表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

546/796

店内4時間目。奨学金肩代わりプランの相場観の提示。思い付きと見積もり、キャバクラの特殊性を加味してください。納得する社長達

博子は、さっきまでの奨学金肩代わりプランの話を一通り終えてから、

今度は少しだけ力を抜いた顔で、料金の話に入った。

ここを変にごまかすと、せっかくここまで真面目に話したものが全部ぼやける。

だから、言いにくいけど、ちゃんと言う。

「で、相場感の話なんですけど。」

社長たち三人が、少しだけ姿勢を直す。

博子は、グラスの横に指を置いたまま、落ち着いて続けた。

「この奨学金の肩代わりプランへの気づきであったり、この試算であったりっていうのに

関しては、だいたい私は十から十五万を見積もってます。」

「ほう。」

「ただ。」

ここで一拍置く。

「今、なんでその会社で現場の人がこの声を上げなかったかって言ったら、

現場の仕事が忙しくて、こんなもの作ってる暇がないからでございます。」

その言い方に、社長たちが少し笑う。

でも、笑いながらも、そこは実感がある。

人事も総務も、日々の業務で手一杯や。

制度を“回す”ことはできても、新しい制度を“思いついて叩き台を作る”ところまで手が回らん。

「で、じゃあ外部の社労士にこれを頼むかって言ったら、多分頼まないでしょう、と。」

「まあ、たしかにな。」

「社労士さんって、基本的に後ろ向きというか、保守的なんです。

給与代行とか、手続きとか、規定の整備とか。もちろんそれは大事なんですけど、

“こういう制度を作ったら採用に効くんちゃうか”っていう主体的な発信がなかったら、

自分から規程を作りに行くって、あんまり聞かないです。」

社長の一人が、そこで苦笑いする。

「積極的に規程作りに行く社労士、たしかにあんま聞かんな。」

「ですよね。」

博子は素直に頷く。

「だから、そういうところの気づき。あとは、キャバクラでこの話をするっていう特殊性。

社長と私のこの関係性、この空気感で言うたら、話を聞きやすくなってるっていうのもある。

そのへん全部をまるっと見積もって、スポットで二十万だと思ってます。」

男三人が、そこでまた静かになる。

高い、安い、という前に、ロジックを通してきたのがわかるからや。

博子は、その空気を見ながら、さらに言葉を足した。

「で、別にこれ、スポットなんで。定期的に絶対やりましょう、というよりも。

あとは、これを実際に動かすかどうかは社長方自身なので。」

「うん。」

「動かした結果、実際の数字で効果がこれぐらい出たとしたら、その中の幾ばくかを

私に流していただくか、お店で使っていただくかしてもらったら、私はそれで満足です。」

「お店でもええんか。」

「ええですよ。」

博子は、そこでちょっとだけ笑った。

「別に私だけ儲かりたいとかっていうつもりも、あんまりないし。

そもそも、そういう形では多分、私は社長たちとは出会えなかったと思うんです。」

その言葉は、妙に素直やった。場の空気も、それで少し柔らかくなる。

金の話やのに、いやらしくならん。

それは、博子が“今の関係性の延長でしか成り立たない”と、自分でもわかってるからやった。

「で、あと。」

博子は、少しだけ首をかしげる。

「私、後ろ盾になるような資格って、今そんなにないんです。証券外務員二種とか、

そのへんぐらいしかなくて。」

「意外とそこは堅実やな。」

「いや、だからこそです。今、即金性になりそうで、社長方の本業とは関係ないバック、間接部門の

ところで、なんとかできないかなっていうのも模索中なんです。汎用性あると想定でえきるので。」

「バック、間接部門ねぇ。」

「まあ、いろいろです。」

そこはみんなで少し笑う。

でも、言ってることは本気や。会社員でもない。士業でもない。

でも、こういう気づきと距離感で、お金になる入口を作れないか。

博子は、その境目を探っている最中やった。

話を聞き終えたあと、社長の一人がゆっくり息を吐いた。

「なんとなく相場感もわかったわ。」

「ほんまですか。」

「うん。たしかに、下から上に上げるのに、こんな資料をバカバカ作ってたら、

現場では“仕事せいや”ってなるしな。」

「ですよね。」

「しかも、ちょっとしたところへの気づきが出せた上で、ここまで数字出せるやつ、おらんと。」

その一言に、アルカちゃんとさきちゃんも、ほとんど同時に頷いた。

それはそうや。思いつくやつはおるかもしれん。数字出すやつもおるかもしれん。

でも、夜の卓でこの二つをつなげられるやつは、たぶんかなり少ない。

もう一人の社長が、資料を軽く叩く。

「この二十万は、わかった。」

博子は、そこでようやく少しだけ肩の力を抜いた。

「ありがとうございます。」

「で、実際に動かす分は、まあ、いろんな人が動くことやから。」

「はい。」

「確かに、全部が全部博子ちゃんの成果にはならへんわな。」

「そうなんです。」

「その辺も加味した上で、お店に落とすなり、個別でそのなり、考えるわ。」

最後のその言葉で、場がきれいに収まった。

博子は、深く頭を下げるでもなく、でもちゃんとまっすぐに目を見て「ありがとうございます」と

返した。金額の話。価値の話。成果の線引き。

そこまで含めて、今日の講義はようやく一周した。

男三人は、もう“おもろいキャバ嬢”を見る目ではなくなっていた。

その変化を見ながら、博子は内心で、今日の二十万はちゃんと通るな、と思っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ