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魔法少女をあきらめない! ~筋肉神に愛された少女~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』
第六章

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第72話 新たなる七英雄

交換日記[魔法神]


うちの娘、男前(*゜ー゜*)

 わたしたちが戦闘態勢を取った瞬間でした。

 十三体のグリム・リーパー――ううん、正面に立つ一体以外の十二体のグリム・リーパーたちが、一斉に大鎌を消滅させます。光の粒子、つまりは変身光とともに。


 正面に立つ一体は最初から持っていません。

 見分けはつきませんが、七宝の屋敷を模倣した魔法の中で、大鎌を投げ捨てた個体なのでしょう。


「……」


 わたしもアデリナも、かまえは解きません。

 けれども、たしかに。わたしたちはたしかに気勢を削がれてしまいました。


 わたしの正面に立つグリム・リーパーが、目深に被ったフードの奥で口を開きます。


「戦う気は、ない」


 同じ声。さっきわたしに話しかけてきたグリム・リーパーと同じ声です。


「……わたしが死神の言葉を信じるとお思いですか?」


 真後ろに位置取っていた別のグリム・リーパーから声がしました。


「それはあなた次第だ。好きにすればいい」


 同じ声。今し方話しかけてきたグリム・リーパーと、まるっきり同じ声です。

 また別のグリム・リーパーが口を開けます。


「ただし、我々の話は聞いてもらう」


 わたしは視線を回して叫びました。


「ふざけないでっ! 問答無用でしかけてきたのはそちらのほうでしょう! 今さら何!? ゆるしでも乞うつもりなの!?」


 母を、あんな身体にして!

 多くの人々を、誘拐して!


「あなたたちがどれだけの悲しみを生み出してきたと思っているの!?」


 また別のグリム・リーパーから同じ声がしました。今度は左手側。


「勘違いするな、七宝蓮華。これは提案ではない。我らがその気になれば、あなたも、そこのアデリナ・リオカルトも、まとめてここで括り殺すことができる」


 今度は左斜め後方。


「たとえば次の呼吸をする瞬間にでも」


 右斜め後方。


「たとえば次の言葉を発する瞬間にでも」

「たとえば――」

「――もういい」


 ランダムに言葉を発するグリム・リーパーを遮ったのは、わたしではなくアデリナでした。

 わたしはあわててアデリナに呟きます。


「耳を貸さないで、アデリナ。信用できない」

「だが、おまえの話を信じるなら勝ち目はない。おまえより強いやつが十三体もいるんだからな。それにあたしは興味がある」


 わたしたちが相談している間、グリム・リーパーは口をつぐみます。まるで全員の意志がわずかな差異すらなく一つであるかのように、そろって。

 ただ、フードの奥。視線だけをわたしたちへと向けて。


「でも……」


 病床の母。ううん、傷病の母の姿が脳裏に浮かびます。

 あんなに食事が好きだったのに、大鎌の傷を負ってからは何かを食すたびに全身を折って苦しんで。それでも、まだ幼かったわたしに笑いかけてくれて。


 大丈夫よって、頭を撫でてくれて。


 思い出すたびに頭に血が上って、怒りと憎しみに血管が震えます。今すぐにでも殴りかかってやりたい気分です。


「蓮華、落ち着け。おまえがやつらと戦うならば付き合うが、やつらの言う通り、話を聞いてからでも状況的に変わりなどないはずだ」


 十三体のグリム・リーパーは、鋼鉄の部屋でわたしたちを円状に取り囲んだまま動こうとはしません。

 母の、歴々に散っていった多くの魔法少女たちの仇敵を目の前にして、わたしは歯がみします。

 そんなわたしの頬を両手で挟み込み、アデリナはくいっと自分のほうへとわたしの視線を強引に向けさせました。


「一度深呼吸をしてあたしを見ろ」


 わたしは苛立って拳を握りしめ――けれどもアデリナの胸鎧の小さなへこみに視線を向けて、数秒見つめ、頭を振ってから深呼吸をしました。

 そうして力ない声で、弱々しく呟きます。


「……ずるい、アデリナ」

「悪いな。嫌なことを思い出させた。だが、これで()()()だ」


 あまりにも悪びれた様子のない表情で告げるものだから、わたしもなんだか少し力が抜けたような気がしました。


「どうだ? 悪くない取引だろ?」

「ふふ、そうですね」


 だから笑うのです。お互い向かい合ったまま、わたしたちは。


「……もう大丈夫。落ち着きました」


 本当は嘘。落ち着いてなんていないし、頭に血は上りっぱなしだけれど、アデリナの顔は立ててあげなければなりません。


 アデリナが首を縦に振ってから視線を上げ、そうして朗々とした声でグリム・リーパーたちへと告げます。


「さて、話とやらを聞こうか。蓮華のいた世界、チキュウに悲哀をもたらし、レアルガルドに希望をもたらすとはどういうことだ?」


 十三体のグリム・リーパーたちが一斉に口を開けます。同じ姿で、一寸違わぬタイミングで、同じ声で。まるで、もともとは一体であったかのように。


「七宝蓮華、アデリナ・リオカルト。あなたたちは黑竜“世界喰い”を知っているな?」


 全方向から聞こえてくる3Dのような音声に、奇妙な感覚に陥ります。けれどもアデリナは気にならないらしく、豊かな胸で両腕を組んで堂々とこたえます。


「当然だ。まあ、貴様らの口からその名が出て来るであろうことは予測していたがな」


 そう。地球とレアルガルドを比したときに最初に出てくるもの。それは文明、科学と魔法といった些細なことではありません。

 黑竜“世界喰い”がいるかいないか、この一点です。


 十三体のグリム・リーパーたちが、再び一斉に口を開けました。


「では、あれの正体は知っているか? 異邦の血を引く姫君アデリナ・リオカルト」


 アデリナの右の眉がぴくりと上がります。


「……さてな。突然変異の古竜か、召喚された異空の古神(いにしえがみ)ではないのか」

「現象だ」


 アデリナとわたしが同時に眉をひそめました。


「どういうこと……?」


 今度は十三体のグリム・リーパーたちが、交互に語り始めます。


「地球とレアルガルド大陸は因果により結ばれている」

「地球で悲劇が生み出されたなら――」

「――レアルガルドに等価の悲劇が生まれる」

「レアルガルドに悲劇が生み出されたなら――」

「――地球に等価の悲劇が生まれる」


 再び十三体のグリム・リーパーたちが一斉に口を開きます。


「因果は忌々しき渦となり、廻り、廻る」


 ぽかんと、口が開いてしまいました。


「何を、言っているの……?」

「魔法少女七宝蓮華。黑竜“世界喰い”とは、過去数百年の間に、おまえたちの世界で起こった負の現象をすべて併せたもの。形得た存在。受肉せし生物」


 右手側六体が一斉に声を出します。


「戦争による殺戮、天災による悲劇――」


 わたしたちが右を向いた瞬間、今度は左手側六体が同時に声を出しました。


「――大規模な事故による別離、広がった疫病による病死」


 左手側に顔を向けると、今度は正面にいた一体が言葉を継ぎます。


「レアルガルドは未だ成長過程の世界。地球で生み出された負の現象を背負うほどには、未だ人口に満ちた世界ではない。地球には耐えられる悲劇も、この地では滅亡に繋がる」

「……っ」


 わたしとアデリナが視線を合わせ、息を呑みます。

 十三体が再び同時に声を発しました。


「そのツケが今、ここに存在する黑竜“世界喰い”である」


 戦闘時とはまるで別の、冷たい汗が背中を伝いました。


「レアルガルドは因果の渦の中。近く黑竜に亡ぼされる運命を背負いし世界」


 いつから……? こんなことが……?

 黑竜の存在が公的に認められたのはおよそ二〇〇年前、七英雄の時代。けれど本当は、それ以前から黑竜に似たいくつも悲劇は存在していた?

 魔法少女が地球で古くから存在していたように……。古くは陰陽師なんて呼ばれた時代があったように……。


「し、信じろと言うの? そんなふざけた話を!」


 声が掠れました。

 叫ぶわたしとは対照的に、正面のグリム・リーパーは静かに告げます。


「ここは因果(インガ)()()。我らは因果を監視するもの。レアルガルドにとってのインガノカ人であり、地球にとってのグリム・リーパーである」


 頭の中に炭酸でも入ったかのようにしゅわしゅわと耳鳴りがして、何も考えられません。ただただ、胸を内側から叩く鼓動だけを感じていました。

 けれども、アデリナは冷静でした。


「ならば、おまえたちインガノカ人が蓮華のいたチキュウという世界から、幾人も異邦人をさらってきていたのは、悲劇の助長となるはずだ。それはレアルガルドの寿命をさらに縮める行為ではないのか」


 十三体のグリム・リーパーたちが一斉に首を横に振りました。

 右手側六体が同時に口を開きます。


「我らはレアルガルドの希望」


 次に、左手側六体が同時に口を開きました。


「我らは因果を断つべく働きかけるもの」

「因果を断つ、だと?」


 そしてお決まりのように、正面の一体が語ります。


「我らが選びし異邦人は、あなたの父であるクラナスのように、政治力や知力に長けたもの。勇者や魔王のように、武力に長けたもの。人口を多く生み出す多産の女。剣姫ナスターシャのように、統率力や魅力に長けたものだ」


 十三体のグリム・リーパーたちが、語気を強めて同時に叫びます。


「この世界が滅亡する前に、黑竜“世界喰い”を討つためにッ!!」


 ちょっと待って……。

 勇者って本当に存在していたの? ううん、それも驚いたけれど、どうしてここで剣姫ナスターシャの名が出て来るの?


 わたしの疑問を代弁するように、アデリナがグリム・リーパーに尋ねます。


「八人目の英雄、剣姫ナスターシャは異邦人なのか!?」

「然り」


 全員が声を揃えます。


「意向の大きく違う七つの英雄をまとめるため、我らが召喚した異邦の女。当代魔王の騎竜シルバースノウリリィを孕みし、心の強き女だった。統率と魅力に長けていたゆえ、七英雄をまとめるという試みは成功した――が、七英雄では黑竜に届かなかった。剣姫ナスターシャもまた銀竜アルジェントオルカネイスを駆り、黑竜と空で戦ったが――」


 死んだ。


 グリム・リーパーは端的にそう呟きました。なんの感情もなく。


「彼女を失ったかつての七英雄が、再び志をともに、手を取り合うことはなかった」


 剣姫ナスターシャは、やっぱり中心人物だったんだ。英雄たちの。彼女がいなくなったから、七英雄は再び黑竜に挑むことをやめてしまった。求心力を失って。

 けれど、ナスターシャは死の前に銀竜の子を産んでいた。


「……リリィさんの……ご両親……」


 アルタイルの図書館での出来事が思い出されます。赤い着物をまとった、銀髪の美しい女性。銀竜シルバースノウリリィ。


 異邦人の剣姫ナスターシャが、彼女の母親。

 銀竜アルジェントオルカネイスが、彼女の父親。


 繋がっていく。すべてが、まるであらがえない因果の渦のように。

 ぞくり、と背筋が凍ります。


 グリム・リーパーたちが交互に語り出しました。


「世界は新たな七英雄を求めている」

「おまえが伝えるのだ。七宝蓮華」

「かつて剣姫ナスターシャが巡礼を行いし道を」


 一度間を開けて、グリム・リーパーたちが呟きます。


「一つ、異邦の血を引く魔王」

「一つ、異邦の血を引く勇者」

「一つ、血筋を偽る騎竜王」

「一つ、神の声聞く天秤の乙女」

「一つ、神の声聞く剣聖」

「一つ、セイレムの魔女」

「一つ、異邦の半身持つ姫君」

「声を届けよ。七つの魂に、我らの声を」

「従えよ。七つの魂を、あなたが、あなたの声で」


 七人……。

 新たな七英雄。黑竜戦を生き延びるだけの力を持つ人たち。


 わたしはちらりと横目でアデリナを確認します。

 だってたぶん、異邦の半身を持つ姫君はアデリナ・リオカルトその人だろうから。



交換日記[アデリナ・リオカルト]


ほほう、たまには貴様もまともなことを言うじゃないか(〃´・ω・`)ゞ



※1/6

あけすぎましたが、おめでとうございます。

本年もよろしくお願いいたします。


後ほどもう一話更新します。

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