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第二話 食事が気に入らないお嬢様

両親と離れて別邸にやってきた貴族令嬢フィリーは我儘放題。

朝食に出た苦手な食べ物に癇癪を爆発させますが……?


どうぞお楽しみください。

「タステ! 何よこのサラダ! 私の嫌いなのが入ってるじゃない!」

「あ、ですがお嬢様、旦那様から『野菜もしっかり食べさせるように』と言付かっておりまして……。特にそのアカブシュの実は栄養も豊富で……」

「やなものはやなの! 私絶対食べないからね!」

「お嬢様……」


 フィリーの剣幕に押される料理人タステ。

 するとそこに、


「おやおやー? フィリーお嬢様、アカブシュの実、お召し上がりにならないのですかー?」

「……! クラウ……!」


 細目細身細縁眼鏡の若手執事クラウが、にやにやとした笑みを浮かべて食堂に入ってきました。

 フィリーは警戒を込めて睨みつけますが、クラウはどこ吹く風と言った様子。


「いやー、お召し上がりにならないのでしたら、僕がいただいてもよろしいですか?」

「た、食べてくれるの!? じゃああげる!」

「おぉ、何と慈悲深い……!」


 眼鏡を押し上げてハンカチで目を押さえ、感に堪えないと言った様子のクラウに、フィリーは若干戸惑います。


「な、何よクラウ。大袈裟ね」

「大袈裟などという事がありましょうか! 『アカブシュの実が実ると、医者が南に旅に出る』という言葉もある程のものをお渡しいただけるだなんて!」

「な、何よそれ。どういう意味?」

「この実の栄養は非常に多く、食べると病気になりにくくなります。なのでこの実が実る時期には、医者は旅行に行ける程暇になるのです」

「そ、そうなの!?」

「しかも肌はつるつる、髪はさらさら、歴代の美女は皆こぞってアカブシュの実を食べたと言う程の歴史的価値のある食材なのです」

「へ、へぇ……」


 クラウの言葉にフィリーは、皿の上のアカブシュの実を見つめました。

 そう言われると、つやつやで赤いその実には、確かに栄養が詰まっているように見えます。


「ではありがたく頂戴いたします」

「ま、待ちなさい!」


 どこからともなく取り出したフォークを皿に伸ばそうとするクラウを、フィリーは慌てて止めました。


「何ですかお嬢様?」

「……っぱり食……」

「はい? 何ですか?」

「やっぱり食べるって言ったの!」


 フィリーはそう叫ぶと、アカブシュの実をフォークで刺そうとします。

 しかし、


「これは私がいただいた物。それを返せとはご無体な」


 一瞬早くアカブシュの実は、クラウのフォークに捉えられていました。


「か、返しなさい!」

「何を仰います。要らないから私にくださったのでしょう? 今更食べると言われても、アカブシュの実も困ってしまう事でしょう」

「う、うるさいうるさい! いいから返しなさい!」

「なら匂いだけ嗅がせて差し上げますよー。ほれほれー。どうですかー」

「……!」


 顔をアカブシュよりも真っ赤にしたフィリーは、目の前をひらひら舞うアカブシュの実を睨みつけ、


「あむっ!」

「し、しまった!」


 一番自分の近くに来た瞬間にかぶり付きます。


「!」


 噛み潰した時の溢れる果汁の食感に顔をしかめながら、フィリーはアカブシュの実を飲み込みました。


「あぁ……。私のアカブシュの実……」


 一息ついたフィリーは、落胆の表情を見せるクラウに得意げに胸を張ります。


「ふふん、何よその目は。主人である私が健康できれいになるんだから、従者として喜びなさい!」

「……はい、お嬢様……」


 自分が健康で美しくなるという期待感と、クラウを出し抜けたという満足感で、上機嫌になるフィリー。

 その高揚した気分のまま、タステに向き直ります。


「タステ。これからは毎回アカブシュの実を出しなさい」

「は、はい! かしこまりました!」

「でも一個でいいからね! 一回一個!」

「かしこまりました!」


 再び得意げになると、大好物の甘い卵焼きを食べ始めるフィリー。

 上機嫌なフィリーは気付きませんでした。

 タステとクラウがフィリーに見えないよう、こっそり拳を合わせていた事に……。

読了ありがとうございます。


医者の仕事を奪うアカブシュの実……。

一体何マトなんだ……。


子どもの好き嫌いに無理強いは、逆効果になる事が多いです。

好奇心や興味を刺激すると、あっさり食べてくれる事もありますが、無理な時は無理なので気長に対応しましょう。


フィリー……六歳

甘いものが好きで、苦いものは嫌い。アカブシュの実の甘酸っぱい味そのものは嫌いではないのですが、食感が苦手です。しかし初撃に耐えれば何て事ないとわかったので、一食一個は余裕になりました。


クラウ……十八歳

苦い、辛い、酸っぱいなど、刺激のある癖のある味が好き。甘いものはあまり好んで食べません。将来は立派な酒飲みになるでしょう(偏見)。


タステ……四十一歳

家庭料理から宮廷料理まで一通り作れる一流の料理人ですが、独創性に乏しいためあまり評価されず、派手さのいらない別邸の料理人に収まっています。好きなものは肉。嫌いなものは酸味の強いもの。


次話もよろしくお願いいたします。

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