7月2週目日曜日。博子完全オフ。体を整える。東京メイン社長とのやり取り。頻度の上限決めましょう(笑)
日曜日、博子は完全オフにした。昨日の土曜日も店には出ず、今日はもう本当に
体を整える日にしようと決めていた。昼ぐらいまでゴロゴロして、布団の上で寝たり
起きたりを繰り返して、ようやく起き上がってお風呂に入る。
熱すぎない湯にゆっくり浸かって、首と肩を回して、足を伸ばして、
ここ一週間の疲れを抜いていく。風呂から上がったあとは、軽く体を動かして、
ストレッチして、そのまま近所を散歩する。日曜の空気は、平日や土曜の夜と違って、
街がちょっとだけゆるんでいる。そういう中を歩いて、公園のベンチに座って、
何も考えずにぼーっとする時間を作る。
――何も考えずに、のつもりやったけど。
結局、頭の中には来週の予定が浮かぶ。
月曜日は名古屋先生。
水曜日はおじいちゃん。
木曜日は税理士先生で、この前の反省会みたいなものを挟むことになるやろう。
で、土曜日、日曜日は東京のメイン社長が、また三人で来る。
そうなると、また座組を考えなあかんな、と自然に思ってしまう。
完全オフにしたつもりでも、こういうところはもう癖みたいなもんや。
でも今日は、無理に答えを出さない。
浮かんできたものを、頭の中で一回寝かせるだけにする。
そうして夕方。
博子がまだぼんやりしているところに、東京のメイン社長から電話がかかってきた。
「もしもし。」
「おう、博子ちゃん。来週よろしくな。」
その声は、なんやかんやで機嫌が良かった。
博子も少し笑って返す。
「こちらこそです。どうでした、土曜日。」
社長は、そこで少し呆れたように笑う。
「結局な、あれから他の二人と軽く飲んで、六本木行ったんやけど、散々やったわ。」
「散々。」
「うん。俺自身は、もう銀座六本木じゃなくて、大阪で博子ちゃんと飲むっていう感じに
なってしもてる。残り二人は、興味津々ではある。けど、まだハマるかどうかわからん。」
博子は、その言い方に少し頷く。
やっぱりそうやろうなと思っていた。だからこそ、メールであの提案をしていた。
「でも、昨日もらったメールの感じで、概ねええと思ってる。」
社長は、そのまま続ける。
「コンサルティング費に関してはな、正直、俺も他の二人がどこまで刺さるかはまだわからん。
でも、あかんかったら俺が建て替える。二十ずつなら建て替えるし、最低そこは持つ。」
博子は、一瞬だけ黙った。思ってた以上にストレートやった。
「で、そっから先、刺さったりしたら、もうちょっと払うように言う。
なんなら、数千万一年で浮くってことがわかってるわけやから、その分は俺がやるわ。」
「そこまでせんで大丈夫ですよ。」
「いや、でもな。」
社長の声が少し真面目になる。
「他の二人にも、その話をしたってくれ。見積もり出させて、その効果がわかれば、
実際に実行するとなると、それぐらいのフィーが出るわけやから。
その分のいくらかは、コンサルティング費としてちゃんと考えさせる。
俺、これぐらい払ってるって話もしたし、それぐらいのことはさせるから。」
博子は、そこでようやく小さく息を吐いて、素直に言った。
「……ありがとうございます。」
「いや、ほんまにありがとうやで。」
そう返ってきて、博子は少しだけ目を閉じた。
大阪に向いてくれるのはありがたい。
こっちの価値をちゃんと見て、お金も時間も使おうとしてくれてるのもわかる。
でも、それにそのまま流されたら、こっちが先に持たない。
だから博子は、そこで少し声のトーンを整えた。
「社長、ありがとうはありがとうなんですけど、ちょっとルール決めましょう。」
「ルール?」
「うん。私ら、この座組を毎週毎週やるのは、やっぱりしんどいです。
他の社長さんもいるし、女の子三人の体力もあるし。
だから、東京の皆さんに来てもらうのは嬉しいけど、少なくとも毎週みたいな形にはしない。
そこは一回決めさせてください。」
電話の向こうで、社長は少し黙った。
でも、その黙り方は嫌な感じやなかった。考えてる感じやった。
「……まあ、そらそうやな。」
「でしょ。
来る時はちゃんと来てもらって、その代わり、こっちもちゃんと仕込んで、
ちゃんと出したいんです。雑に回したくないから。」
「うん。」
「だから、頻度はちょっと調整させてください。毎回来るたびに全力フルコース、は無理です。
ライトプランも入れるし、月一とか、二週空けるとか、そこは相談しながらにしたい。」
社長は、そこで少し笑った。
「わかった。その辺も含めて、博子ちゃんに任せるわ。」
「任せられすぎるのも困るんですけどね。」
「でも、その方がうまくいくやろ。」
博子も思わず笑った。
「まあ、それはそうです。」
公園の夕方の空気は、少しずつ涼しくなっていた。
電話をしながら、博子はベンチの背に身体を預ける。
来週はまた濃くなる。
でも、こうやって先に線を引けるなら、まだやれる気がした。
「じゃあ、来週よろしくな。」
「はい。またちゃんと組んどきます。」
電話が切れて、博子はスマホを膝の上に置いた。
完全オフの日。ほんまは頭を空っぽにしたかった。
でも、こうしてルールを一個決められたなら、それだけでも今日は意味があったなと思う。
無理なく、でも面白く。そのための線引きを、今週はちゃんとやっていかなあかん。
そう思いながら、博子はもう少しだけ、公園のベンチで夕方の風を受けていた。




