表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無題  作者: さちはら一紗
厳し過ぎる チュートリアル
14/75

お菓子作りと 黒歴史


 頭の回転は早いが、精神年齢は低い。アネルさんから聞いた通り、リタはものすごく頭がよかった。どんな問題もたちまちに解いてしまう。


 鉛筆の芯をことごとく折っていくという地味な嫌がらせ付きで。電動なんて言わないから、鉛筆削りが欲しい。


 この世界に鉛筆があってもあたしはもう驚かない。

 何で近世の発明品があるのに銃が無いの、とは思うけど。




「ねえねえ、お姉ちゃんはなんで弱そうなのに、ぼうけんしゃになったのー?」


 どうして、そう無邪気に邪気がほとばしるセリフを吐くのか。


「弱そうは余計」


 ていうか、女子高生が強そうっておかしいでしょ。


「ねーなんでー? チビなのに」

「リタよりは大きいでしょうが」


 百六十超えてますから。まだ成長期ですから!


「スタイルも悪いしー」

「………」


 ……死ね。存在した形跡すら残すな。


「答えてよー」

「あーもう! うるさい! 生活費を稼ぐためだよ!!」


 何よりもこの理由……悲しい。

 最低ランクの冒険者の仕事は雑用ばかり。FからEに上がる間が一番精神的にきついらしい。自分はこんなことをするために冒険者になったんじゃない!って。


「で、リタは何で冒険者になりたいの?」

「たくさんやっつけるのー」


 ……。

 ガールズ(おとなしく) ビー(しあわせなかていを) アンビシャス(きずいてください)

 この子を冒険者にしてはいけない。ええ、たくさんやっつけるでしょうよ(人を)たくさん壊すでしょうよ(街を)。


「違う道も考えたら?」

「そう言うお姉ちゃんの、ゆめは?」


 夢か……そういえばこっちに来てから考えてなかったな。


「とりあえずさっさとランクを上げて冒険者っぽい、ついでに儲かる仕事をしたいな」

「しゅせんどだねー」


 だれだこいつに「守銭奴」なんて言葉を教えたやつは。


「お金ってのはね、使うために貯めるんだよ」

「へー」


 一応納得してくれたみたいだ。

 それはいいとして、


「なんで鉛筆折るのさ」


 この短時間に、半分ほどにまで縮まっている。用意されている五本ともだ。


「えへー」


 ……再教育が必要です。



 ちょっと豪華な昼食をとりながら、あたしは考える。

 リタに必要なのは勉強なんかじゃなくて、破壊行為をやめさせること。つまり、生産的な活動に目覚めさせればいい、という結論に落ち着いた。


「アネルさん、台所をお借りしてもいいですか?」

「もちろんです」


 さて、下準備だ。

 材料の確認、そしてオーブンの使い方をアネルさんに教えてもらう。



 オーブンはありました。冷蔵庫もありました。もうツッコまない。

 電気の代わりに魔力で動いているらしい。

 

 ここは中世ヨーロッパ風の世界ではなく、きっとおそらく近世です。下手したら近代、一部分においては未来世紀……。

 うん、きっといいことだよ。水道設備がちゃんとしてるし!夜道は明るいし!なのに移動手段は馬だし!

 銃がないのも平和ってことでいいんだよ。ていうか、魔法のほうが威力があるし。

 今日、リタを見て思い知った。


 




 道具と材料を並べる。それがどこか、あの日の風景に似ているような気がした。



 ―――黒歴史、解禁。


『えー、調理実習、佐倉と同じ班かよ』

『なんか文句あんのか!』

『いや、道具を破壊するか、黒い物体を大量生産するしか未来が見えねえ』

『な……!』

『俺も同意』

『砂糖と塩を間違えそうだよな』

『顔に不器用アーンド破壊神って出てる』

『仕方がねえよ。だって佐倉だぜ?』




 




「ふ、ふふ……」


 ふっざけんなあ!!

 こんなんでも趣味は、お菓子作りと読書だったんだよ!つーか、家事全般基準レベルには乗っていますから!!がさつなのは認めるよ。でも調理実習を台無しにしたのはてめーらだろうがあ!


 なんで最後の最後に、クッキーに砂糖をまぶす段階で塩をかけちゃうかなあ……なんでそれが『佐倉のいる班』の失敗って認識されるかなあ!?


 というわけであたしはクッキーを作らない。というか、今日は作れない。


 ……泣いていい?


 


 あたしはスクバに入っていたお菓子の本を取り出す。材料的に可能で、かつ簡単で、それでいてリタの集中力が持ちそうなもの―――カップケーキに決めた。

 カップケーキ用のカップは紅茶用のやつを使う。


 ここら辺の地域には、日常的に甘いものを食べる文化がないようだ。

 甘いパンとかはあるけど、ケーキなどはあまり見なかった。それに値段が高い。ちょっと特別なもの、という認識なんだろう。ちっちゃい焼き菓子が一食の値段と同じだったときは少しショックだった。


 でも――――「お菓子が買えないならあたしが作ればいいじゃない」


 きっとね、どこかの王妃様も「パンがないなら私が作ればいいじゃない」って言っていたらギロチンにかけられずに済んだと思うんだ。


 というわけで、


「リタ、甘くてふわふわでおいしいものを作ろう!」

「うん!」



 佐倉ルイによるリタちゃん更生計画は始まったばかりです。




 

一日二回更新は無理がありました。

ストックに回して、春休みが終わった後も毎日更新に近い形にしたいと思います。


備考:本作に料理ツエーの要素はありません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ