよ。」
弁護士先生が、静かに頷く。
「で、言うたら、複数で動いたら、個別でもそれを提供できる力が今つき始めてるので。全体で動くも
よし。個別でも、座組を別々で組んで最後改札口で集合して新幹線で感想を言い合う反省会して
もらうところまでのコースが、もうできてるんです。」
「新幹線での反省会まで含めて。」
「そうです。そこまでが一個の体験になってるんで。」
そこまで言ってから、博子は少しだけ照れくさそうに笑った。
「だから、他のところよりは、頭二つぐらい抜けてるかな、とは思ってます。ハマれば、
確実に私たちにハマってもらえるっていうところまで、今はできてる感じです。」
弁護士先生は、そこで素直に感心したような顔になった。
「いやいやいや。どこまで形作ってるんですか。」
「でも、その代わりですよ。」
博子は、すぐに現実の話に戻す。
「そんなにたくさんのグループは抱えられないんです。丁寧にしてるから。」
「そらそうでしょうね。」
「だから実質二組だけです、今、東京は。で、大阪は一組だけ。税理士先生の座組だけ。
これも月一ですから。そんな抱え込めないんですよ。」
弁護士先生は、そこで吹き出した。
「それはそうでしょうね。そんなもん回してたら、気狂いますわ。」
「そうなんです。」
博子も笑う。でも、本音やった。設計だけならまだしも、実際に動いて、気を配って、
店にも落として、個別にも対応して。そんなことを毎週バチバチやっていたら、ほんまに身が持たへん。
「でも、博子先生の今の話聞いてて思ったんですけど。」
弁護士先生が、少し真面目なトーンで言った。
「さっき言った、“価値観を横から引っ叩かれる”っていうのを、待ってる層って、
やっぱりいるでしょうね。」
博子は、そこで少しだけ目を細める。
「ですよね。」
「うん。だから、気持ちいいんですよ。自分が信じてたものを、綺麗にひっくり返される
っていうのを、面白がれる人がいる。」
「はい。」
「もちろん、引っ叩かれてブチギレる人もいると思いますよ。」
「いますいます。」
「でも、そういう人たちは、たぶんそもそも自分の領域から出ないんです。銀座で遊ぶ人は
銀座で遊ぶ。六本木で満足してる人は六本木で終わる。でも、わざわざ大阪とか京都まで
出てきたっていうことは、もうその時点で“壊されたい要素”があるんですよ。」
その言い方に、博子は思わず笑ってしまう。
「先生、やっぱり言葉にしてもらうとありがたいです。」
「いや、たぶんそうやと思いますよ。」
弁護士先生は、少しだけワインを口にしてから続けた。
「高学歴エリートで、しかもドMの人って、そこそこいるじゃないですか。」
博子が、そこで吹き出す。
「急にドMの話します?」
「いや、でもほんまに。」
「はいはい。」
「自分で頑張って、力を出し切って、高い位置まで行った。でも、それをどこかで否定してほしい、
もっと上から来てほしい、ひっくり返してほしい、っていう層は、なくはないと思うんです。」
博子は、その言葉を聞いて少し考えるように頷いた。
「それ、たぶんありますね。」
「ありますよね。」
「なんか、“お前が信じてたヒエラルキー、別に絶対ちゃうで”っていうのを、
雑じゃなくて、気持ちよくやられたい、みたいな。」
「そうそう。」
「で、それを、銀座六本木の派手な女の子じゃなくて、地方キャバ嬢三人組が、
京都大阪でじわじわやってくるっていう。」
「それがまた効くんでしょうね。」
二人とも、そこで少し笑った。でも、笑いながらも、かなり核心に触れている気がした。
博子は、フォークを置いて、小さく息をつく。
「だから、そういう人たちが来た時に、私ら三人で受けると強いんやと思います。」
「うん。」
「別に、正面から殴ってるわけじゃないんです。でも、気づいたら価値観がずれてる。
気づいたら“こっちの方が楽しいな”ってなってる。その持っていき方が、多分今の私らの武器です。」
弁護士先生は、ゆっくりと頷いた。
「それ、相当強いですよ。」
月曜日のイタリアンの夜は、そんなふうに、少しずつ言葉を深くしながら流れていった。
土日で起きたことが、月曜のご飯の中でまた別の輪郭を持ち始める。
博子は、それが少しだけ嬉しかった。
自分が感覚でやっていることを、こうして他人の言葉で返してもらえると、
やっぱり次の座組にも繋がっていく気がした。




