表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女をあきらめない! ~筋肉神に愛された少女~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』
第五章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/120

第68話 女剣士は竜狩りの剣を振るう㊦

交換日記[魔法神]


娘ぇぇぇ、もう捨てなはれ!

その剣、もういっそのこと捨ててくんなはれ!(ノД`)・゜・。

 あれは魔法使いである彼女が魔法を撃つ際に、魔法の(ワンド)を持たない代わりを腕と指先を触媒にする仕草です。


 アデリナのばかあああああぁぁぁぁぁ……おたんこなす!

 これで死んだら毎晩枕元に立ってやるぅぅぅぅ……!


 わたしは目の前が真っ暗になりました。


 けれども――。


「――異空の刃」


 すぅっと、アデリナは。

 ゆっくりと、いつもよりもゆっくりと、指先を薙いだのです。


 鱗を破壊する音はありませんでした。強力な魔法の余波もありませんでした。


 けれども、するっと、静かに毒竜の首がずれたのです。胴体から。泥沼に、落ちて。

 まるで出来の悪い特撮か、そうでなければ巧みな手品のように。


「……へ?」


 杖代わりに使用されたアデリナの指が定位置である腰にあてられる頃には、毒竜の首は泥沼に落ち、わたしがつかんでいた脚部は力を失って、支えるもののない胴体もまた、力なく泥沼に派手な水飛沫と音を立てながら倒れ込むのでした。


「え? え?」


 斃し……た? な、何をしたの……?


 アデリナは、ふぅと息を吐くと、首を左右に倒し、少し上体を前へと傾けました。そうしてドラゴンスレイヤーの柄を右手でつかみ、歯を食いしばって顔を真っ赤にします。


「まだだっ! ふぬ、ぐ、ぎぎぎぃぃぃぃ!」


 抜けません。もちろん。いつものごとく。いや、もう抜く必要性はないのですが。


 やがて彼女は左手まで使って、両手でドラスレの柄をつかみ出し、さらに上体を前傾にします。


「ふぬぐがあああああぁぁぁい!」


 ずるり、と、野太い白刃が徐々に姿を現し始めます。


「ほぬふうぅぅぅぅ!」


 美人の顔を激しく笑える感じに歪めて、ついにはドラゴンスレイヤーを抜き切って、けれどもその重さに長い足をもつれさせながら。


「はわ、はわわわわっ」


 あ、あ、転けちゃう! よくわかんないけど頑張って! あんよは上手、あんよは上手!


 泥水の中、かろうじて踏みとどまって。


「とおぅりゃあ!」


 泥水に沈んだ毒竜の首へと、振り下ろします。ううん、振り下ろしたというよりも、重さに耐えきれずに刃を落としたといったほうが近いでしょうか。

 がつん、と軽い音がして、ドラスレの刃は灰色の鱗に跳ね返されました。当然ながら、傷一つつけることはできていません。


 わたしは初めて歩き出した赤ん坊を見守るような気持ちで、彼女の奇行を眺めます。


「……」

「……っはあ、はあ……ぅぐ……はぁ、はああぁぁぁ……」

「あの、ちょっと、何してるの?」


 ふぅ、と再び息をつき、アデリナが額に浮いた汗を片手で拭います。

 すっごい、ドヤ顔で。


「何って、決まっているだろう。――ふ、あたしの剣で毒竜を今討った。あたしは今、竜狩りの剣士となったのだ。剣士にとって、これ以上の誉れはない」


 あ~、そういうことかぁ~……。……う~ん……ほんとにこの人……。


 わたしは長い息を吐いて、未だに強くつかんでいた毒竜の脚部をようやく放します。


 灰色の竜は、もう動きません。たぶん、肉体への指示系統だった頭部を切り離されたからでしょう。けれど、この竜に生死の概念はありません。


 わたしは念のために毒竜の首を両手で引きずって、決して復活などできないように胴体と離すため、海側のほうへとぶん投げます。


 近くに置いておくと、何かの拍子にくっついちゃうかもしれませんからね。人形とはいえ、しょせんは有機物。ああしておけば、動けぬままにそのうち朽ち果てるでしょう。


 わたしはぱちぱちと手を払いながら、アデリナに向き直ります。


「その魔法、以前にも使ってましたよね。アマゾネスさんたちの馬車に」

「何を言っている。魔法じゃない。これは剣技だ。“刃”だと言っているだろう。あたしなりに黑竜に通用する魔ほ――あいや、剣技を考えていた。アマゾネスどものときは実験だ」


 両手でドラスレの柄をつかんだまま、アデリナが語り出します。


「この技はかなり特殊でな。風刃や大地の刃とは違い、斬撃を疾ばしたり命中させたりするもんじゃない。四方、徒歩四歩分、厚さは爪一枚分ほどの空間を切り取って、そこに異空間をねじ込むんだ。効果範囲はそれが最大だな」

「……何言ってんのかもうさっぱりで……」


 わけがわかりません。


「空間の一部を異空にポ~イだ。消えた物体の体積分は、世界が勝手に修正する」

「?」


 アデリナが困ったような表情で頭を掻いて、さらに言葉を砕いてくれました。


「だからぁ~、水ん中の水をすくって地上にポイしても、その水中に空いた穴はすぐ周囲の水が埋めるだろ?」

「ああ、はい……」

「そういうことだ。切り取った毒竜の首の体積は、空気が埋めた。つまり、首と胴体の間に空気の空間ができた。さらに言えば、首が斬れた」


 異空を召喚する代わりに、この空間をどこかにポイ……異物が混じってても空気が埋める……。

 うん。聞いてもわけがわかりません。何言ってんの? 正気なの?


「異空ってどこに繋がっているんですか?」

「知らん」


 うわっ。もうなんて言っていいのか……。毒竜の肉片を不法投棄したんだ……。


 アデリナは長く艶のある青髪を揺らして、瞳を細めて夜空を見上げます。


「空気もないから、たぶん宇宙のどこかだろうなあ」


 わあ、そこは適当なんだぁ……。


「よくはわかりませんが、そんな便利な技があるなら、もっと早く使ってくれたらよかったのに。死んじゃうかと思ったじゃないですか」

「異空の召喚は座標指定が難しいんだ。さっきも言った通り、これは斬撃をまっすぐに疾ばす魔法じゃない」


 今自分で魔法って言った……。いちいち突っ込みませんけど……。


「敵を自分との“線”ではなく、己を中心とした“点”で捉えなければあたらんから、正直あまり実戦向けではないと思っていた。敵は常に動き続けるからな。アマゾネスの馬車はあのとき、停まっていただろ?」

「ああ、たしかに」


 アデリナが口もとに微かな笑みを浮かべます。


「だが、おまえがいれば必ずしもそうではなさそうだ」

「わたしが動きを止めて、アデリナがその系統の魔法を使うということですか?」

「理論上は毒竜はもちろん黑竜にも通用するはずだ――と、思う」


 すごい。すごいけど、腑に落ちない。略すと、すごく腑に落ちない。なぜなら、ぶっちゃけ、わたしがドラスレを振ったほうが早い気もします。

 まあ、ドラスレはしょせん物質なので、わたしが全力で叩きつけると折れちゃう可能性もありますが。

 そこいくと異空の刃は折れることはなく、おそらく防ぐこともできない優れた魔法です。


「でもわたし、力を失った黑竜を押さえ込むことさえできませんでしたよ」

「大丈夫。おまえの筋肉も決戦前には成長しているはずだ」


 わたしはゆっくりと首を左右に振りました。


「しません。してません。したこともない。ていうか、するな」

「……でもなぁ、力負けしてちょっとでも座標がずれると、おまえの首が飛ぶことになるかもしれんからなあ」


 ほあぁ!? こ、怖っ! ご勘弁っ!


「ま、まあ、そこらへんは追々考えるとして、とりあえず荷物を取りに戻りましょうか。ナマニクさんのことも心配ですから」

「――待てッ、蓮華ッ!」


 アデリナが突如として、鋭く緊迫した声を出しました。


「~~ッ」


 わたしはとっさに毒竜に対し、身構えます――が、毒竜の肉片に変化はありません。

 アデリナに視線を向けると、彼女は今にも泣き出しそうな表情で、静かに呟きました。


「あの、ドラスレを……背中の鞘に戻してくれぇ……。……重くて持ち上がらん……」


 涙目で、下唇をぷりっと突き出して。


 あ、なんか可愛い。


 仕方がありません。いっそここに捨てていけと言いたいところをぐっと堪え、わたしはドラスレを片手で持ち上げて一振りして泥を払い、アデリナの背中の鞘へと戻してあげるのでした。




交換日記[アデリナ・リオカルト]


なんでも捨てられるなら、まずおまえを捨てる。



交換日記[筋肉神]


ぶははっ、貴様んとここそ反抗期ではないかっ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ