同伴が終わり店に向かう道中。話の中のコースボク体験していないとすねる先生。軽いやつ明日行きますか?
カマ焼きの店を出て、夜の空気に当たると、脂の余韻がふわっと抜けた。
新地の通りは相変わらず明るいのに、どこか落ち着いて見える。
博子は先生の歩幅に合わせて、ゆっくり店へ向かった。
弁護士先生が笑いながら言う。
「いや、ほんま思うんですけど。博子さんの話って面白いんですよね。」
「ありがとうございます。」
「それに来るお客さんが、みんな個性的や。……個性的にしてるん、
博子さんのせいかもしれませんけどね。」
博子は思わず足を止めかけた。
「え、なんで私が“引き寄せの法則”みたいになってるんですか。」
先生は肩をすくめる。
「だって普通、キャバで“社長が二週連続で同じ子に会いに来る”って、そんな頻繁に起きませんよ。
しかも東京から。」
博子は苦笑いする。
「まあ……刺さる人には刺さる、ってやつですね。鉄板コースもそうですけど、
高所得層の、ロジックで殴って生きてる東京界隈には、たぶん刺さりやすいんやと思います。
実際、その社長、刺さって二週連続で来てますし。」
「それが怖いんですよ。再現性が出てきてる。」
「怖いですね。」
「で、今週また、“東京のイキってる社長が社長二人連れてくる”んでしょ?」
「そうなんです。言うてました。」
弁護士先生が声を出して笑った。
「もう、完全に流れできてるやん。」
博子も笑う。
「できてます。私の土日、パンパンです。」
歩きながら、先生が少し真面目な顔で言う。
「でね。僕もやっぱり、その“鉄板のコース”……行きたいんですよ。」
博子は横目で先生を見る。
「先生、言うと思いました。」
「言いますよ。あんな話聞かされたら。」
「でも、あれ、手料理が入るんで……明日行きましょ、って明日すぐ回せるもんじゃないんですよ。」
「ほら。そこで“特別感”出す。」
「違う違う。」
博子は手を振る。
「ただ、型はあるんです。側は同じで、中身をちょいちょい変える。これなら出せるんですよ。」
先生が食いつく。
「どういうやつ?」
博子は指を折りながら言う。
「例えば大阪やったら、まず小籠包の美味しい店で軽く腹作って、グラングリーンで
コーヒー飲んで芝踏んで、ぼーっとする。ホテルラウンジじゃなくて、
あえて外で。短いけど、あれ結構、気持ちが落ちるんです。」
先生はニヤッとする。
「それ、良い。めっちゃ良い。」
「でしょ。鉄板みたいな“会心の一撃”じゃなくても、こういう“軽い座組”はできます。
しかも先生、火曜木曜空いてないじゃないですか。」
「空いてます。っていうか、空けます。」
「いや、そこまで言わんでいいですけど。」
博子は笑いながら続けた。
「この前、相談聞いてもらったじゃないですか。だから、そのくらいなら
無料で対応しますよ。ランチ+散歩くらいで。」
弁護士先生の目が一気に明るくなる。
「え。僕だけ?」
「先生、すぐそういう言い方する。」
「いや、嬉しいですよ。僕だけ特別扱いって。」
博子はため息みたいに笑った。
「特別扱いっていうか……地元で、私が売れてない時に拾ってくれた人には、
義理は果たしたいんです。だから、ぼったくり料金にするつもりはないんで、安心してください。」
「怖いわ。」
先生が笑って、すぐ続ける。
「でも、分かる。最近の博子さん、乗ってるでしょ。社長たち案内して、
面白さに磨きかかってる。話の回し方も、返しも、前よりシャープになってる。」
「……そうですかね。」
「そう。で、その状態で“軽い座組”とか回されたら、僕、確実に刺さります。」
博子は横目で先生を見て、少しだけ口元を緩めた。
「じゃあ先生、明日。小籠包+グラングリーン、行きます?」
先生は即答する。
「行きます。」
「即決すぎる。」
「だって、今日カマ焼き食べて、今このテンションで帰らせたら、仕事に戻れなくなる。」
「それ、私のせいにせんといてください。」
二人で笑って、店の灯りが見えてきた。いつもの黒服が入口で頭を下げる。
博子は一瞬だけ深呼吸して、先生の横で小さく言った。
「先生。明日は“刺す”っていうより、“整える”ですからね。」
先生は満足そうに頷いた。
「十分です。むしろ、それが欲しい。」
博子は笑って、扉をくぐった。




