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第十六話 殿様

 第十六話    殿様



 愛留は学校が終わり、いつもの通学路を歩いていた。


 「痛ッ―」 愛留が電柱にぶつかり後ろに倒れていく。

 (やっちまった! だから歩きスマホはダメなのよ……)


 そう思った矢先、愛留が倒れる瞬間

 “チリンッ ” 鈴の音が聞こえると


 「やっちまったか……」 



 愛留はお約束?のタイムスリップしてしまった。



 「いたた…… この風景は江戸時代?」 愛留は江戸時代の常連のような口ぶりになっていた。



 「お嬢さん、大丈夫ですか?」 愛留に優しい声で手を貸す男性がいる。


 「すみません―」 愛留が男性の手を握り立ち上がると

 「怪我はありませんか?」 そんな優しい声に頷く愛留。



 「大丈夫です。ありがとう…… って、慎ちゃんじゃないんだ……」

 愛留が目を丸くすると、そこには侍のような格好だが布で頭を隠している者だった。



 「すみません…… よかったら名前を教えていただけますか?」 愛留は好意で訊く。


 「私は…… 良光といいます」 男性が照れ臭そうに名乗ると


 「わかった。 じゃ、ヨッちゃんね!」 


 愛留は江戸時代に何度もタイムスリップしている。 勘違いではあるが、全員が友達になったような雰囲気で話すと


 「ヨッちゃん……」 良光と名乗った男は、困った表情になる。




 「それでヨッちゃん…… 私、この時代の人じゃなくて……」

 愛留が言い出すと


 「そうでしょうな…… 見たことのない召し物、聞いたことのない話し方……」 良光も愛留と同じくらい困った顔をしていると


 「そう言えば、ヨッちゃんは背が低いね…… 慎ちゃんも低かったけど」

 愛留が失礼な発言をする。


 「君が大きいだけじゃないか……?」


 愛留の身長は162センチ。 今の時代では普通となってきているが、江戸時代では男性の平均身長は155センチほど。 女性は145センチほどと言われていた。


 「それで、どんなのを食べているの? 慎ちゃんの家で食事をご馳走になったけど、私は つつましい食事が好きなんだけどさ……」


 愛留が失礼な発言を連発してしまうと


 「まぁ、米を少々と漬物などかな……」


 「それじゃ栄養が偏ってしまうわよね。 確か脚気かっけだっけ? ビタミン不足でなってしまうやつ…… 年貢とか言って、殿様だけが贅沢してるのね……」


 そんな愛留の言葉に良光は黙ってしまう。



 すると、良光が気分を変えるように

 「随分と砂が付いておられますから、落とすので風呂を用意します……」

 良光が行き先に案内すると、そこは街にある銭湯だった。


 「では、行きましょうか」


 「いやいや…… チョイ待ち! 確か銭湯は混浴だったわよね?」 愛留が良光を睨むと

 「まぁ 普通はそうですが……」



 (前に慎ちゃんと入ったけど、あれは慎ちゃんだから断腸の思いで入ったのにコイツとは勘弁だわ……)


 愛留は、どう断るべきかを悩んでいた。



 江戸時代の銭湯は混浴が当たり前。 それを愛留が聞くと

 「それは別々にしたら金も掛かるだろうし……」


 良光が説明をする。


 江戸時代の前期、銭湯とは蒸気で身体を温める程度だった。 今のサウナである。


 男性はふんどし、女性は湯文字という腰掛けをつけて入っていたという。 湯船が一般的になってきたというもの、下着を着けていると湯が汚れるからと何も着けずに混浴するようになったということ。



 ……それに男女共に裸だから、たまに間違いも起きるらしい。


 (幕府! 取り締まれよ、幕府!) 愛留は複雑そうな顔になる。



 愛留は良光の好意に首を振り、銭湯の誘いを断った。



 「そうか…… それより、こんな時間だ。 お前も旦那が心配するだろう? そろそろ帰ったほうが良いのでは?」

 良光が心配そうに言うと



 「お前って…… それに旦那なんていませんが……」


 愛留の言葉に良光が目を丸くすると


 「何よ……?」

 「お前いくつだ?」

 「十七よ」 愛留がイラッとした様子で答える。


 良光は哀れんだ表情で愛留を見つめると



 「何よ……? その目は……」



 「いや…… まぁ、いつかは何とかなるから……」 良光が愛留に慰めの言葉を掛ける。


 「はい……? ねぇ、同情しないでくれる! 結婚してて当たり前の歳じゃないから!」


 江戸時代では結婚して当たり前の歳。 十四歳から嫁にいき、十八歳だと『行き遅れ』とか言われていたとか。



 (そういえば、お菊さんも十三歳で嫁いだとか言っていたわね……)



 平均寿命が五十歳とか言われていた時代だから仕方ないのだが、 それにしても現代の価値観とは違ったものである。



 (十三歳の嫁とか、現代なら案件だよ、案件!) 愛留は苦笑いをする。



 すると、その時


 「殿! こんな所に……」 声の方を向くと、慎之介が走ってくる。



 「慎ちゃん!」 愛留が嬉しそうにすると

 「それで、愛留…… 何で その方と……」


 「あっ、こちらはヨッちゃん! さっき知り合ったの!」 愛留が説明すると


 「殿、また城から抜け出したのですか? 皆が探しておられましたよ」

 慎之介が言うと、良光がショボンとする。



 「まさか……」


 「その、まさかだ…… 私のあるじだよ」



 そう言って、慎之介は良光を城に帰していく。

 愛留は驚いたまま良光たちを見送るのであった。


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