表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/48

第43話 灼滅の老鬼

 レッドゲートに足を踏み入れた瞬間、世界が血の色に染まった。


 空はどこまでも赤く、濃密な死臭が鼻腔びくうを刺す。

 地平線まで続く赤雲が、ゆっくりと蠢いているように見えた。


 ――ここは、冥界だ。


 おどろおどろしい圧迫感に、思わずウエストポーチへ視線を落とす。


 魔眼が、微かに脈打っていた。

 この異質な空気に反応し、獲物の気配でも嗅ぎ取ったのだろうか。



 特隊の最後の一人がゲートを潜り、藤堂の元へ駆け寄る。


「全軍、無事に通過しました! それで、藤堂殿。これからどうしましょ――」


 報告の途中、藤堂は無造作に人差し指を立てた。

 その仕草だけで、空気が張り詰める。


 次の瞬間、藤堂は部隊の最前線へと躍り出て、腹の底から声を叩きつけた。


「さぁて、これで全員渡り終わったぞ!! 隠れとらんで、そろそろ姿を現わしたらどうじゃ!!」


 公安の面々は顔を見合わせ、何事かとざわつく。

 だがギルドの者たちは、誰一人として動揺せず、ただ前方を見据えていた。


 その静寂を破るように――


「Krrrrrrrrrrrrrrrrrr――――!!」


 咆哮と地鳴りが重なり、大地が震えた。

 砂が跳ね、空気が低く唸る。


 次々と地面を割って出る、巨大なサンドワームの群れ。

 十、二十……いや、もっとだ。


 遥か遠方、向こうまで。

 蠢く影が連なり、視界の全てを覆い尽くす。


「なっ、何だこいつらぁ! 待ち伏せしてやがったのか!!」


 特隊がパニックに陥る。

 銃火器を乱射するが、砂を散らすだけで傷一つつかない。



 俺はレイピアを構えた。

 レッドゲートで毒が通用するかは不明。

 頼みの綱はこの一本だ。


 だが、あれだけの数をどうやって――?


 思考が空転する。


 ギルドと連携するか?

 親玉を潰せば突破口が開くか?

 執行部隊なら、多少は持ちこたえられるか?


 どれも決定打に欠ける。

 この数を前に、策は霧散するばかりだった。


「くそっ!! モンスター如きが、小賢しい真似しやがって!!」


 サンドワームの口が、上下左右にうねる。

 まるで俺たちを嘲笑うように。


 特隊の先頭に立つ指揮官が、歯をカチカチと鳴らしながら振り返る。


「む、無理だこんなのっ! 全軍撤退っ! 一度外へ戻り、隊列を組み直せ――!!」


 取り乱す指揮官の肩を、木羽がそっと押さえた。

 その声音は、妙に落ち着いていた。


「まあそう動揺しなさんなって。それよりもしっかり見てな――S級の狩りを。『一瞬』だぜ」


 木羽の視線の先には、ぽつんと立つ藤堂。

 背丈は二メートルほど。

 だが全長数十メートルのワームの群れの前では、塵芥に等しい。


 ワームたちは狙いを定め、ギリリと不快に嗤った。


「この老獪ろうかいを、わらべ扱いしてくれるか。モンスターとは言え、世辞がうまいのう……お主らは」


 藤堂が、ゆっくりと手のひらを広げる。

 胸の中心に弧を描くように、両腕を構え――



「――じゃが、ちーっとばかし多すぎるな。眩暈めまいがするわい」



 大気が震えた。


 小石が跳ね、砂塵が浮き、空気が熱を帯びて歪曲する。


 藤堂の掌に。


 世界の熱が――吸い寄せられていく。



「ぬうおおぉらああああああああっ――――!!!!」



 咆哮とともに、炎熱が解き放たれた。


 それはただの炎ではない。

 ――灼熱の奔流。


 大地を焼きながら。

 あらゆる障害を熔かし。

 存在そのものを消し飛ばす、熱線。



 前方一帯が、一瞬、白く染まった。


 音が消える。


 次いで、焦げた空気の匂いが押し寄せた。



 サンドワームの大群は、悲鳴を上げる暇すらなく――



 ただ、焦土と化した。



 尻もちをついた特隊の一人が、震える指で前方を指す。


「……嘘、だろ…… あれだけいたのに、たった、一撃で……」


 遅れて襲う熱波が、肺を焦がす。

 皮膚が焼けるように熱く、汗が滝のように噴き出す。


 藤堂は手のひらを払い、にかっと笑う。


「ここら一帯は制圧した。ゲート周辺に拠点を組むとするかのう!」


 俺は喉を鳴らした。


「これが、S級探索者…… 世界最高戦力……」



 人類を、救済する力か――



 朗らかに笑う藤堂の陰に、俺は阿修羅を見た気がした。

読んで頂きありがとうございます。

面白いと思って頂けたら、ブックマークや評価で応援頂けると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ