社長達をお見送りしてからの女性陣の会話と黒服からの博子時給千円アップのお知らせ
社長たちをお見送りして、女の子三人は少し早めに上がらせてもらって、引き上げることになった。
今日は、ほんまに長かった。でも、長いだけじゃなくて、ちゃんと流れがあって、
しかも最後まで崩れへんかった。その手応えが三人ともあったから、店の外に出た瞬間、
どっと疲れが来るというより、まず先に「いや今日よかったな」が出た。
「ほんま今日お疲れ様。」
博子がそう言うと、アルカちゃんもさきちゃんも、同じように深く息を吐いた。
「いやいやいや、流れすごい良かったわ。」
「うん、よかった。」
「っていうか、あれやな。」
アルカちゃんが少しだけ笑う。
「メイン社長はもちろんやけど、さきちゃんのとこも、私のとこも、もうちょい刺さって
くれたらええよな。」
「それはほんまにそう。」
さきちゃんもすぐ頷く。
「でも、それでもやっぱり二時間の解説は必要やったな。あれ、めっちゃ刺さってたで。」
博子は、そこは素直に受け取るでもなく、でも否定もせずに苦笑いした。
「いや、最終的にコンサルまで始めたから、もう何屋さんやねんって感じやったけどな。」
「ほんまやで。」
「でも、あれで腹落ちした感じはあった。」
「うん。」
今日の後半二時間は、ただ面白かっただけやない。
前半でそれぞれが作った温度差を、ちゃんと線にして、男三人に“何が刺さってるか”を理解させた。
だからこそ、最後のアルマンドにもつながったし、明日の伏見の話まできれいに落ちた。
そこは、三人とも同じ認識やった。
で、話は自然と最後のアルマンドの取り分の話になる。
「で、最後のアルマンドに関してはさ。」
アルカちゃんが、軽い調子で言う。
「この前の税理士先生のやつ、あれ、私らに回してくれたやんか。」
「うん。」
「だから、これはもう博子ちゃんが取って、っていう感じやと思う。」
博子がちょっとだけ顔をしかめる。
「いや、でも。」
「でもちゃう。」
さきちゃんが、すぐに切る。
「今日のあれは、完全に博子ちゃんの講義からの流れやん。そら、そこは博子ちゃんやで。」
博子は、少しだけ困ったように笑って、それから素直に頷いた。
「……じゃあ、ありがたくいただくわ。」
そこは変に遠慮しすぎん方がいい。
今日の分は、三人ともちゃんとわかってる。
誰がどう引っ張って、どこで店に落として、どうやって場を締めたか。
だから、変に均等にする方がむしろ気持ち悪い。
「で、明日やけど。」
今度はさきちゃんが、少し真面目な声で言う。
「ソフトプランやから、その、言うたらお手当ての積み上げは、そこまでは期待せんでも
ええかもしれへんね。」
「うん。」
「でも、前よりは刺さってるはずやから、最低ラインは超えてくるんちゃうかなって、
勝手に思ってるねん。」
「そうであってほしいよなあ。」
アルカちゃんが笑う。
笑うけど、そこには本音も入ってる。
今日だって、みんな色々考えてやっていた。
博子が先導してるのはたしかやけど、二人だってただ乗っかってるわけじゃない。
「私も、結構丁寧にやったつもりやし。」
サキちゃんが、ぽつりと言う。
「博子ちゃんに鉄板コース講義見せてもらったりとか、そういうのもありがたい話やし。
相手の社長さんらも期待値レベル上がってるかもしれへんけど、こっちもこっちでちゃんと
やるきやし、そこらへんは多少は見てもらいたいな。」
「それはあるよ。」
博子もそこは即答した。
「二人とも、前より絶対よくなってる。」
そんな話をして、三人でだらだら歩きながら帰ろうとしたところで、後ろから黒服が呼び止めた。
「ちょっと、三人とも。」
振り返ると、黒服も今日はちょっと機嫌がいい。
そらそうや。土日の座組で、店としての売上もかなり立ってる。
しかも、ただ卓が騒がしいだけじゃなくて、ちゃんと店に落ちる形で回してくれてる。
黒服からしたら、ありがたいしかない。
「とりあえず、三人ともありがとう。」
「いえいえ。」
「土日の座組に関して、すごいいい感じで回してくれてる上に、売上もめっちゃ立ってるから、
こっちとして助かってる。」
そこまでは、三人とも想定内やった。
でも、そのあとで黒服が視線を博子に向ける。
「で、博子ちゃん。」
「はい。」
「とりあえず、来週から時給千円アップね。」
一瞬だけ、博子が言葉を失う。
アルカちゃんとさきちゃんも、すぐ横で「おお」と小さく声を出した。
「ありがとうございます。」
博子は、ちゃんと頭を下げた。評価してもらえたこと自体が、やっぱり嬉しい。
店の外で回してることも、店内で落としてることも、ちゃんと見てくれてたんやなと思う。
黒服は、そのまま続けた。
「アフターとかで色々回してるのは、まあ知ってはいるけど。
こうやってアルマンド下ろし込んだりとか、こっちでも使ってくれるように誘導してくれてたり。
その辺、社長たちもバランス見てるのかもしれんけど、とにかくこっちにとっては結構ええ感じの
売上になってるから。」
「はい。」
「ほんま、頑張って。でも体壊さんようにね。博子ちゃん、毎日同伴してくれてるし。」
その言い方に、博子は苦笑いしながら頷く。
「わかりました。」
そして、ここはちゃんと先に言っとく。
「東京の集団はね、あんまり毎週毎週はちょっと無理なんで。
一週間空けてとか、ちょっとずらしながらやってたりとか。個別で刺さった人が来る分には、
それぞれ回そうとしてるんですけども、あんまり集団でバチバチにやりすぎたら、
三人全員の体調問題もあるんで、そこは気をつけます。」
黒服も、それにはすぐ頷いた。
「うん、それでいい。無理して飛んだら元も子もないから。」
その一言で、ちゃんと着地する。店にも理解がある。
三人の中でも温度が揃ってる。だから、今日はここで終わってよかった。
「じゃあ、お疲れ様です。」
「お疲れ。」
そう言って、ようやく三人は本当に帰る。
店を離れて、夜風に当たると、今日一日の濃さが少しだけ体に戻ってくる。
でも、それ以上に、今日はやったな、という感覚の方が強かった。
博子は、時給千円アップのことをまだ少し信じきれないまま、それでもちゃんと噛みしめながら、
アルカちゃん、さきちゃんと一緒に家路についた。




