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神化論  作者: ユズリ
白の庭
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この世界で生きるということは 2

 自分の容姿を"聖女"に例えられるのをアーリィはひどく嫌う。確かに彼はどこからどう見ても女性だとしても、本人が主張する性別は男らしいのだから、女性に例えられるのは普通に不快なのだろう。しかし彼は、特に"聖女アリア"と比べられるのを何故か異常に嫌っていた。そのためマヤとローズは彼に聞こえないように、小声で今の会話を行っていた。


「なぁー……マジでそろそろヤバイんですけど。俺の体調、最悪気味です……」


「あ、忘れてた」


 今にも死にそうな声音のユーリの訴えを聞き、すっかり彼の腹痛のことなど忘れていたマヤが、相変わらず心配していない様子でそう返事をした。反対にローズは蒼白な顔色となったユーリを心配して、「とりあえず宿屋へ行くか。少し宿屋で休めば良くなると思うしな」と言って宿屋を探し始める。唯一自分を真剣に心配してくれるローズに、ユーリは感極まったように涙目で背後から抱きついた。


「ローズぅ~……やっぱりお前はいいやつだぜぇー!」


「うわ、なんだよ急に。重いからやめてくれ」


「……なによ、ユーリ元気じゃん」


 本気で泣きながらローズに感謝しているユーリを見て、マヤが冷ややかな声でそう呟く。そうして彼女は仕方ないといったふうにため息をつき、ローズと共に宿屋を探し始めた。




 体調不良のユーリを宿屋へと押し込んだ後、ローズたちは腹痛で寝込んでいるユーリ以外はそれぞれ自由行動となる。だが自由行動といっても完全に自由なわけではなく、ユーリが回復するまで暫くこの都に足止めとなった為に、各自トラブルを起こさない程度に情報収集をすることを優先しての自由行動となっていた。

 そうして各々自由に行動ができると決まると、ローズは一人でユーリの腹痛に効くような薬を探しに出かけ、自由奔放なアーリィも「ちょっと街の中を見てきます」とマヤに言付けてどこかに行ってしまう。残されたマヤは一人部屋に残っているユーリの面倒を見るわけもなく、彼女もまた一人で現在王都の城下街をのんびりと歩いていた。


 特に行くあてもなく、マヤはのんびりとした気持ちでにぎやかな城下の町の中を歩く。

 城下街と同じように茶色で統一されたアンジェラ城は、華美な装飾もなく清楚な印象を与える城だ。そんな美しい城がよく見える目抜き通りを、彼女は人の波に逆らうことなく静かに足を進めた。


「大きな城……」


 誰かに伝えるわけもなく、何気なくマヤはそう独り言を呟く。同時に彼女はふと考えた。


 綺麗なお城も、その城下を賑やかに歩く人々も……時々、全てが自分とは別の世界のことのように思う。同じリ・ディールという世界に住みながらマヤは、平穏に生活して笑顔でいる人間を見るとたまに、自分だけこの世界から取り残されているような気分になった。


 原因は彼女自身わかっていることだ。それは、自分がこの世界で"異端"だからだ。

 魔力を有して、魔法が使える……それは今の世界では、"異端"でしかない。普通の人間のようで違うこと、それはすなわち"異端"とされてしまう。そしてこの世界はそんな異端にひどく厳しい。

 だから自分は無意識にも意識的にも、同じ"異端"であるアーリィに依存しているのだと、マヤは巨大な城を眺めながら思った。


 人は皆、本能的に周りと違う者を嫌う。


 本当に生きにくい世の中だと、マヤは静かに苦笑いを浮かべる。それでもこの世に生きているかぎり、自分の異端さを偽って、人と違う部分を隠して生きなくてはならない。そうすれば"異端"は"異端"では無くなり、人に紛れて生きていけることを、賢い彼女は理解していた。だから、彼女は偽る。どこにでもいる、少女のふりをする。


「……ホント、面倒臭い世界」


 淋しげに微笑を浮かべて、マヤは多くの人間が行き交う人込みの中に紛れていった。



(……それに、アタシは)




 ◆◇◆◇◆◇




 雑踏の人込みを避けるように、アーリィは人影の少ない路地裏へと足を運んでいく。マヤから貰ったクロークをしっかりと被り、彼はフラフラと好奇心からか、薄暗い道を進んでいった。


『あまり人の多い所へ行くなよ』


 皆と別れる直前に、ローズにそんな注意をされた。だからといってこんな裏路地へと来たわけではないが、アーリィ自身もあまりに多い人の姿に少しうんざりしていたのだ。

 そんな気分も相俟って、彼は何の迷いもなく街の喧騒とは程遠い細道を奥へと向かっていく。

 何も考えてなさそうな無表情……というか実際今の行動中には何も考えていないアーリィは、見知らぬ土地の、さらに裏路地を歩く危険というのを全く理解していなかった。帰り道さえも彼はわからずに、ただなんとなくで進んでいるのだろう。


「……?」


 何も考えずに歩いていたアーリィだったが、不意にその歩みを止める。遠くで聞こえる街のざわめきとは違う人の声を近くで聞いたような気がして、彼は数秒考えてから再び歩みを再開させた。




「ハハハ! ホントに気味悪ぃな、このガキ!」


「おい、もうそろそろ行こうぜ? こんな不吉なガキ、長く一緒にいたくねぇよ」


「なんだよお前、びびってんの? だせぇな」


 ちょうど路地の曲がり角付近で、数人の男たちの声がはっきりとアーリィの耳に聞こえた。

 アーリィは気配を隠すように息を潜め、立ち止まって男たちの会話に耳を傾ける。どうやら男達が数人で子供を虐めているらしいと、男たちの話からすぐにそんな状況がわかった。そして男たちの行動に『くだらない』という感想だけを抱き、彼は面倒に巻き込まれることを嫌ってそのまま引き返そうとする。しかし次に聞こえてきた男の言葉に、アーリィはまた足を止めた。



「だってこいつ、"ゲシュ"だぜ? 気味わりぃだろ」


「ゲシュ……」


 "ゲシュ"――その単語にアーリィは思わず声を出して反応していた。それが運悪く男達の耳に届いてしまう。


「誰だっ!」


 一人の男がアーリィの声に素早く反応してそう大声を上げた。だがアーリィはとくに慌てた様子もなく、いつもどおりの無反応でどうするべきか考える。やはり逃げるのが最善の策だろうか。しかし帰り道がわからないということにすぐに彼は気づいて、自然と逃げることが出来ないことにも気づいた。面倒臭いので逃げたいが、しかし道がわからなくてはどうしようもない。闇雲に走ってこれ以上迷子になるのもよくない気がする。

 そうしてアーリィが『どうしよう』と考えていると、男たちが先にアーリィを見つけてしまう。完全に逃げるタイミングを失ったアーリィの前に、一人の男が立ち塞がった。


「何だよ……女か」


「……」


 顔中に浅い傷のある頬のこけた男が立ち塞がり、クロークを目深に被ったアーリィを見てそう呟く。男の言葉に不愉快を示すアーリィの表情は、あいにくクロークに隠れて男には見えなかった。

 男と対峙しながらちらりとアーリィが視線をずらすと、少し離れた場所に三人ぐらいの男に囲まれて座り込む子供の姿が見える。それは顔や体中が傷だらけの、幼い少年の姿だった。

 そして次にアーリィは男たちをすばやく観察する。人相の悪さや乱暴な雰囲気、短剣などの武器を装備していることから、おそらく男たちは"マーダー"の可能性が高い。マーダーが子供をいじめるほど暇な存在だったとは、と、アーリィは内心でそう男たちをあざ笑った。 

 そうして再びアーリィは、視線を少年へと向ける。少年は俯いていて、白金の前髪に隠れている顔から表情はあまり見えない。しかしアーリィが彼を見た直後に少年が僅かに顔を上げて、アーリィへとその緑色の大きな瞳を向けた。


「……」


 少年の力無い瞳。その瞳の中に、アーリィはあるものを見てしまった。それは、少年が彼らに忌みられていた理由。


「オイ、この女どーする? 殺っちまう?」


「バーカ。女ならもっと、殺る前に楽しみ方あるだろ?」


 男たちの下世話な揶揄も、今のアーリィにはどうでもいい雑音でしかない。アーリィは僅かに目を見開き、少年の異質なその瞳をじっと見つめた。


「……おい。この女……どっかで見たこと……」


「……!」


 頬のこけた男が唐突に、アーリィの腕を掴んだ。その瞬間にハッとするアーリィだったが、男が腕を掴んだ拍子にクロークがずり落ちてしまう。顔を隠していたクロークが外れ、アーリィと男の目が合うと、アーリィの視界に驚愕に固まる男の顔が映った。そうしてアーリィを真正面から見た男は、呆然とした表情で静かに呟く。


「……こ、こいつ……アリ……」


 男が全ての台詞を吐く前に、アーリィが殆ど反射的に行動をおこしていた。

 殺気を込めた瞳で、彼は男を睨み付ける。そして素早く、手に入れたばかりのロッドの先端を男に向けた。


『……wINd.』


 アーリィの唱えた、風の最短呪文。それに反応し、僅かなフラのマナが瞬間的に膨張、ロッドの宝珠から風の弾丸となって放たれた。結果に男は重さなど無いかのように、軽々と後方に吹っ飛ばされて気絶する。


「なっ……」


「何だコイツ……っ!」


 アーリィの魔術に、やはり男たちは驚きざわめく。「人前で魔術を使うな。ややこしい事になる」と、いつもローズに言われていたアーリィだったが、しかしそんなローズの注意などアーリィには正直どうでもよかった。彼が従うのは唯一人、彼の慕うマヤの言葉だけだからだ。そしてその彼女はいつも「危なくなったら迷わず魔術を使え」と言っていたし、何よりアーリィにとって許せない『名前』が出てきそうだったので、今回は仕方ないと自分をうまく納得させた彼は心置きなく魔術をぶっ放すことを決めた。


 男たちの目には皆、恐怖と畏怖……そして敵意が浮かぶ。それはアーリィが魔法を使うとき、いつも相手が見せる反応と同じだった。

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