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サンタンジェロ城 聖天使城 [ローマ編] 第六話:サファイアとペルシャの虹、そして鞘に収まる光(了)

新しいローマ編の始まりです。

応援よろしくお願いしますね♪

サンタンジェロ城 聖天使城 [ローマ編]

第六話:サファイアとペルシャの虹、そして鞘に収まる光


サンタンジェロ城 聖天使城 [ローマ編]

第六話:サファイアとペルシャの虹、そして鞘に収まる光



『擬似太陽炉』の放つ狂気的な極光が、地下の巨大な空洞を真っ白に染め上げていった。

奪われた「光のスペクトル」が炉の内部で限界まで圧縮され、今にも城ごと街全体を巻き込んで大爆発を起こそうと暴走している。


このままでは、大天使がもたらした世界の調和そのものが吹き飛び、すべての物質が不気味な灰色に均一化されてしまう。


俺――レオナルド・ダ・ヴィンチは、脳内の万能スキル【画家ピクチャー】の白黒フィルターを一時的に完全に解放し、その恐るべき虹色の極光のすべてを網膜に焼き付けた。

白、青、赤、黄色、緑、紫。

歪みながら絡み合う数多の光の糸が、一本の不協和音の濁流となって俺の脳内キャンバスを侵食していく。


「ハハハ! 終わりだ、ダ・ヴィンチ! 誰もこの擬似太陽炉の臨界光を止めることはできん! すべての色彩がこの炉に呑み込まれ、我々が描く新しい無色透明の秩序が完成するのだ!」


転倒したままのシモンが、割れた偏光グラスの奥から狂ったように高笑いを上げていた。


「止めろ、デュポン! このままでは僕たちの結晶も、みんなの命も、全部一瞬で蒸発しちゃうよ!」


結晶族の少年ルカが、自身の身体を激しくピキピキと軋ませながら、臨界光の直撃に必死で耐えて叫んでいた。


「無駄だ、ルカ! 制御レバーはすでに焼き切れた! この光の奔流に耐えられる魔導具など、この世のどこにも存在しないのだからな!」


魔導技師デュポンが、煤けた顔をさらに歪めて、もはや自分たちの手にも負えなくなった暴走炉の光から目を背けるようにして叫んだ。


「おじさん、早くここから逃げよう! もう僕たちの力じゃ、あの巨大な光の壁を押し留めることなんてできないよ!」

トビーがガウルの背中に必死にしがみつきながら、押し寄せる熱風と光の圧力に悲鳴を上げた。


「ダメだよ、トビー! ここで逃げたら、聖天使城だけじゃなくて、ふもとの『老いたる跳ね馬亭』も、みんなの街も全部消え去ってしまうわ!」


リリィが風の防壁を展開しようと必死に弓を構えるが、放たれた微かな風の魔力は、炉の極光に触れた瞬間に一瞬でかき消されてしまった。


「うおおお! 僕が、僕がこの身体を張ってでも、みんなを光から守り抜く!」


ガウルが大きな体躯を極限まで前に突き出し、ルカやコップ、そしておばあさん召喚士のエルザをその背中に隠した。


「ひ、ひえええ! 死にたくないっす! あっしはまだ、この世界で大金持ちになる夢を諦めてないっすよ!」

行商人のコップがガウルの足元で、完全に腰を抜かして大泣きしていた。


「コップ、泣き言を言うんじゃないよ。私たちは、あの万能の天才が奇跡の逆転劇を描くのを、最後まで信じて特等席で見届けるだけさね」


エルザが、魔力の嵐でボロボロに引きちぎれそうになる魔導書を必死に抱えながら、俺の背中を信じるような鋭い眼差しで見つめた。


「レオナルド! 私は見習い騎士として、あなたの盾になるわ! だから、どうかこの世界を、大天使様の美しい光を救ってちょうだい!」


フランチェスカが、刀身の見えない透明な長剣を両手で強く握りしめ、極光の前にその銀の甲冑を真っ直ぐに立ちはだからせた。

彼女の銀の甲冑は、炉の放つ狂暴な光を四方八方へと乱反射させ、俺たちにほんのわずかな「光の逃げ道」を作り出していた。


だが、その盾も限界だった。


甲冑の表面が、極光の熱量に耐えかねて徐々に泥緑色に変色し始めている。


「よく持ちこたえたな、フランチェスカ。お前のその真っ直ぐな線のおかげで、俺の脳内キャンバスには、敵の不協和音を完璧に打ち消すための『逆位相のパースペクティブ(消失点)』が完全に描けたぞ」


俺は静かに、そして不敵に笑いながら、コートの胸元から最愛のシャム猫ウララちゃんを両手で優しく抱き上げた。


「ふにゃあ……ん、にゃあ!」


ウララちゃんが、俺の腕の中でその純白の身体を美しく引き締め、サファイアブルーの瞳をかつてないほどに強く輝かせた。

彼女の瞳から放たれたのは、大天使の剣のスペクトルと完璧に同調し、空間の不協和音を相殺するスキル【サファイアの共鳴(青い収束光)】の神聖な輝きだった。


「みゃあ! みゃあおん!」


それと同時に、リリィの腕から飛び出したペルシャ猫のキララちゃんが、フランチェスカの足元に着地し、そのグレーの長いふさふさとした極上の毛並みを銀色に輝かせた。


キララちゃんのお腹の白い毛並みは、まるで最高級の反射板のように、ウララちゃんが放ったサファイアの光をその身に受けて拡散させ、さらにその威力を数百倍にまで「増幅反射」させるスキル【ペルシャの銀幕】を今ここに覚醒させたのだ。


二匹の美しき猫たちの光は、暗闇の中で一本の完璧な『虹の架け橋』を描くようにして、暴走する擬似太陽炉の極光の渦へと真っ直ぐに伸びていった。


「ウララ、キララ。お前たちの美しさは、世界を救うための完璧な一筆だ。……【画家】の目、光の波長の屈折率をマイナス無限大へ!」


俺は懐から、カストラック城主の印章に仕込まれていた、極上のプリズム結晶レンズを取り出し、二匹の猫たちが放つ青と赤の増幅された光の交差点にかざした。


レンズを通り抜けた二匹の光は、炉の放つすべての極彩色を完全に中和して無色透明へと還元する、極細のコールドレーザー――『逆スペクトルの浄化光』へと変換された。


ジーーーッ! と、


大気が瞬時に凝固するような、凄まじい高音の共鳴音が地下の空洞全体に響き渡った。


俺の放った浄化の光線は、擬似太陽炉の最も不安定なコアの歪みに吸い込まれるように直撃し、暴走していた虹色の極光を、まるで水で洗い流すように次々と透明な輝きへと変え、完全に凍結(調和)させていった。


「な、何だと!? 光のエネルギーが、消えていく……いや、本来あるべき透明な『静寂』へと引き戻されていくというのか!?」


デュポンが、自身の分光レンズが冷たく凍りついてピキピキと割れるのを目の当たりにして、絶望の悲鳴を上げた。


「そんな……バカな! 我々が積み重ねてきた精密な光の計算が、一瞬でゼロに巻き戻されるなんて!」


シモンが地を這いながら、凍りついた炉を仰ぎ見て呻いた。


「よし! 光の波長が安定したよ! 僕の体のギシギシする痛みが消えていく!」

ルカが喜びの声を上げ、自身の透き通る結晶の肌を取り戻した。


「すごいっす、ダ・ヴィンチの旦那! 炉がカチカチに凍りついて静かになったっす!」

コップが恐る恐るガウルの陰から顔を出し、目を丸くして叫んだ。


「見たか、お前たち! これが探偵ダ・ヴィンチの描く、最高の逆転劇さね!」

エルザが安堵の息を漏らし、抱えていた魔導書を胸に抱きしめた。


「やったね、ガウル! 僕たち、本当に助かったんだね!」

トビーがガウルの大きな肩を叩いて飛び跳ねた。


「ああ、トビー! ダ・ヴィンチおじさんはやっぱり本物の天才だったんだ!」

ガウルも太い腕を組み、破顔して豪快に笑った。


「見て、みんな! 空間の歪みが消えて、空気の匂いまで澄み渡っていくわ!」

リリィが弓を背中に背負い直し、明るい笑顔で周囲を見渡した。


「自警団員として、この奇跡の瞬間に立ち会えたことを誇りに思うよ」

マークが剣を鞘に納め、誇らしげに頷いた。


虹色の嵐が完全に収まり、地下空洞に温かく神聖な静寂が満ちてくる。

その瞬間、凍りついた擬似太陽炉の真上、何もない虚空から、まばゆい黄金の光の粒子がゆっくりと舞い降りてきた。


光の粒子は集まり、やがて、巨大な六枚の翼を持つ『大天使ミカエル』の、神々しくも優美な幻影を形作った。

大天使の幻影は、奪われていた七色の光のスペクトルをその身にまといながら、頂上から引きずり下ろされていた『聖天使の剣』をその手に優しく包み込んだ。


そして、大天使はゆっくりと、まるでこの世のすべての争いと歪みを許すかのように、美しい軌跡を描きながら、聖剣をその鞘へと静かに「収める」ような仕草を見せた。


カシャン、と、世界で最も美しい鐘の音に似た、神聖な金属音が城内全体に響き渡った。


「見て! 聖天使の橋が、元の真っ白で綺麗な白大理石に戻っていくわ!」

リリィが中庭の方向を指差して、嬉しそうに飛び跳ねた。


「本当だ! 礼拝堂の青いステンドグラスも、元の美しい青い光を取り戻している! 影が消えて、花が元気に咲き始めているよ!」


ルカが結晶の腕を大きく広げ、自身の身体に宿る魔力が心地よく循環し始めたのを感じて微笑んだ。


「俺たちの剣の刃も、ちゃんと見えるようになったぞ! ガラスみたいに透き通っていたのが、元通りに鋼の輝きを取り戻したんだ!」


アルベルトが、自分の長剣を引き抜いてその確かな刃を見つめ、セシルやガルグと共にお互いの肩を叩き合って大喜びした。


「シモン、デュポン。お前たちの描いた歪んだ贋作は、これで完全に廃棄処分だ。あとは、騎士団の地下牢で自分たちの犯した罪の『色彩』をじっくりと見つめ直すことだな」


俺が冷たく告げると、完全に魔力を失って崩壊した炉の前に、シモンとデュポンはガタガタと震えながら崩れ落ち、駆けつけてきた自警団のマークたちによって厳重に縛り上げられていった。


「レオナルド、本当にありがとう。あなたのおかげで、この城の光も、見習い騎士としての私の誇りも、すべて守り抜くことができたわ」


フランチェスカが、銀の甲冑の汚れも気にせずに、俺の手を両手で強く握りしめて微笑んだ。


「お前が鏡となって道を切り開いてくれたからこそ、俺はただ一筆を加えただけさ。よくやったな、助手殿」


俺は彼女の腕の中にいるペルシャ猫のキララちゃんを見つめ、そのグレーの美しい毛並みを優しく撫でた。


「みゃあ」


キララちゃんは嬉しそうに目を細め、それを見た俺の胸元のウララちゃんも「ふにゃあ」と負けじと甘えた声で鳴いて、俺の頬にその濡れた鼻先を擦り付けてきた。


「さあ、事件はすべて解決した。マルコ、冷えた葡萄酒の準備はできているだろうな?」


俺が酒場へと戻る道を歩き始めながら尋ねると、少年探偵団のトビーやガウル、そしてコップたちも一斉に笑顔で俺の後に続いた。


「できているとも、ダ・ヴィンチ! お前たちのために、店で一番古い特級のヴィンテージボトルを開けて待っているよ!」


後ろから、エルザのおばあちゃんに連れられたハンスやバラクたちも、みんなで賑やかに笑い合いながら、元の美しい青い光に満ちた聖天使城を後にして、『老いたる跳ね馬亭』へと帰路につくのだった。


地下の大空洞を抜け、地上へと上る長い階段を歩きながら、俺たちは改めて城内に広がっていた事件の痕跡が綺麗に消えていく様子を観察していた。


不気味な黄緑色に染まっていた聖天使の橋の大理石は、大天使が聖剣を鞘に収めた瞬間から、眩いばかりの純白の輝きを取り戻していた。


そこを通る人々が感じていた空間の歪みや平衡感覚の喪失も完全に霧散し、巡礼者たちが安心して足を伸ばせる元の平穏な道へと戻っている。


「本当に、夢を見ていたみたいだね。あんなに冷たくて怖かった聖水も、今触ったらすごく暖かくて心地いいよ」


巡礼路の途中で立ち止まったハンスが、自分の手で試すように聖水台の水を掬い上げ、感涙にむせびながら言った。


「ああ、ハンス。お前の髭を凍らせていた不吉な霜も、綺麗に消えてなくなったな」

バラクがハンスの肩をぽんと叩き、豪快に笑った。


「それにしても、ダ・ヴィンチの探偵術には驚かされたね。最初は単なる聖水の冷色化や、ステンドグラスの変色という小さな異変から始まっていたというのに、それがすべて地下の巨大な疑似太陽炉へ繋がっていたなんてさ」


セリアが細い顎に指をあて、感心したように溜息を漏らした。


「ふふん、あっしは最初からダ・ヴィンチの旦那が事件を解決するって信じてたっすよ! あの胡散臭い神官ヨハンの詐欺護符に騙されなくて本当によかったっす!」


コップが胸を張って威張ってみせる。


「コップさん、一番最初に腰を抜かして泣いていたのはコップさんじゃないか」

トビーが呆れた顔をして突っ込むと、周囲からどっと大きな笑い声が上がった。


「いいじゃないかっすか! 結果として事件は解決し、こうして無事に生きて帰って来られたんだから!」

コップが恥ずかしそうに耳をパタパタと揺らした。


「神官ヨハンも、衛兵隊長のヘンリックも、料理長のオットーも、修復職人のバルドも……みんなそれぞれの欲望や誤解から、あの恐ろしい企てに関わっていたのね」

フランチェスカが少し寂しそうな表情で呟いた。


「人間や亜人が集まれば、どうしても欲望や不満という名の『泥絵具』が混ざってしまうものさ。だが、間違った線を引きかけても、こうして正しく描き直すことができる。それが世界の持つ審美眼というものだよ」

俺がコートのウララちゃんを撫でながら静かに答えると、彼女は深く頷いた。


「そうね。私は見習い騎士として、これからもこの街の美しい色彩を守るために、剣を振るい続けるわ。たとえその剣が見えなくなったり、光を失いかけたりしたとしても」

フランチェスカのその言葉には、かつてないほど気高き騎士の誇りが宿っていた。


「みゃあ!」


キララちゃんが誇らしげに声を上げ、まるで主人の成長を祝福しているかのようだった。


「ふにゃあ」


ウララちゃんもサファイアの瞳をキラキラと輝かせ、対抗するように可愛らしく鳴いた。

二匹の猫たちは、互いに競い合うライバルでありながら、この街の平和を取り戻した最高のコンビとして、固い絆で結ばれたようだった。


「さあ、見えてきたぞ! 俺たちの『老いたる跳ね馬亭』だ!」

ガウルが遠くに見える馴染みの看板を指差して声を上げた。


酒場の大きな木製扉を開けると、中では温かな暖炉の火が薪をくべて明るく燃え盛り、芳醇な料理と香ばしい焼き立てパンの匂いが俺たちを温かく迎え入れてくれた。


「お帰り、みんな! 無事で本当によかった!」

マスターのマルコが、カウンター越しに満面の笑みを浮かべ、極上のヴィンテージワインのボトルと、人数分の大きなグラスをズラリと並べた。


「さあさあ、座った座った! 今夜は城の復活と、大探偵ダ・ヴィンチたちの偉業を祝って、朝まで大宴会だ!」

バラクが一番乗りでテーブルにつき、ジョッキを力強く叩いた。


「僕たち子供組にも、とびきり甘い葡萄ジュースを頂戴ね、マルコさん!」

トビーが笑顔でカウンターへ駆け寄った。


「もちろんさ、トビー! ルカもガウルもリリィも、好きなだけ飲むといい!」

マルコが豪快に腕を振るい、次々とごちそうをテーブルへと運んでいく。


「ダ・ヴィンチ、本当にありがとう。この街に、そして私たちの心に、美しい光を取り戻してくれて」

フランチェスカがグラスを掲げ、澄んだ瞳で俺を見つめた。


「俺はただ、キャンバスに本来あるべき『光とキアロスクーロ』を描き直しただけに過ぎない。完無欠なハッピーエンドの色彩をな」


俺はグラスを傾け、芳醇な葡萄酒の香りを嗜んだ。


膝の上ではウララちゃんが丸くなり、隣の椅子ではキララちゃんがふさふさの尾を優しく揺らしている。


夕暮れの黄金色の光が、白大理石の街路を美しく照らし、俺たちの前に広がる未来のキャンバスを、これまでにない極上の色彩で鮮やかに彩っていた。

みなさま、どんな風に感じてもらったのでしょうか?

少しでも面白いかもと思って頂けましたら幸いです。

励みになりますので、☆☆☆☆☆をチェックしてもらえると嬉しく存じます。

これからもお付き合いのほどよろしくお願いいたします。

パラレルワールドで魔法と多種族の住む異世界でスキル無しで探偵します。

ローマ編も追加しています。17時投稿です!

よろしくお願いします。

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