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魔法少女をあきらめない! ~筋肉神に愛された少女~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』
第七章

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第89話 鎧竜はひっくり返る

交換日記[筋肉神]


む!? あの麗しき女性のお乳!

……フ、なかなかの大胸筋ではないか!

 アリアーナ神権国家を出て二日。わずか二日です。


 青い空と乾いた砂の大地の狭間を飛翔するわたしたちの視線の先には、すでに広く深い森が延々と広がっていました。

 まるで太平洋を望むかのように、水平線ではなく森が広がっているのです。たぶん、日本列島くらいでしたらすっぽり収まってしまう程度の広さはあるのでしょう。


「ナマニク、止まれ」


 アデリナがナマニクさんの首の付け根を叩き、ナマニクさんを空で留めました。


 この二日でずいぶんと言葉も通じるようになってきました。これはもうわたしの教育の賜物ですね。主にジェスチャーで教えているのはアデリナですが。


「どうかしたの、アデリナ?」

「結界だ。この森はリリフレイア神殿国領内。空からだろうが地の底からだろうが、踏み込めば死ぬぞ。ナマニクが」

「わたしたちは?」

「問題ない。人間は素通りできる。犯罪者であってもな。だが、魔獣や魔物は不可能だ」

 ――グァアッ!?


 意外そうな声でナマニクさんが、長い首をわたしたちのいる背中へと向けます。


「おまえは人間じゃないからな。魔物や魔獣とも言えんが、立ち位置的には微妙だ。このまま突っ込んで試してみてもかまわんが、明日からヤキニクと呼ばれるようになるかもしれん」

「おいしそう!」

 ――グァァ……。


 冗談ですよ。なんて目で見やがるんですか。


「厳しいんですね。リリフレイア神殿は」

「ああ。以前はそこまで強い結界ではなかったのだが、数年前に外から来た一人の竜騎士と一体の古竜がリリフレイア神殿国領内で殺人事件を起こしていてな」


 アデリナの端正に整った顔が、皮肉に歪められます。


「それも、ちょうど魔王がアラドニアを支配する直前くらいだ」

「時期と地図的に考えて、魔王本人ですね、それ……」


 アリアーナ神殿から北西に位置する集落でレーゼ様と邂逅し、わたしたちと同じようにリリフレイア神殿国を経由してアラドニアに入ったといったところでしょう。


 あいつめ。どこまでわたしたちの邪魔をするんですか、ほんと。絶対に絶対に、味方にしてやるんだから。


「当時張られていた結界は人間と古竜などの一部上位生物には効かないものだったが、以降はワイバーンの出入りにも規制がかかってな。南方砦からしか出入国できなくなった。それも、騎竜は置いて人間だけだ」


 力の選別ですね。

 あまりに強い力は入国できなくした、と。七英雄クラスなんて、そうごろごろいるものでもありませんし。


「では南方砦を探しますか?」


 アデリナが思案するように顎に手をあてます。


「単刀直入に言うが、あたしなら結界をぶち破れるぞ」


 一瞬、口がぽかんと開いてしまいました。


「あ、あの、アデリナ? 突然何を言い出しやがるんですか……。いくら投獄常連のわたしたちでも、自分から犯罪者になりにいくのはどうなのって……」


 アデリナがへの字口でわたしを振り向きます。


「まあ、そうなのだが。ただ、父の地図を鵜呑みにするなら、リリフレイア神殿国家領はなかなかの広さだ。村や集落は多く点在しているから、それでも進めないことはないんだが。しかしいかんせん、あたしたちには時間がない」

「ああ……」

「魔王の所業に関係なくリリフレイアは騎士の国だ。移動は馬か馬車になる。もともと小型飛空挺はないし、最寄りの集落で馬を借りても中央神殿まで十日はかかる。さらにアラドニアを目指すために南方砦まで引き返すとなるとさらに十日だ」

「うぁぁ……」


 この状況で二十日の足止めはあまりに痛すぎます。

 第二第三のカダスが出てこないとも知れません。いいえ、もう出ていてもおかしくはないのです。そして、そのたびに黑竜は魔素を喰らって強くなる。

 取り返しがつきません。


 アラドニアの用事を甚五郎さん(ハゲ)にお任せするという考えもできますが、ゼロムゼロムが目を覚ます時期が遅れれば遅れるほど、彼も動けなくなります。

 それに、ほんとうに魔王(サムライ)勇者(ハゲレスラー)を遭わせてしまっていいのか、判断がつきません。戦いが始まり、どちらかが欠けてしまう結末こそが最悪なのです。


「破るか?」

「……………………仕方がありませんね。あとで必死で弁明しましょう。アリアーナのときのように聖女様が助けてくださるかもしれませんしね」


 そこに期待するのはいささか間違っているとは思いつつ。


「よし」


 アデリナが胸鎧の内側からナイフを取り出して、前方へと掲げます。たぶん、わたしの目には映らないリリフレイアの結界へと向けて。


「ナマニク、あたしの合図と同時に全速力で前方へ進め。止まれと言うまではひたすら突き進めよ」

 ――グアァ。


 ちゃんとわかったのかしら。心なしか自信満々に聞こえました。

 いや、ほんと、フリじゃないことを祈るばかりです。


「わかってんだろうな。失敗したらおまえは死ぬぞ」

 ――グアァグアァ。

「返事は一回って言ったでしょ!」

 ――グアァ……。


 首ががっくりと下がります。


 よし、ちゃんと通じてますね。


「やるぞ」

「珍しいですね。触媒を使うなんて」

「触媒? バカ言え。それじゃ魔法を使うみたいじゃないか。剣技だよ、剣技」

「……そーですかー……」


 アデリナはナイフを掲げた右腕を左手でつかみ、高く持ち上げます。


「――光波一閃」


 そうして勢いよく振り下ろした瞬間でした。目が眩むような光がナイフから斬撃として飛翔し、目の前の空間を斬り裂きます。

 それは不思議な光景でした。わたしたちが見ていた広く深い森の景色が、絵に描かれたもののように破れたのです。破れて捲れ上がったその向こう側には、まるで同じ景色が広がっていました。


「行け、ナマニク!」

 ――ガアア!


 ほんの一瞬、溜めのためにナマニクさんが上体を持ち上げた直後、鼻先から破れた景色の中へ飛び込みました。

 アデリナの風の結界で暴風は防げても、慣性は防げません。


 怪力でナマニクさんの鱗を両足でつかむわたしはともかく、アデリナの身体は後方に取り残されるかのように浮かんで。

 けれども、その顔に焦りはなく。だっていつものように。


「……ッ」


 わたしが彼女の手をつかんで引き戻すから。

 わたしたちの全身が、ナマニクさんごと結界内へと入り込みます。


「え……?」


 結界内には何もありませんでした。トンネルだったのです。森ですらありません。暗く、黒く。その遙か向こうに光があって、その先にだけ森が広がっていました。


「急げナマニク!」


 アデリナの叫びが響きます。トンネル後方、わたしたちが飛び込むために作った破れの部分が、闇に侵されるように閉ざされます。

 トンネルが後方から崩落してゆくかのように。


「……!」


 それだけではありません。左右の壁も、上下の天井と地も、後方からの闇と同じように迫ってくるのです。


「急いで! ナマニクさんッ!」


 ナマニクさんは必死に羽ばたきます。前方にのみ見える光へと向けて。森へと向けて。けれども、その光さえも徐々に小さくなっていき。


 ――……ッ!


 舌打ちをしたアデリナが叫びます。


「ダメだ抜けきれん! 蓮華! あたしの腰に腕を回して固定しろ!」

「はい!」

「クソ! あまり使いたくはなかったが、魔法を使う!」


 え~……今さっきも使ったばっかじゃぁ~ん……。


「はい! 見なかったことにします!」


 ナイフを胸鎧に戻したアデリナが、後方を向いて両手を持ち上げます。わたしはあわてて彼女の腰に両腕を回し、両足でさらに強くナマニクさんの鱗をつかみました。


「――暴風竜の吐息(ブレス)!」


 直後、アデリナの両手の平から凄まじい量の緑の暴風が吹き荒びます。それはナマニクさんの尻尾を超えて、閉ざされた闇の壁へとぶつかるほどの勢いで。


「きゃ……あ……ッ!」


 一瞬、鱗をつかむ足が前方へと持って行かれそうになりました。わたしは内股にさらに力を込めて、どうにか耐えます。


「ぅ、ぐ」


 ジェット噴射を得たかのように、ナマニクさんの飛翔速度が一気に上がりました。


 ――ガアアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーッ!!


 秒と経たずに黒のトンネルをすり抜けて、光の中へと躍り出て――ッ!


 バランスを崩して重力に引かれ、ナマニクさんの巨躯で樹齢不明な大樹を薙ぎ倒しながら森の地面へと落下しました。

 アデリナを抱えたままナマニクさんの背中を蹴って、わたしは森の腐葉土へと飛び降りて逃れます。すぐ横でナマニクさんが凄まじい音を立てながら背中から大地を揺らして落っこちてきました。


 ――グアアァァ……!


 舞い上がる落ち葉と抉れた大地から噴出する土煙。

 木々からは鳥たちがあわてて飛び立ち、獣らが逃げ去る音がしました。

 ナマニクさんは両脚を空に向けたまま、わちゃわちゃさせています。たぶん混乱しているのでしょう。


「……どんくさい……」


 ですが、ひっくり返ったままではありますが、どうやら元気そうです。さすがは頑丈だけが取り柄の鎧竜ですね。

 しかしこの体たらく。竜とはとても思えないマヌケっぷりですね……。


 ――グァァァ、グァァァ……!


 アデリナがわたしのお姫様抱っこから降りて、後方の結界を眺めました。


「驚いたな。破った箇所がもう直っている」


 そうしてわたしを振り返って、細い肩をすくめます。


「やれやれ、予想の十倍ほど分厚かったから焦った。まさかこのあたしが魔法に頼らなきゃならんとはな」


 じゅ、十倍て……。どうやら相当危なかったようで……。まあ、そうでなければアデリナが自ら「魔法を使う」なんてことを言うはずもないのですが……。


 その横ではあいかわらずナマニクさんがひっくり返ったまま、脚をわちゃわちゃと動かしていました。



交換日記[魔法神]


病んでる小娘のほうも、風精王が憑いておりましたなあ!

これは珍しいですぞ!

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