118話 三丁目ベーカリ配達員リーリャ
あ、こっそりと始めさせていただきます、四章【少女は生きる】です。
一年ほどの間が空いてしまったので、その内キャラ紹介も上げます。
プロット自体はできているのですが、リアル忙しいので書き溜めしていないため、不定期更新となりまする。まあ、今までも不定期更新だったから大丈夫です、よね?
ともかく、四章スタートです。
それは、とある町。そのいくつかある通りに、朝一番を知らせる焼き立てのパンの香りが立ち上る。
香しい香りが満ちる中、黒髪の少女がパンの配達にと町へと繰り出した。
「三丁目ベーカリーの届け物がきたぞ!!」
「おお、リーリャちゃんかい。今日もありがとねぇ」
「何を言う。礼をしたいのは我の方だ。買い手がいるからこそ、働き甲斐があるものだ」
「はいはい、それじゃあこれ、代金ね」
「確かに受け取った。それじゃあ、また明日もよろしくな」
「こっちこそ、よろしくねぇ」
今日もリーリャは近場の家から、それなりに歩く距離にある住宅地まで、焼き立てのパンが冷めぬようにと急いで配達をしていた。それが、故郷へと戻ったリーリャの仕事であり、特にやることのないリーリャのやれることの一つなのだ。
「やはり、故郷とはいいものだな」
元々が竜であり、そしてこの町で過ごした時間よりも、遥かに長い余暇を記憶として覚えている。
だが、第二の生の故郷はリーリャにとって特別なモノであった。そもそも、竜であった時代に、故郷と呼べるような場所がなかったのも理由の一つだ。
「死霊渓谷は……、あれは故郷に入れていいのか?」
記憶に引っかかる生まれた直後の記憶はあるが、あれはどちらかと言えば事故で落ちたようなモノで、生まれ育った場所と言えるにはいい記憶も悪い記憶もない。ただ、醜悪な化け物に追いかけまわされた記憶しかない。
過去を思うのもほどほどに、三丁目ベーカリー配達の任、最後の場所にたどり着く。
そこは、この町の中心地。この町を治める貴族の住む邸宅だ。
「クリウス、サリアス! お邪魔するぞッ!」
そして、貴族の邸宅にはリーリャの幼馴染がいる。
「あ、リーリャちゃん。坊ちゃんたちなら庭で稽古してますよ」
「サンキュー、メイド殿!」
玄関で掃き掃除をしていたメイドの言葉を頼りに、リーリャは貴族の邸宅の庭を爆走していった。
「あ、リーリャさんだ」
「じゃあ、稽古は終わりだな。しっかし、ああから元気だな、あいつ」
ブルタリアス家に生まれた貴族の双子。それが、リーリャの友人であるサリアスとクリウスの二人だ。
片方は相変わらず目つきが悪い剣士。もう片方は、柔らかい表情をした魔法使い。そして、そこに白髪の令嬢であり、リーリャを姉様と慕う少女のモアラが居て、おなじみの四人が集合した。
「パンのお届けだぞ!」
「ありがとう。あ、レフシアさん、これを厨房の方まで持っててもらえます?」
「かしこまりました。それでは、皆さま朝食までの時間を楽しんでください」
リーリャの持ってきたバスケットを持ったメイドの一人が、サリアスのお願いを聞いて厨房へと戻った。
「いつもパンをありがとう。リーリャさん」
「これも仕事だからな。ふふふ、最近は貴族とのパイプがあるパン屋として売れているのだぞ? 感謝したいのはこちらの方だ」
「まあ、懇意であることは間違いないからな。今度の新作発表の時は呼べよ」
「姉様ー。パンのいい匂いがしますー、うへへへ……」
若干一名、パンの香りを理由にリーリャの髪の匂いを嗅いでる生娘がいるが、それは日常風景の一部となっているので気にしないものとする。
「それじゃあ、今日も腕を見せてください、リーリャさん」
挨拶はほどほどに、サリアスが用件を切り出した。
実は、配達はついでであり、リーリャがブルタリアスの邸宅に訪れたのは二つの理由がある。一つは幼馴染である三人と会うことだが、もう一つはリーリャの片腕に問題を、その道の神童たるサリアスが日々研究し、治療しようとしてるからだ。
「ほれ、落とすでないぞ」
「わっとと……、もう少し自分の体を丁寧に扱ってくださいよ。繊細な女の子の手なんですから」
「その手で古竜をしばき殺したんだから地面に落ちたぐらいじゃなんともないだろ。なあ、モアラ」
「はい? 姉様の手ですよ? クリウスは何をバカなことを言っているのですか? 姉様の手が例え泥にまみれたとてその美しさは損なわれません。あたりまえじゃないですか」
「お主らはよく我の手一つでそこまで話ができるな」
ぽいっと投げられた手。それは、元々はリーリャの左腕についていたモノだ。
それはいま、リーリャの左腕から離れ、サリアスの手元にある。
「うーん、これ、感覚はあるんですよね」
「おう。サリアスの体は意外に筋肉質で硬いことぐらいはわかるな。触り心地はすごいいぞ」
「ど、何処触ってるんですか!?」
「悪い悪い。ともかく、触れて感じることもできれば、任意で動かすこともできる。ただ、肩の先から腕が千切れているだけだな」
そう、リーリャに左腕は、肩から先が切り落とされたにもかかわらず、生きていて感覚を共有している。
それは、確かに離れているにもかかわらず、今もなおリーリャと繋がっているのだ。
「不思議なもんだよな。これ実は遠隔で剣持てたりするのか?」
「コップとかは持てるが、剣は無理だな。剣は腕力だけでもつモノではないだろう?」
「まあそうだよな。それに、支えがないから振ることもままならないと。やっぱり不便な体だな」
「あ、サリアス。次は私に姉様の手を持たせてくれませんか? いえ、特に深い理由はないんですけど……。あ、姉様も何かご不便がありましたら、私にお声をかけてくださいね」
サリアスがリーリャ腕の状態を確認している最中に、三人は語らう。
「断面は、皮膚がつながっているように見えますね。あ、動かさないでください。えっと、魔力視を一応使ってるんですが、へんな線も見えませんし……本当になんだこれ」
「魔法由来じゃないのは確かだな。我が相手した古竜は魔法を一切使わなんだ」
「古竜ってのはどいつもこいつもやっかいだな。俺達が相手したのはいくら切っても切れない不死身野郎だったぞ」
「強かったよね、あの人。ハジメ様が居てギリギリだったよ」
思い出すのは、リーリャ達が学園を離れる理由になった原因。
元々、リーリャ達はクラマキナという学園に在籍し、その力を研鑽していたのだが、新人大会という学園の祭りの際に事件が起った。
湧いて出る異形の軍勢。隕石ですら殺せない義の剣。生き地獄に誘う罪の枝。
そのすべてが、同時に学園へと襲い掛かった。
リーリャはその戦いで左腕を切り落とされ、右腕に魔法の反動で大けがを負った。そのおかげで、右腕は今でこそ動かせはするが、未だよう安静、包帯でぐるぐる巻きだ。そして、左腕は一向に治療のめどが立たない。
そして、クリウス達三人は、王子であるハジメと共に、切り刻まれても、如何なる魔法でも倒れない不死身の戦士との戦いで、ハジメが右腕を失う程の大けがをおう被害を出している。
クリウス達に大きなけがはないが、その自信を揺るがすのには十分な経験であったことは追記しておく。
「あ、そうだ。学園からの通知だけど、一週間後に先生が町にきて数日間の講習と宿題を出してくれるらしいよ」
ともあれ、彼らにはまだ未来がある。
それが、どんな道だろうと、進む理由がある。
――――四章【少女は生きる】
少女は、生きる理由を見つけることとなる。




