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魔法少女をあきらめない! ~筋肉神に愛された少女~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』
第三章

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第28話 海の荒くれ者と魔法少女

交換日記[魔法神]


ぷぶっ、ぶふぉぉ~~~~~っ!

自称魔法少女(笑)の……ぷぷ……忍術(笑)が、ぶはっ……水属性魔法(笑)ですとなっ!!

いや、相も変わらず斬新! 斬新ですなあ! ぷぶふぉぉぉぉ~~~~~!

 ランドルフさんの後ろについて海面を走ります。走りながら振り返れば、蹴った海面が高く跳ね上がって大きな大きな水柱を立てていました。

 その向こう、リナリス運輸の船上では、護衛の方々と黒光りオジサマが目を擦ってこちらを凝視しています。


 何やら人間をやめてしまった気がします。

 ともあれ、遠くに見えた海賊船には急速に近づくことができました。


「?」


 ですが、少々様子がおかしいです。

 海賊たちは、限界近くまで傾いた海賊船の甲板から海面へと向けて、弓矢や魔法を撃っています。

 海面へ……。

 けれども魔法は海に呑まれ、弓矢はその威力を水面で失っていました。

 何を狙っているの……?


「フォフォフォフォフォフォフォフォフォフォフォフォフォフォフォフォふぉぶぼぼぼ……っ……」


 数十歩の距離まで来たとき、突如として前を走っていたランドルフさんの姿が消えました。沈んでしまったようです。

 え? え?


「ランドル――~~っ!?」


 水中から伸ばされた何かを躱すため、わたしは海面を左前方へと蹴って。

 直後、わたしが先ほどまで取っていた針路から鼻の尖ったモグラ……ううん、魚のような生物が鋭い牙を見せて跳び上がりました。


「なん――っ!?」


 ヒレはまるで海藻がまとわりついた人間の腕のようで鋭い爪があり、二本の横ビレはもちろんのこと、背ビレからも無数の腕が生えていて。尾ヒレは二股に分かれ、まるで人間の足のようにも見えます。


 ぞわっ、と背筋が凍りました。

 造形だけで嫌悪感がこみ上げてきます。目は魚なのに、なんて気味の悪い生物。


 走りながら海面に視線を向けると、そんなのが渦を巻くようにうじゃうじゃと海中を泳いでいました。そのうち数体が海賊船の船底付近に取り付き、ヒレだか腕だかの爪で抉っています。

 どうやら浸水はこいつらの仕業のようです。おそらくランドルフさんが突然海中へと消えてしまったのも。


 ふと気づけば、うっすらと海面が色づいていました。大量の水で薄めた、赤色。よくよく見れば、人間の手や足のようなものを咥えている怪物もいて。


「ラ、ランドルフさん! そんな!」


 怪物たちが海面を走るわたしの影を追うように移動してきます。数なんて数えきれません。


「く……!」


 わたしは走る速度を速めて、海賊船を右手方向から大きく回り込みました。けれどだめです。怪物たちの泳ぐ速度は異様に速く、とても振り切れません。

 いくらわたしでも、海中では力が出し切れない。潜って戦うことはできません。引きずり込まれたら一貫の終わりです。


 海面から跳ねた怪物を避けて海水に足を取られ、けれども立て直して走るわたしへと、次々と怪物が跳び上がって襲いかかってきました。

 わたしは走り、走り、走ります。今は逃げることしかできません。


 そんなわたしを見かねてでしょうか、黒の海賊帽を被った男性が、傾いた船の甲板からわたしにロープを投げてくれました。


「おい、そこの魔法使い! つかまれ!」


 ま、ままま魔法使い! いえ、喜んでいる場合ではありません。

 わたしは方向転換し、傾き、転覆しかけた海賊船の男性に叫びます。


「仲間が引きずり込まれたの!」

「放っとけ! ダーグアオンに引きずり込まれちゃあ、もう助からん! 早く来い!」


 ダーグアオン! こいつらが?

 夜しか出現しないって聞いたのに、真っ昼間っから出てきちゃってるじゃないですか!


「でも……っ」


 海中の影は怪物のものばかりです。

 ランドルフさん……。


「馬鹿野郎! 死にてえのかッ!」


 仕方がありません。わたしはすり抜け様に、大きく傾いた甲板から投げられたロープをつかみます。

 とたんにわたしの全身は海賊船へと吊り上げられていました。


 跳ね上がり、ついてきたダーグアオンが甲板へと足のような尾ヒレで着地しました。けれども海賊さんはすぐにナイフを取り出すと、逆手に持ってその喉もとへと突き立てます。

 どん、と鈍い音が響いた後、断末魔の悲鳴が響き渡りました。


 ――カアアァァァァァーーーーーーーーーーーー……。

「ドゥラァ!」


 引き抜くと同時に蹴って海面へ落とし、わたしたちは傾いた甲板を駆け上がるようにして海面から離れます。

 海に転がり落ちてひっくり返った血塗れのダーグアオンへと他のダーグアオンたちが群がって、ヒレのような手で海中へと引きずり込んでいきました。


「はぁ、はぁ、はぁ……」

「おい、あんた。魔法使いだろ。あんたの水上歩行は他人にもかけられるのか?」


 あ、え……え~……。

 水上歩行はおろか、前提から間違っています……。


「い、いえ、ごめんなさい。無理……です」

「くそっ!!」


 海賊さんが苛立たしげに海賊帽を取り、甲板へと叩きつけました。

 思ったよりは若いです。屈強な青年といったところでしょうか。すごく日に焼けていて、精悍な体つきをされていました。髪は長いけど潮風にやられてばさばさで、目つきが異様に鋭い方でした。


「す、すみません」

「で? なんでこんなとこを走ってやがった?」

「あ、えっと、近くにリナリス運輸の船が停船しています。そこまで泳いで辿り着ければ助けてもらえる……と報せに来たのですが……」


 海面を蠢く無数の不気味な影。

 時折、感情のない目をぎょろつかせて、わたしたちを睥睨して。


「できるかよ。海に入れば俺たちゃあっという間に挽肉、おめえは卵の苗床だ。仮にリナリス運輸の船がここまで迎えに来たとしても、徒に犠牲が増えちまうだけだ。くそったれ!」

「ですよねー……」


 かりかり、かりかり、耳を澄ませば船底を引っ掻く音が聞こえています。沈没は避けられそうにありません。

 海賊船の乗員はおよそ十五名といったところでしょうか。船の縁から魔法や弓矢でダーグアオンを狙ってはいますが、あまり効果はありません。

 どたどたと足音がして、船の扉からさらに五名の海賊さんたちが出てきました。


「お頭、無理だ! 船倉の穴はどうにか埋めたが海水が入りすぎてる! これ以上の作業はできねえし、やつらまだ船底に取り付いて新しい穴を空けようとしてやがる!」

「かぁ~……」


 みんなわたしを一瞥して、すぐにお頭さんに視線を戻します。

 たぶん、たとえ不思議と船上に突然現れた女だとはいえ、わたしになどかまっていられる状況ではないということでしょう。

 お頭と呼ばれた青年海賊さんが、額に手をあててうつむきながら口を開けました。


「……おめえ、もういいぜ。とっとと失せな」

「え?」

「水上歩行でリナリスの船へ帰れっつってんだ。やつらは俺らが惹きつけといてやる」

「あ……え……」


 海賊さんが舌打ちをします。


「鈍くせえ女だなっ。沈む船にのっかってねえで、さっさとリナリス運輸の船に帰れ。やつらにリナリスの船を発見されたら、リナリスの連中まで終わりだぜ」

「あ、あなたたちはどうするの……?」

「へっ、こうなっちまっちゃあ、どうもこうもねえや。海賊らしく陽気に歌ってくたばるだけさ。なあ、野郎ども!」


 どの海賊さんたちも、一様に顔色は優れません。ですが。


「おい、何体道連れにできるか勝負しようぜ」

「お? いいぜ? 何賭ける?」

「そうだなあ。おめえんとこの短気な(ぷっつん)女房なんざどうだ?」

「ダーグアオンより先に俺がぶっ殺してやる!」


 殴り合いを始める始末です。


「上等! ほれ、ほれ! ぁ痛がぁ!?」

「げへへっ、おら、おらあ、――へがっ!」


 しかし、本気ではなく。強がり。最後の強がりです。

 ぎゃははっ、と笑い声が響きました。

 お頭さんが叩きつけた海賊帽を拾い上げ、ぱたぱたと叩いてから頭にのせました。


「つーわけよ。じゃな、嬢ちゃん。結果は無駄だったが、ま、助けに来てくれたことにだきゃあ礼を言っとくぜ。ダーグアオンは音に大きく反応する。俺らが大声で歌い出したらすぐに出発しな」

「そんな……」


 死ぬ気なんだ……。


「野郎ども! 海賊旗を掲げろ! 引きずり込まれる前に全員剣抜いとけよォ!」

「オオオオオオオォォォォォ!」


 荒くれ者の声が重なります。


「声出せ! 歌うぜ、自由の民!」


 海賊行為は褒められたものではありません。

 ですが、この方たちには少なくともわたしを思いやってくださる気持ちがありました。


 どうにか……どうにかならないでしょうか……。




交換日記[筋肉神]


ふ、珍しく同感だ。

素晴らしき水上歩行は魔法などではなく、すべてはお筋肉様のなせる技よ。



交換日記[七宝蓮華]


まほー……(´・ω・`)

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