第4話 影が揃うひと
倉橋は正面を見ていた。
職場。自席。
窓に面した席で、正面の席は名札だけある、誰も出社したことのない席だ。
のはずだった。
上司が座っている。
椅子が、軋んだ。
「……席、変わりましたか」
「バカなこと言ってないで、外回りにでも行ってこい」
立ち上がって、行き先掲示板を見る。
自分のネームプレートがない。
空いてるスペースに、名前を書いた。
倉橋
外出の札を置く。
「出てきます」
車のキーを確認してフロアをでる。
誰も返事はない。
犬が脇をすり抜けて歩いて行く。
自分と反対方向だ。
自分が進もうとしていた方を見る。
そちらが正しいと、思っていた。
犬の方を見た。
犬はこっちを振り返って、ただ見ていた。
犬の方が合ってる。
倉橋は歩き出す。
車に乗り込み、エンジンをかける。
犬も助手席に乗ってきた。
「後部シートじゃないのか…」
犬は答えない。
車を発進させる。
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支部をまわる。
「お久しぶりです」
「お久しぶりって、倉橋さん、昨日来たばかりじゃないですか」
受付の女性は笑顔を崩さない。
「あれ?…そうでしたっけ?」
「受付と営業は人の顔と名前を覚えてなんぼ、ですよ?」
「……そうでしたか」
犬が女性からジャーキーをもらっている。
「お昼前、ついさっき相談があったんですが…」
近くの公営住宅内にある公園の、ジャングルジムが変なのだと。
「影が薄かったり、なかったり。他の遊具と反対に影ができたりしてるそうで」
「ありがとうございます。行ってみます」
倉橋はお辞儀をして、現地へと向かう。
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件のジャングルジムの周りには親子連れが何組かいた。
皆、他の遊具で遊んでいる。
だが、そこだけ人が空いている。
倉橋はジャングルジムに近付いた。
特に古くもない、鉄棒のジャングルジム。
天辺まで上ってみる。
そんなに高さはない。
犬は公園の外側に座って、こちらを見ている。
ジャングルジムの影は特に変わって見えない。
影が足りない気がした。
帰還紋は何の反応もみせない。
だが…。
ふと影を見た。
影が人の形をとってジャングルジムを上っていた。
上ってきた影は、足元で混ざる。
影が、揃う。
倉橋はジャングルジムから飛び降り、犬のところまで歩きながら携帯を取り出す。
「封鎖班に繋いでください。至急」
「開く」
30分もしないうちに、ものものしい恰好をした職員たちが集まってきて、
公園は騒然とした。
見慣れない機材、進入禁止のテープ、見張りの警備員。
簡易テントで、倉橋は事情聴取をされた。
話せる事もほとんどなく、すぐ解放される。
もうすぐ夕方だ。
「戻るか」
犬に向かって声をかける。
犬は倉橋を見上げて、車にむかって歩き出した。
倉橋も歩き出す。
報告書は、封鎖班に任せた。
きっと詳細な報告書があがってくる。
それを、待つことにする。
自分の仕事はここまでだ。
倉橋と犬の影は長く伸びていた。
影は混じってどちらのものか分からなくなっていた。
大改稿になりました・・・




