表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神化論  作者: ユズリ
白の庭
40/528

あなたと手を繋ぎ、そして 8

 その為これ以上聞き込みをしても無駄に疲れるだけかもと判断したマヤは、早々に宿へと戻る事にしたのだ。

 特に他に行く用事も無いし、宿に置いてきたユーリも実は少し心配だ。もしかしてアーリィの機嫌を損ねるような発言をして、彼が何か大変な事になってたらと、あながち外れていない予想をしてマヤは真っ直ぐ宿屋へ向かう。

 けれども彼女が早々に情報収集を切り上げた本当の理由は、昨夜から気まずくなってしまったローズとの事が一番の原因だった。いつもと変わらず元気な少女を振る舞う彼女は、先程も変わらず明るい姿を皆に見せたものの、やはりどこかわだかまりのあるローズと自分の関係にもやもやとした胸のつかえを感じていた。それが原因で情報収集に身が入らず、何だか主に精神的に疲れた彼女は、何も考えずに一眠りしたい気分になってさっさと宿へ帰る事にしたのだった。




「たっだいまー。ユーリ具合はどう……って、うわっ!?」


 宿へと戻り、ユーリの休んでいる部屋へと入るやいなや、マヤはいきなり奇声をあげた。

 それもそのはずだ。驚きに目を丸くする彼女の目の前では、気を失ったユーリがベッドの上で伸びきっていたのだった。


「ちょ、ユーリ!?」


 マヤは慌ててユーリに駆け寄り、そして彼女は彼を助けようと……はせずに、まずはベッドを思い切り蹴った。


「……チッ。反応無しか」


 ベッドを蹴りつけても無反応で完全に気を失っているユーリに、マヤは面倒臭そうな表情で舌打ちをした。ユーリが気を失っている原因は、まぁ大体想像出来る。おそらくアーリィの機嫌を損ねる余計なことを言って、彼の魔法でお仕置きをされたのだろう。それを予想しながら彼女は面倒くさそうな表情で、こう一言呟く。


「弱い男ね、これくらいで気を失うなんて。そんなんじゃアーリィを任す事は出来ないわねぇ……残念だけど」


 鬼のような言葉を吐き捨て、やがてマヤはため息の後に回復呪文をゆっくりと唱えた。




「……で、大丈夫かしら?」


「あぁ……今回ばかりはマジで死ぬかと思ったぜ……」


 冷たい目でマヤにじとっと睨まれ、ユーリは苦笑いしながら「サンキュー」と呟いた。一方マヤは呆れたように溜息をつき「まったく、手間かけさせないでよね。どうせまたくだらない事を言ってアーリィを怒らせたんでしょう」と、そう言ってベッドの端に腰を下ろす。

 マヤにまさに正解を突っ込まれたユーリは、「だってよぉ」と悲しげに呟いてうなだれた。


「アーリィちゃん、あの小僧ばっか相手にして全然俺の事は構ってくれねぇんだもん」


「……アンタ、本当にバカ?」


 子供相手に本気で嫉妬して文句を言うユーリに、マヤは先程彼に回復呪文を唱えたことを後悔した。


「あー魔力の無駄だったわ。いいじゃない、別に。ジェクトだってアーリィに一番懐いてるんだから」


「でもよぉ……」


「『でもよ』じゃねー! あんたは大人しく寝てろっつの。あんたが完全に回復するまで、この街でアタシらは足止めなんだからね!」


 厳しく叱咤するマヤを恨めしそうに横目で見ながら、ユーリは渋々「へーへー、すみません」と頭を下げる。そのユーリの様子に、マヤは苛立った表情を浮かべた。


「うっわ、何かスゲームカつく態度。ってかあんたは本当に迷惑かけるしか能無いの? ちょっとはローズとか見習って……」


『ローズ』と、その名を口にした瞬間、マヤはハッとしたように目を見開いて止まる。


「……どうした?」


 不思議そうにユーリが問い掛けると、慌てたように彼女は首を横に振った。


「あ、な、何でもないわ。えっと、ん、何だっけ……」


「……」


 曖昧に笑いながら、首を傾げるマヤ。そんな彼女の様子にユーリは一瞬考えるように沈黙し、やがて彼はこう口を開いた。


「なぁ……お前、ローズと何かあったのか?」


「え……」


 ユーリのその一言に、マヤはどことなく気まずそうな表情で彼を見返す。


「……やっぱわかる?」


「あぁ。だって変だぜ、お前ら二人」


 珍しく真顔で問い掛けるユーリの姿に、マヤは何故かショックを受けたように肩を落とした。


「げぇー……ユーリなんかに気付かれるとはねぇ。あーもーマジへこむー……」


「おい。ユーリなんかとは何だよ、なんかとは」


 率直な感想と気持ちをズバッと口にするマヤに、ユーリは苦い顔ですかさずつっこむ。しかしすぐにその表情を苦笑へと変えて、ユーリは再度彼女へと問い掛けた。


「で? 何があったんだよ」


「……別にー」


 プイッと 顔を反らし知らん顔をするマヤに、ユーリは目を細める。


「へー……別に、ねぇ……へーえ。ふーん。あ、そー」


「うっさいわねぇ、ユーリの癖にそんな態度は生意気よ」


「……お前、前々から思ってたけど……俺の事、ものすげぇー下に見てるだろ」


「さぁね」


 目も合わさずにマヤはそれだけ呟くと、それっきり彼女は口を閉ざしてしまった。


「……」


 急に無言になり、どことなくいつもの元気が無くなったマヤの後ろ姿を見つめながら、ユーリは困った様子で静かに溜息をついた。そして、気まずい沈黙が始まる。


 沈黙に困ったユーリは、驚くほど静かな様子のマヤをちらりと見遣る。彼からは後ろ姿なため、ベッドに腰掛けるマヤの表情は見えない。しかし雰囲気からどうも、彼女が柄にもなく落ち込んでいるのが窺えた。本当に、一体彼女に何があったというのだろう。


(……何なんだよ、一体……俺が死にそうになってる間に何があったんだ?)


 ますますユーリは不思議そうに眉を顰め、そして口を閉ざしたマヤを見つめた。すると突然振り向いたマヤと目が合い、彼は思わず驚いたように目を丸くする。


「ねぇ、ユーリ」


「あ、え? な、なんでございましょう?」


 沈黙を破って突如真剣な面持ちでこちらを見つめてくるマヤに、ユーリは驚きと戸惑いに妙な反応を返返す。そんな彼を無視して、マヤは彼へこう唐突に聞いた。


「アンタはさぁ、ローズがなんでパンドラ探してるかって……知ってる?」


「はぁ?」


 脈略ない問いかけがマヤの口から出て、ユーリは目を丸くして首を傾げる。だが、真摯な瞳で真っ直ぐにこちらを見つめ問うマヤの姿に、ユーリもやがて真面目な表情で考えてから答えた。


「……いや」


「……そっか」


 首を横に振ってユーリが否定すると、マヤはどこか残念そうに目を伏せて、再びユーリに背を向ける。


「何でだ?」


「別に」


「また『別に』かよ……それじゃ会話にならねぇよ」


「んー……アンタが会話したいと思っても、アタシはもういいのよん。それともなぁに? どーぉしても会話したいの?」


 正面を向いたまま、両足をブラブラとさせてマヤは答える。ユーリは頭を掻きながら、苦い表情をした。


「イヤ、だってお前がなんか気になるような話題ふるからよぉ……」


 そう小さく呟くユーリに、マヤはほんの僅かに首をユーリの方向へと向けた。


「……昨日の夜、ローズに聞いたのよ」


「え、なにを?」


「どうしてローズがパンドラを探してるのかって、何となく聞いたの」


「……あぁ、成る程な」


 ユーリが頷くと、マヤは不意に立ち上がって近くの椅子へと腰掛け直す。


「で? ローズはなんて答えたんだ?」


 ユーリが続きを促すと、マヤは視線を落として答えた。


「……『言いたくない』だって」


 昨晩のローズの様子を思い出しながら、マヤはそう静かに呟いた。


「……言いたくない?」


「そ。……何か聞いちゃいけない事だったみたい」


 顔を上げるマヤと目が合う。するとマヤは何故か苦笑いを浮かべた。


「なんかね、すっごい怖い顔されちゃったのよ。もうめちゃくちゃ冷たい表情! あのローズがだよぉ? 年中ぼーっとして何も考えてなさそうなお気楽のローズが!」


「……なんかひでぇ言われようだな、ローズも」


 ユーリも思わず苦笑いを浮かべるが、しかしすぐに彼は灰色の瞳を鋭く細めた。


「で、『言いたくない』って拒否られたのか」


「うん、まぁね」


 少し淋しげに笑いながら、マヤはユーリの言葉に頷いた。そしてそれを聞き、ユーリは「う~ん」と唸りながら体を動かして、ベッドに座り込みながらマヤへと向き直る。


「つーかよぉ、ローズ云々より先に、なんで今更んな事聞いたんだ? ずっと一緒に旅してたのに、今頃気になったのか?」


「うん、まあ……。気になったっていうか、成り行きってのもあるんだけどね……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ