【ティワナク編】* **【第四翼:陰謀の乱舞】** * **第十七章:地底の暗黒神話:**
* **【第四翼:陰謀の乱舞(15話〜18話)】**
* **第十七章:地底の暗黒神話:**
* **第十七章:地底の暗黒神話:** ティワナクの直下、古代の遺伝子失敗作『真・魔物族』の覚醒。
万物の調和を司る生命科学において、最も忌むべき不協和音は「設計図を持たぬ強制的結合」である。
生命のらせん構造は、完璧な均衡の比率によって一本ずつ美しく編み上げられるべき等式だ。
しかし、その等式を無視し、ただ力と破壊の機能だけを求めて異種の因子をドロドロと混ぜ合わせれば、そこに出現するのは進化の結晶ではなく、呪われた「崩壊のバグ(異形)」に他ならない。
前世のフィレンツェにおいて、私は解剖室の薄暗い蝋燭の光の下で、筋肉の繊維や内臓の配置を一本ずつ緻密に観察し、自然が設計した人間の肉体の美しさに息を呑んだ。
だが、この50万年前の超古代の地底深く、かつて始祖たちが遺した遺伝子培養プラントの闇のなかで目覚めようとしているものは、その生命の美しさを根本から全否定する、最悪の暗黒神話であった。
天空の交易都市クスコでの、密告者ジャコモの陰謀と奴隷化兵器の解体から数ヶ月。
地上の世界には、私がもたらした『新ティワナク和親憲章』に基づいた、種族を超えた自律の科学時代が確実に根付きつつあった。
だが、大探偵(私)の頭脳が導き出した流体力学と音響学の計算は、ティワナクの美しい巨石都市の真下――深さ数千メートルに及ぶ広大な大洞窟の奥底から、かつてない不気味な『歪んだ超低周波ノイズ』を捉えて離さなかった。
それは、叔父オロが仕掛けた魔薬「紫の霧」の暴走電流が、地底の封印領域へと流れ込んだことによって起動した、太古の遺伝子失敗作『真・魔物族』の目覚めの予兆であった。
「レオナルド様、地底からの振動の周期が、ここ数日で確実に『大触の月』の満ち欠けの等式と同調し始めています」
念話を通じて私の脳裏に直接響いたのは、漆黒の毛並みを持つ豹の獣人であり、私の唯一無二の相棒であるシザルの声だった。
彼のしなやかな筋肉は、地下の古い貯水池跡に設けられた中央実験室の冷気の中で完璧な緊張を保っており、その琥珀色の瞳は、床の巨石の隙間から立ち上る微かな紫色の地熱の霧を、冷徹に見据えていた。
「ああ、シザル。太古の始舟がこの地に墜落した際、彼らはこの星の原生生物の遺伝子を弄り、私たち鳥人族や獣人族を創り出した。
だが、その創世のプロットの裏側には、制御を失って廃棄された、数万の『生ける失敗作』のスクラップが山のように眠っているのさ。
ネフィリムは、鳥、獣、人、そして魔物の因子が構造を保てぬまま呪いのように不規則結合を繰り返す、悲しき異形の生命体だ。
彼らが地上へ這い出せば、ティワナクに生きるすべての種族の細胞が、その負のマナによって汚染され、世界は文字通りの『暗黒神話』へと還元されてしまうね」
私は純白の翼を大きく広げ、机の上に広げられた広大な地底迷宮の三次元地図を指差した。
「シザル、バルトロ、マルコ。そしてクスコから駆けつけてくれたルパン、ミーナ。
これより、世界の最下層である暗黒の地底迷宮への決死の行軍を開始する。
生命の正しい数式を、その太古のバグたちに教えてあげる時間だ」
「御意、我が主。闇のなかの道を切り開くのは、この漆黒の牙の役目です」
シザルが双振りの湾刀を響かせ、私たちはティワナクの最下層に開いた、無限の暗黒へと続く大洞窟の深淵へと、一気に飛び込んだ。
地底の世界は、陸上のティワナクの幾何学的な巨石景観とは完全に一線を画す、光を拒絶した絶対的な暗黒の迷宮であった。
頭上からは、巨大な氷柱のような鍾乳石が無数に突き出し、足元には、かつて始祖たちの宇宙船から漏れ出た古い結晶質の廃液が、蛍光の紫色の川となってドロドロと不気味に流れていた。
「冷えるな……。空気の奥底に、生き物の内臓が焼けるような嫌な熱気が混ざっていやがる」
巨大な鋼鉄の槌を肩に担ぎ、灰色の剛毛に覆われた巨体を揺らす、老熊族の最高鍛冶屋バルトロが、暗闇のなかで荒い息を吹き出した。
彼の無骨な手は、私が開発したマナの熱導ランプをしっかりと握っていたが、一番弟子たる鍛冶屋の眼は、迷宮の壁に刻まれた、あまりにも不自然な「生命の爪痕」に圧倒されていた。
壁の安山岩には、鳥の爪、猛獣の牙、そして人間の指先が、ドロドロに溶け合って引き裂かれたかのような、巨大な変異痕が何マイルにもわたって刻まれていた。
それこそが、真・魔物族ネフィリムが何万年もの間、封印の檻のなかで自己崩壊と再生を繰り返しながら残した、呪われた生命の悲鳴であった。
「みんな、足元に気をつけておくれ」
私は純白の翼を静かにすぼめ、真鍮製の『魔導透視鏡』を取り出して、暗黒の通路の先をじっくりとのぞき込んだ。
「大気の流れが、完全に『不規則な収縮(脈動)』を起こしている。ネフィリムの巨大な集団が、この先の遺伝子培養プラントの跡地を中心に、一つの巨大な『悪魔の心臓』を構成しているんだ。
……おや、前方の霧のなかに、私たちの科学を待つ、もう一人の重要な脇役が立っているね」
暗黒の濃霧の奥から、静かに歩み出てきたのは、白梟族の盲目の予言者、オリビアであった。
彼女の背には、深い灰色の斑点を持つ美しい翼が広がっており、その濁った白い瞳は光を写してはいなかったが、その野生の耳は、地底の最深部から響いてくる滅びの方程式のノイズを、誰よりも正確に捉えていた。
「……レオナルド王子、そして星の調和を信じる戦士たちよ。
これより先は、始祖たちが『神の等式』を誤り、世界の底へと遺棄した、暗黒のゴミ捨て場です。
ネフィリムの放つ負のマナは、あなた方の五感を錯覚させ、体内のマナの結合を内側から引き裂くでしょう。
星の巡りは、ここで一度、完全な『無』を告げています」
オリビアの悲痛な予言が、大気の振動となって私たちの脳裏に直接響き渡った。
「ありがとう、オリビア。君の耳が捉えたその歪んだ波数のデータ、探偵としてしかと受け取ったよ」
私は万年筆を高く掲げ、その先端から完璧な調和の光を暗闇へと放ち始めた。
「ネフィリムが生命のバグだというのなら、私はそのバグを引き起こしている数式の『不純物』を、私の科学の目で完璧に特定し、解体してみせる。シザル、バルトロ、ルパン、ミーナ、マルコ。
私たちの知性と信頼の歯車を、この暗黒の神話の心臓部へ一気に叩き込んであげようじゃないか!」
私は純白の翼を力強く一閃し、オリビアの導きに沿って、禍々しい紫色の霧が噴き出す遺伝子プラントの最深部へと、音もなく滑り込んでいった。
地底の最奥、数万年の歳月をかけて廃墟と化した超古代の「遺伝子培養大プラント(ネフィリムの巣窟)」
そこは、陸上のいかなる美しい世界とも異なり、高さ数百メートルに及ぶ巨大な結晶質の培養槽が幾千も並び、そのすべての内部から、ドロドロとした紫色のキマイラ因子と、異形の肉塊が、融合と崩壊を繰り返しながら不気味に溢れ出していた。
部屋の中央、プラントのメインジェネレーターの真上には、山のような巨躯を持つ、複数の頭部と無数の異形の肢体を持った、伝説の真・魔物族『ネフィリム』の真実の姿が、大触の月の光を底から吸い上げて脈動していた。
それは、鳥の頭部に獣の牙、人間の腕が呪いのようにドロドロと結合した、生命の最悪の不協和音。
ネフィリムの咆哮が、地底の全空間を物理的に圧壊させるかのような、凄まじい超低周波の衝撃波となって私たちの肉体を直撃した。
「な……何という質量だ! 炎の魔法も、風の刃も、あいつの体表のドロドロとした負のマナに触れた瞬間、すべて細胞の『不規則な増殖』のための栄養として吸収されていくぞ!」
黄金大鷹族の怪盗ルパンが、空中で何十もの黄金の残像を展開しながら、驚愕の声を上げた。
彼の幻影魔術であっても、この絶対的な暗黒の質量の前には、その座標を維持するのが精一杯であった。
「慌てる必要はないと言っただろう、ルパン。ネフィリムは無敵の怪物ではない。
科学者として言わせてもらえば、あれは、外側からのマナを無限に貪ることでしか自らの『自己崩壊の速度』を食い止められない、きわめて不安定な『壊れた天秤』なのだよ」
私は純白の翼を大きく広げ、地底の暗黒のなかで一歩前へ出た。
私の手には、本物の至宝『太陽の涙』が黄金色の美しい輝きを放ちながら抱えられていた。
「ネフィリムの内部では、異なる種族の遺伝子(数式)が、常に互いを拒絶し合いながら殺し合っている。
彼らが暴走しているのは、叔父オロの魔薬の電流が、その拒絶の痛みを一時的に麻痺させているからに過ぎない。
……つまり、その麻痺の等式を、こちらの『調和の周波数(432ヘルツ)』で上書きしてやれば、彼らの肉体は自らの拒絶反応によって、一瞬で正常な細胞へと分解されるのさ!」
私は万年筆の先から、純粋な調和の方程式を、中央で咆哮するネフィリムの心臓部へと正確に投射した。
「―万物は振動であり、生命は調和の等式だ。不純なるエラーコードを解体し、本来の分子の比率へと還元せよ!」
等式が書き換えられた瞬間、地底の地下全域に設置されていた私の『シマティクス共鳴器』が、完璧な432ヘルツの重低音を響かせて一斉に駆動を始めた。
波紋のように広がった目に見えぬ完璧な音波が、ネフィリムの山のような巨躯を瞬時に包み込んでいく。
「ガあ、ガガガガガあッ!?」
ネフィリムの複数の頭部が一斉に苦悶の悲鳴を上げ、その肉体を覆っていた紫色の禍々しいキマイラ因子の外骨格が、サラサラと白い砂のように崩れ落ちていった。
彼らの細胞のなかで、万年続いていた拒絶反応の摩擦が完全に停止し、異形の結合が解かれ、本来の静かな原生生物の分子へと還元されていく。
「ば、馬鹿な……! 始祖たちが封印した、暗黒の神話の怪物が……ただの『音の科学』だけで、内側から美しく解体されていくというのか……!」
マルコが制御盤の前で、その眼鏡の奥の瞳を信じられないというように見開いた。
どれほど強大な暗黒の魔物であっても、宇宙の根本的な調和の波数の前には、ただの静かな等式へと戻るしかないのだ。
物理の法則は、いかなる闇の呪いをも均等に、そして美しく調和へと還す。
山のような巨躯は崩れ去り、地底の培養プラントには、私が手の中に抱えた本物の至宝『太陽の涙』の、穏やかで美しい青白いマナの残響だけが、静かに暗闇を照らし出していた。
「終わりだよ、太古の悲しき失敗作たち。君たちの描いた暗黒のプロットは、これにて完璧な『調和の完結』だ」
I私は純白の翼を静かにすぼめ、万年筆を胸のポケットへと収めた。
シザルが双刀を静かに鞘に収め、私の隣に歩み寄った。
彼の漆黒の毛並みは、地底の暗闇のなかであっても、誰よりも誇らしげに新星の光を写し取っていた。
天空の都市、そして地上のティワナクのすべてに、真実の、誰の手にも縛られない自由な科学の時代が、いま、大地の底から完全に証明されたのだ。
天才レオナルド・ダ・ヴィンチの、この50万年前の超古代における創世の旅路は、暗黒の神話を乗り越え、いよいよ果てしなき未来の地平線へと、その最終章のページを力強くめくったのだった。
地底の最深部を揺るがしていたネフィリムの凄まじい地鳴りは、432ヘルツの調和の余韻とともに、ゆっくりと引いていった。
周囲の巨大な結晶培養槽から溢れ出ていた紫色の有害なエネルギーも、均一な光の粒子となって石畳の上へと静かに降り積もり、暗黒の迷宮はまるで長い悪夢から目覚めたかのように、穏やかな静寂を取り戻していった。
「……信じられんな」
バルトロが巨大な鉄槌を床に突いて、呆然と周囲を見回した。
「あの山のような化け物どもが、あんたの言う『音の引き算』だけで、ただの光の塵になっちまうとはよ。
王子、あんたの頭の中にある数式ってやつは、本当に世界そのものを彫刻し直しちまうんだな」
「彫刻ではないよ、バルトロ。私はただ、歪んでいた線の位置を、正しい黄金比の場所へと引き直してあげただけさ」
私は床に降り積もった白い光の砂を指先でそっと掬い上げ、大気の中へと優しく還した。
「生命の設計図(遺伝子)にエラーが生じたとき、それを力で排除しようとすれば、さらなる変異の摩擦が生まれる。
だが、根本の周波数を整えてやれば、歪みは自ずから消滅し、本来の静かな自然の姿へと戻っていく。それが、宇宙の等式の基本原則なのさ」
「レオナルド様、地上の王宮から連絡です」
マルコが、地底の通信回路の結晶をのぞき込みながら、弾んだ声を響かせた。
「ティワナクの街の地下からの不気味な振動は、いま完全に停止したそうです!
王宮の鳥人たちも、下層街の獣人たちも、みんなで手を取り合って、大地の平穏を喜んでいるらしいぜ!
これで、この星のすべての暗黒の等式は、完全に解体されたんだ!」
「よかった」私は手記を開き、炭のペンの先を走らせた。
私の鏡文字が刻むのは、これまでの全十七章に及ぶ大冒険の完全なる決算と、これからのティワナクが歩むべき、無限の進歩と調和のクロニクル。
人族の技術、獣人族の武力、そして鳥人族の知性が、一つの大きな美しい歯車となって、この星の未来を鍛え上げていく。
「ミーナ、マルコ、バルトロ。みんなのおかげだ。さあ、地上へ戻ろうじゃないか。
私たちの新ティワナク合同評議会の最初の定例会を開き、これからの新しい機械と、新しい都市の建築計画を、みんなで賑やかに話し合おう。
前世のフィレンツェのいかなる巨匠も見たことのない、完璧な新世界のが、いま私たちの目の前に広がっているのだからね」
私は純白の翼を大きく広げ、シザル、そして仲間たちとともに、新星の光が満ちる地上の世界へと向かって、力強く歩みを進めていった。
万物は流転し、神話の夜は明けた。
しかし、私たちがこの超古代の地で響かせた『知性と調和のメロディ』だけは、ティワナクの巨石の隙間に永遠に刻まれ、遥かなる未来の子供たちへと、語り継がれていく。
天才レオナルド・ダ・ヴィンチの、この50万年前の平行世界における果てしなき創世記は、美しい光のなかに完璧な等式を証明し、そして、いまだ見ぬ無限の地平線に向かって、その大いなる旅路を、どこまでも進めていくのだった。
みなさま、どんな風に感じてもらったのでしょうか?
少しでも面白いかもと思って頂けましたら幸いです。
励みになりますので、☆をチェックしてもらえると嬉しく存じます。
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これからもお付き合いのほどよろしくお願いいたします。
パラレルワールドで魔法と多種族の住む異世界でスキル無しで探偵します。
ローマ編も追加しています。17時投稿です!
よろしくお願いします。




