第12話 火消し
第十二話 火消し
またもや愛留は江戸時代に来ていた。 来ていたのだが……
目の前は火事だった。
そこに火消しがやってくる。 「お嬢ちゃん、ここは危ない。 早く逃げるんだ!」 火消しの男が愛留に叫ぶと
「あ あの…… 足が動かなくて……」 愛留は目の前の大火で足がすくんでいた。
「仕方ねーな! ほら、おぶされ」 火消しは愛留を背負い、川岸までやってくる。
「ここなら安心だ。 もし、火が来たら川に飛び込むんだぜ! それじゃな」 そう言って、火消しは現場に向かっていくのだった。
そして落ち着き、江戸の町を歩いていると
「慎ちゃん……」
「なんだ、愛留か…… また来てたのか」 慎之介は茶屋で団子を食べていた。
「さっき、火事の場所にタイムスリップしちゃってさ…… 凄い火事だったから逃げられなくて」
「なんで、こんな時に俺の場所に来なかったんだろうな? すぐに助けたのに……」
「ほれ」 慎之介は愛留に団子を一本渡す。
「それでね、動けなくなったら火消しの方が助けてくれたのよ」 愛留が説明すると、慎之介はニコッとする。
「ここが江戸で良かったな。 江戸は火消しが多いから誰かが助けてくれるんだ。 江戸では人気の職種だな」
江戸時代は火事が多く、幕府も悩んでいた。 現代とは違い、全てが木造の建築である為、火事が起こると大変な騒ぎだった。
「江戸は火事が多いから、大名も必死だったんだ」 慎之介が話し出す。
寛永6年(1629年)江戸を火事から守る為、奉書火消が誕生した。
幕府が大名十数名に火の番を命じたのが奉書火消。 しかし、火事の時だけ臨時収集されるだけで組織での役割分担などは まともにされていなかった。
寛永18年(1641年)桶町火事と呼ばれた時でも奉書火消は役にたたなかった。 それを見かねて当時の将軍、徳川家光が指揮をとったと言われている。
しかし、その奮闘虚しく火事で大きな被害を出す。
「そこで将軍様は火事に対応するキチンとした組織が必要だと考えたんだ。 そこで作られたのが大名火消だ」 慎之介が説明を続ける。
それは十六家の大名を指名し、それを四組に編成して消防隊とした。 火事が起きたら大名が活動するというルールが設けられる。
しかしながら、これも上手くいかなかった。
「それは大名が火事だというのに自分の権威や名声を気にするあまり、動きやすさなんて そっちのけ。 衣装も派手で優雅に行進をして役人に「火事を収めてまいります」なんて挨拶回りをしていたんだ……」
「何の役にも立たないわね……」 愛留は絶句してしまう。
それを受け、火消しはさらに改善されていく。
そこで作られたのが『常火消』 旗本十家を指名し、江戸城周辺の住まわせる。火消屋敷と呼ばれ、火事が起きていないかを監視する『火の見櫓』や火事を知らせる『半鐘』が備えられていた。
火消屋敷には旗本の家族だけではなく、火消に長けた『臥煙』と呼ばれる者も住んでいたのだ。
彼らは一本の丸太を枕代わりにし、いざ火事になると番をしていた者が枕を木槌で叩いて起こしたらしい。
「凄く目覚めが悪そうだわ……」
「確かに常火消は役にたったが、江戸城周辺しか配置できなく町人まで守ることが出来なかったんだ……」
そこで町人による火消の組織が作られていく。
それが『町火消』 これを作ったのが徳川吉宗。大岡忠相という名奉行に命じて作らせたとか。
「嬉しい♪ やっぱり吉宗様は優しいのね」 愛留は会った事により、吉宗のファンになっていた。
そして『いろは48組』が誕生した。 その中で1番組から10番組に分けられ江戸中を守っていくことになる。
「それ、いろはにほへと……ってやつね♪ い組 ろ組……みたいな」
「そうだ! ただ、 “へ ら ひ ん ”の4文字は使わなく、別の文字を使ったんだよ」 慎之介が説明を続ける。
慎之介の説明だと、 「へ」は百に、「ひ」は万に。 「ん」は本という文字に変えられていたそうだ。
へ=屁 情けなく、力が入らないから。
ひ=火 火を消すのに、この文字はよくないから。
ら= 隠語。 男性器を表す言葉だから。
ん=終わり 命が終わる意味から良くないと伝わっている。
すると、総勢1万人もの火消が誕生していく。
江戸の町の人口が約50万人前後だから、5分の1が火消となっている。
火消の人々は、普段はとび職を本業としているが、火事が起きると出動するようになっていた。
町火消の人は『纏』を大事にしている。 消火には意味がないが、纏は組の目印であり団結の象徴でもあった。
戦の時、先頭が旗を振っていたのと同じように象徴としていた。
また、纏を持つ者は花形と呼ばれていた。
そして消火。 現代では消防車から放水するが江戸時代では水が貴重な為に、風向きを計算して燃え移る家を壊していくことで延焼を防いでいたのだ。
普段、とび職をしている分、家屋の構造に詳しかったのが良かったようだ。
トゲのついた刺股や鳶口という道具で建物を壊していたそう。
そこから現代にも通じているものがある。
「慎ちゃん、これ気づいちゃった♪ 現代では地図記号というのがあるの! そこには消防署は刺股の記号だったの! 思い出しちゃった」
愛留は喜んでいた。
「とにかく江戸時代は火事に敏感だったんだ。 放火をした罪人は『火あぶり』だったしな……」
江戸を火事から守る火消。 そんな事を学んだ愛留であった。




