表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/59

第56話 幼き毒牙

 思い立ったが吉日。

 あおいの手引きもあり、俺はその日の午後から公安本庁へと足を踏み入れた。


 ロビーで桐生へと取り次いでもらい、そのままエレベーターへ。


「あの……つかぬ事をお伺いしますが」


 ボタンを押そうとした葵へ向かって、俺はこれまで感じて来た率直な意見を告げる。


「今更言うのもアレなんですが、桐生さんって公安のトップですよね? 俺みたいなはぐれ探索者が、こんな簡単に呼びつけても良いもんなんですか……?」


 先日の病室での出来事。

 桐生がアメリカ大統領と直接やり取りしたという事実が、今になってせり上がる。


 ひょっとしたら俺は……とんでもない無礼を働いているんじゃないだろうかと。


「……本当に今更ですね。まあ公安トップと言うのは若干の語弊がありますが……その疑問は合理的かと。貴方は桐生様に気に入られているみたいですので、今の状況はあくまで特別待遇だとお考え下さい」


 そしてそのまま、四十五階のボタンを押す。

 ぐんぐん上昇するエレベーター、無言の気まずい時が流れる。


「…………」

「…………」


 沈黙に耐え切れず、俺の方から口火を切った。


「……語弊がある、って言いましたよね。てっきり桐生さんが公安のトップだと思ってたんですが、違うんですか?」


 葵は逡巡する素振りを見せたが、俺の問いに答えてくれた。


「公安には大きく分けて、二つの派閥が存在します。『剣聖』桐生きりゅう 正臣まさおみを司令官に置く桐生派と、『知将ちしょう常平つねひら 茂雄しげおを祭り上げる――常平派です」


「常平 茂雄? 聞かない名前ですね」


「……そうですね。……表にはあまり出たがらない……お人ですから……」


「?」



 それは一瞬だった。

 葵の目に、わずかに昏い感情が混じった気がした。



 俺がその違和感に惑わされている内に、葵は更に説明を続けて行った。



「桐生様の率いる執行部隊――そしてその傘下に置かれるのが、公安特務部隊。通称特隊です。彼らはダンジョン攻略と、ギルドとの交渉をメインに活動しています。私たち公安一課の仕事もこちら側ですね」


 日頃から街中をパトロールし、ゲートを見つけたらすぐさま周囲を封鎖する。

 報酬金を定めてギルドの同行を探り、時には特隊による強行突破も行う。


「俺が今まで抱いていた公安のイメージと合致します」


「民衆の多くも、同じことを言うでしょう。……そしてもう一つの派閥を束ねる常平様は、各業界とのパイプ役を担っています」


「……パイプ役?」


 呟く俺に、葵は小さく頷く。


「――メディア、政界、金融、果ては医療に至るまで。ありとあらゆる分野の重鎮たちと、強力なコネを持っておられます。公安が大掛かりな情報統制や、莫大な報酬金を即座に準備できるのも、全てこの方のお陰です」


 公安の懐から湧いて出て来る、無尽蔵の金や物資。

 いったいどこから支給されているのかとは思っていたが――


「なるほど。それは重要ポジションだ」


「……ええ」


 今の葵の話を真に受けるならば、常平 茂雄――この男はまさしく、公安の心臓に他ならない。ともすれば、その影響力は桐生以上かもしれない。


「お二人は『武の桐生』、『知の常平』と言われ、公安の二大巨頭なんです。どちらか片方が欠けても、組織が瓦解する。派閥と言いましたが、別に争ったりしてる訳ではありません。両者ともに、替えの効かないお方なんですよ。――っと、無駄話が過ぎましたか」


 エレベーターの動きが止まり、葵が目配せする。


「到着しました。こちらが仮想バトルルームになります。しばらくしたら桐生様もみえると思いますので、思う存分暴れ散らかして下さい。それでは――」


 小さくお辞儀をし、葵は扉の向こうへと消えて行くのだった。


 ――――


 葵の言葉通り、桐生はすぐさま部屋にやって来た。


「まさか君の方から魔眼の披露を申し出てくれるなんて。嬉しい限りだよ、御剣君。早速だがその力、見せてもらっても良いかな?」


「……それは構いませんが」


 騒がしいギャラリーを、大勢引き連れてだ――


「御剣、気合入れろよ! 気合っ!!」

「一真っち~ ファイト♥ ファイト♥」

「灰原、おめぇも応援しろよな! 声出せ声っ! 腹から出せっ!!」

「……ハハハ。木羽さんはいつでも元気ですね」


 場外からこちらを見つめる三つの視線。毒島に木羽に灰原にと、執行部隊が勢ぞろいだ。


 この状況は葵からも聞いていない。

 桐生も苦笑いだった。


「君の魔眼を見に行くと言ったら、是非とも同行したいと詰め寄られてね。大目に見てやって欲しい」


「いや、別にそれは良いんですが……」


 顔見知りが増える分には別にいい。

 だがこの場にはもう一人、俺の知らぬ人間がいる。


 俺から身を隠すように、桐生の背後にちょこんと立つ――

 小さき少女と、視線が交わった。


「……なに?」


 不機嫌そうな顔で、小首を傾げる少女。

 いや、少女と言うのは不適切か。


 右手にキャンディー。

 左腕で兎のぬいぐるみを抱きしめた――女児だ。


「桐生さん、誰ですかこの子は? 迷子か何かですか?」


「……初対面なのに失礼なやつ。およそ成人した男性の言動とは思えない。加えて想像力にも乏しい。致命的な欠陥だね」


 少女はジト目をしながら、そんな暴言を平然と言い放った。あまりの衝撃に、何を言われたか理解するまでに、たっぷりと数秒を要してしまった。


 桐生は隣でクックックと笑っている。


「紹介しよう。彼女も執行部隊の一員だ。名を久留米くるめ 未来さき。少々口は悪いけれども、仲良くしてくれると嬉しいよ」


「執行部隊って……こんな子供がですか!? ……冗談ですよね?」


「二度目の失言。次は無い」


 久留米から鋭い殺気が飛んで来て、思わず身構える。

 確かに――そこらのガキが発するオーラじゃないな。


「別に入団の時に年齢制限を設けている訳ではないからね。本人の希望があり、相応の実力を持ち合わせるのなら、我々はいつだって歓迎するよ。もちろん御剣君も、その資格を十分に持ち合わせている」


「俺はソロ専門ですので」


 唐突で露骨な勧誘だが、さらりと流した。

 ここ最近で勧誘が増えてきたが、桐生もそこまで本気ではないのだろう。それ以上しつこく粘着するような真似はしない。



 桐生の近くで陣取る久留米を見て、毒島の顔に不満の色が浮かぶ。


「ちょっと未来さきっ! いつまで桐生様にくっついてんのよ! 早く外に出なさいって!」


「……毒島うるさい。私はここから見るの。特等席」


「はぁ、何それ!? 駄々こねてんじゃないわよ! アンタそんなんだから、いつまで経っても子ども扱いされんのよ!」



 久留米は唇をへの字に曲げて、一言――



「…………怒ってばっかだと皺が増えるよ。年増としま





「…………あ゛?」




 地の底から響くような恫喝。



「ひえっ……!」


 隣の木羽は、か細い息を歯の隙間から漏らすのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ