こういう時は意外な正体が明かされると決まってる
レイアは非常に困っていた。
たまたま王妃の階段の近くを通りかかり、騒ぎが聞こえたから耳をそばだてたらどうやらクレアに魔術を使った嫌疑がかけられていた。しかも相手は、あのオリヴィアだ。
クレアはいい子なのだが、多分こうした時の言い訳はあまり上手くないだろう。正直っぽい性格だし……。オリヴィアと護衛の魔術師相手にいつボロが出てもおかしくない。
そう考えたレイアは騒ぎを収めるためにその場へと入っていくことにした。
そこまではいい。オリヴィアの嫌味ももはや、聞き慣れたものだ。しかし続く展開には流石のレイアでも予測不能で、対処しきれなかった。
クレアの隣にいた具合の悪そうだったもう一人のメイドが、あろうことか花瓶に手をかけて倒しそうになり、それを防ぐためにクレアが動いた。が、間に合わずに二人は花瓶の水をひっかぶりびしょ濡れになってしまった。
突然すぎてびっくりだ。
まあしかし、結果として……オリヴィアの気まぐれな命令で、レイアの元にはクレアと具合の悪そうなメイドが残された。
この城でオリヴィアの言うことは絶対で、諌められるのは父か兄、もしくはアシュロンだけだが、たかがメイドの処遇に関して言ったところで鼻で笑われるのがオチだ。
どうしようか……当初の計画ではクレアだけが専属になる予定だったのだが……途方に暮れつつ、とりあえずずぶ濡れなのをなんとかしたほうがいい。
あとで何か適当な言い訳をして、もう一人の子は元の職場に戻すのがいいだろう。
レイアは立ち尽くす二人に向かって、一つ提案をした。
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「ひとまず私の部屋まで行こうか」
レイアのその一言で止まっていた時間が動き出した。クレアとリリーは頭と服をタオルで拭いてから素早く花瓶に水をいれ、花を元に戻す。
それからレイアが先導して西の尖塔まで行くことになった。
無言で歩く三人。状況はとても微妙だ。
クレアとレイアが顔見知りであることをリリーは知らないし、クレアが魔術を使えることをリリーに話していることもレイアは知らない。
リリーにどこまで話すべきなのか、非常にデリケートな問題だ。全てを話すわけにはいかないし、かと言って共に行動する以上はある程度のことを知らせておいたほうがいい気もする。
国宝レベルの貴重な魔術書を盗もうとしているのだから、全てを話してしまうわけにはいかないが、知り合いだというのは教えてもいい気がする。そのほうが何かと行動しやすい。
レイアはどう思っているのだろうかと見てみても、前を歩いているので何も読み取れない。黙ってついていき、三人で果てしなく長い螺旋階段をぐるぐる登る。
レイアはなぜ王族なのに、こんな不便で寂しい場所に部屋を構えているのだろうか……不思議だ。
簡素な木の扉を押して開けると、以前にも来たことがあるレイアの私室が広がっていた。何もかもが豪華すぎるこの城の中でレイアの部屋は割とさっぱりとしているためホッとする。マホガニーの机に柔らそうな煉瓦色のソファ、奥には天蓋付きベッド。
扉を閉め、レイアがこちらを振り返った。その瞳にはわずかな動揺が見られ、なんと声をかけようか迷っているようにも見られる。
口を開き、閉じ、逡巡しているレイアとそんな彼女を見つめるクレア。
以外にも、動いたのはリリーだった。
いつものおどおどした何処へやら、リリーは背筋をピンと伸ばして両手をそっとエプロンの前で合わせ、少し頭を下げ、実にメイド然とした態度でそこに佇んでいる。
「この機会を待ち望んでおりました。レイア・トレビュース・テオドライト第一王女殿下。及び荒野の魔術師の弟子のクレア・ヴァンドゥーラ様」
一言一句をはっきりと口にするリリアは顔つきまでもが先ほどとは異なっている。
唐突な態度の変化にクレアもレイアも驚き警戒すると、ちょっと顔を上げたリリーがいたずらっぽく笑った。
「私はリリー・ブラウンと申します。……レイア様をお守りするようあるお方に申しけられ、城へと潜入しておりました」
「なっ」
「リリー、それはどういう……」
「少し時間がかかってしまったのだけれど。作戦の第一段階は成功、ということで知らせを出したいと思います」
「どこに出すの?」
「それはもちろん、ロレンヌ王国の王城におわします、第一王子ユリウス様ならびに第二王子ヘンリー様よ」
あまりの急展開についていけないクレアとレイアは揃って顔を見合わせ、リリーに向かってこう尋ねた。
「詳しい話を聞かせてもらおう」
「はい、順を追ってお話しいたします。その前に」
クレアへと向き直ったリリーは、未だ濡れたままの服の裾をつまんで見せる。
「これ、クレア様の魔術で乾かしてもらえませんか?」




