第一話 服が気に入らないお嬢様
秋月 忍様主催『男女主従祭』参加作品です。
今回はわがままな幼女と、それに意地悪する執事のお話です。
どうぞお楽しみください。
「やだやだ! こんな服やだ!」
「ですがフィリーお嬢様、これはお嬢様が着たいと仰った服で……」
「フィリー、青がいいって言ったもん! これ水色じゃない!」
「……申し訳ありません。この別邸にある服で青に一番近いのはこれしかありませんので……」
「じゃあ買ってきて! 今すぐ! それまで私、服なんか着ないから!」
「えぇ……」
小さい身体をいっぱいに使って、怒りを表現するフィリー。
幼さゆえの聞き分けのなさに、困り果てるメイド。
その耳に扉をノックする音が聞こえました。
「どーもー。お取込み中失礼しまーす」
若く、明るく、そして軽薄な声。
フィリーは怒りに任せて、扉越しに言葉を叩きつけます。
「その声はクラウね! 何の用よ!」
「いやー、廊下を歩いていたら、お嬢様の裸んぼ主義が聞こえてきたので、それはやめた方がいいですよーとお伝えにー」
「そんな事言ってないでしょ!?」
「またまたー。『服なんか着ないからー』ってちゃんと聞いてましたからねー。あ、でも誰にも言いませんから、こっそりやめてくださいねー」
「……ヴァレッタ! さっさと着せなさい!」
「は、はい!」
少しして扉が開きました。
そこには水色のドレスを着て腰に手を当て、仁王立ちになるフィリーの姿がありました。
「裸でいたいんじゃなくて、こんな薄い水色なんか似合わないから、青い服を買ってきなさいって言ったの! わかった!?」
「いえいえ、とってもお似合いだと思いますけど? 特にたくさん付いてるフリルがとっても可愛らしくて」
「私は似合わないって言ってるの!」
「僕は似合うと思いますよー」
「もう! 何で逆らうのよ!」
地団駄を踏むフィリーに、クラウは余裕のある笑みを崩しません。
「あ、成程ー。じゃあ僕嘘つきますねー。その服、全然似合わないですー」
「……! 私の事、バカにして……!」
「やだなぁ。お嬢様の仰る通りにしただけですよー」
「……うー!」
フィリーに反論の言葉はなく、クラウを睨み付けることしかできませんでした。
それを見たクラウは、笑みを深めて言葉を続けます。
「あと、もしヴァレッタさんがお嬢様の気に入る服を買うまでに時間が掛かったら、お嬢様はずーっとお部屋で待たないといけませんねー」
「う……」
「今朝の朝ご飯、お嬢様の好きな甘い卵焼きだそうですけど、冷めちゃいますねー」
「……わかったわよ! 今日はこれでいいわ!」
吐き捨てるようにそう叫ぶと、フィリーは足音荒く部屋を出ていきました。
「お嬢様! お待ちください!」
慌ててその後を追うヴァレッタの背を見送って、クラウはにやりと笑みを浮かべます。
「……ちょろいもんだ」
その笑みは先程までとは違い、狐を思わせるようなずる賢く意地の悪さを感じさせるものでした。
読了ありがとうございます。
フィリー……六歳
いつもは活発で好奇心旺盛、人懐っこい女の子ですが、別邸に来てから我儘放題。その理由は……。
クラウ……十八歳
別邸の若手執事。細目細身細縁眼鏡と胡散臭さの三拍子。言葉遣いこそ丁寧ですが、何やら腹に一物抱えているようで……。
ヴァレッタ……二十歳
別邸のメイド。フィリーの身の回りの世話を任されるも、生真面目かつ身分差を重んじる性格なので、その我儘に振り回されています。
次話もよろしくお願いいたします。




