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7月3週目月曜日。弁護士先生との同伴。先週の動きを言語化することで博子の動きの輪郭が見える

月曜日の夜。

博子は、刺身の美味しい店を選んで、弁護士先生と向かい合って座っていた。

魚がちゃんと強くて、変に気取ってへんけど、雑でもない。

月曜日の夜に、金土日の濃い話をするには、こういう店がちょうどいい。

刺身の盛り合わせを頼んで、日本酒を一杯目に入れると、先生はいつものように少し笑いながら言った。

「で、先生、なんかありました?って聞かれるんでしょうけど。」

「聞きますよ。」

「毎週毎週、そんな事件起こらないですよ。博子さんみたいに。」

博子が吹き出す。

「いやいやいや、私だって今週の土日はオフにしたんですよ。久しぶりに。」

「おお。」

「先週のことがあったから。さすがに一回休んどこうと思って。」

弁護士先生は、刺身をつまみながら頷く。

「それは賢明ですね。」

「でも、金曜日に税理士先生が、保険会社の人と、それと弁護士先生を連れて、ゴルフ接待

みたいな感じ座組で何かやってほしいって言ってきたんです。」

先生が、そこで目を少し細める。

「何ですかそれ。また面白そうですね。」

「でしょ。」

博子は、ちょっと得意そうに笑った。

「もともと私とアルカちゃんが、それぞれ指名いただいてて。それに、もう一組つけるって形で、

いつもの私のチームメンバーを一人参加させて。で、サンダーバードで京都まで行ったんです。」

「またサンダーバード。」

「はい。でもその間にも、四人卓みたいなのを作って、私と税理士先生と弁護士先生で、

新しい方の空気をほぐすっていうのをやって。」

先生は、そこでちょっと感心したように笑った。

「移動時間までちゃんと使うんですね。」

「使いますよ。そこがないと、いきなり京都着いてから喋るのしんどいじゃないですか。」

「なるほど。」

博子は、そのまま話を続ける。

「で、京都から伏見までは近鉄電車で行って。伏見の蔵元、藤岡酒造って

いうところに行きました。」

「蒼空のとこですか。」

「そうです。ちょっとしたスタンドがあるので、そこで軽く飲んで、お酒の解説をしまして。」

先生が、そこで思い出したように言う。

「鉄板コースでも見せましたよね。蒼空の純米大吟醸。」

「そうそう。あれ飲みに行きました。」

「それはいいですね。」

「で、その後、鳥せいっていう、伏見では結構有名な鳥屋さんがあるので、そこで鳥膳食べて。」

「うんうん。」

「で、帰りに黄桜のアンテナショップがあるんで、そこで百円の日本酒飲んで帰ると。」

弁護士先生が、思わず笑った。

「なんですかそれ、めちゃめちゃいいじゃないですか。」

「いいでしょ。」

「伏見満喫してますね。」

「してます。」

二人とも少し笑う。

月曜の店の空気は、土曜の夜ほど騒がしくない。

だから、こういう細かい流れの話もちゃんと入る。

「で、そこから同伴のご飯としては、ちゃんと座組にしたんですけど。」

博子は、グラスを少し持ち上げながら続けた。

「本当はね、別々で回りたかったんです。同伴は別でやって、最後だけ混ぜる、みたいな。」

「ええ。」

「でもやっぱり、ニューカマーが二人もいるので。いきなり分けると、たぶんどっかで

変な感じになるなと思って。だから、とりあえず六人で一緒にご飯食べながら、

場をほぐしたっていう感じです。」

先生が、そこでしみじみと言う。

「さすが博子さんですね。」

「何がですか。」

「東京勢での経験が、めちゃめちゃ生かされてるじゃないですか。」

博子は、少しだけ照れたように笑う。

「まあ、そうですね。最近、座組を回すはちょっと慣れ始めてきまして。」

「座組を回す?」

「複数人を一気に回すのが、ちょっとずつ慣れてきたんですよ。だから、

もうツアーコンダクターみたいになってました。」

先生は、それを聞いて吹き出した。

「いや、でもほんまにそうでしょうね。もうキャバ嬢っていうより、半分旅行会社というか、

半分接待コンサルですよ。」

「最近、よう言われます。」

「でしょうね。」

先生は、少し真面目な顔に戻る。

「でも、それって結局、相手が何を求めてるか見えてるってことですよね。

単に店を知ってるとか、酒を知ってるとかだけじゃなくて。」

博子は、その言葉にゆっくり頷いた。

「うん。たぶんそこです。酒蔵見るのが好きっていうより、“こういうふうに回してくれると楽しい”

っていうのが大きいと思うから。だから、酒蔵でも鳥せいでも、最後のご飯でも、

全部“流れ”として置いてるだけで。」

「なるほどなあ。」

弁護士先生は、刺身をひと口食べてから、また言う。

「なんか、毎週毎週事件起こしてるように見えるけど、実際は、起こしてるんじゃなくて、

組み立ててるんですね。」

博子は、それを聞いて少しだけ笑った。

「まあ、金曜の清掃会社の社長みたいなんは、事故でしたけどね。」

「それはそうですね。」

「でも、土日の東京も、金曜の税理士先生のやつも、結局、場をどう作るかになってるから。

最近ちょっと、事故対応よりも設計の方に寄ってきた感じはあります。」

先生は、その一言を面白そうに聞いていた。

「それ、かなり大きい変化ですよね。」

「かもしれないです。」

「だから、聞いてるこっちも面白いんですよ。」

博子は、そこでちょっとだけ肩の力を抜いた。

「ありがとうございます。先生、毎回“何かありました?”って聞いてくるけど、

最近ほんまに、何か起こすんじゃなくて、何か組む方になってきました。」

「それがまた、博子さんらしいです。」

店の中には、月曜らしい静かなざわめきがあった。

刺身はちゃんとうまいし、日本酒も悪くない。

その中で、博子は金曜の伏見の流れを話しながら、自分でも“確かに最近ちょっと変わって

きてるな”と思っていた。

弁護士先生はそれを、いつものように楽しそうに、でもちゃんと見ながら聞いていた。

月曜日の夜は、そうやってまた一つ、博子の今の仕事の輪郭を言葉にする時間になっていた。

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