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誰もが憧れるこの異世界で、無力な俺は主人公になれない  作者: 赤め卵
二章 たった一つのきっかけで、物事は変わってゆく
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第54話 躍進と接近

お久しぶりです。

期末テスト期間に入ってしまい、更新が空いてます。

すいません。……本当にすいません。


元々更新ペースが遅かったのですが、さすがに今回のテストは落とせないので、終わったら少しでも更新ペース上げていきます!

それまで……どうかお待ちください。お願いします。


 背中から、凄まじい強さの風が当たり続けている、

 だが、自転車と同じかそれ以上のスピードが出ているせいで、前からぶつかってくる空気も重い。


 長い遺跡の廊下に広がるこの直線を、信じられないほど速く切り抜けていく。

 壁に付いている傷も、穴が空いている天井も、目に留める間もなく過ぎていった。


 やはり、相当なスピードだ。

 ただ、このつまらない真っ直ぐすぎる直線のせいで、その速度を感じにくい。


 そうやって考えていたことがまるで実際に伝わったかのように、先の風景に変化が見られた。

 進むにつれて遺跡の壁にひびが入っていき、平らな地面が歪に凹んでいた。

 そんな安定しない地面を、まるで少し中に浮いているかのように2人は駆けていく。


 そして、やっと大きく景色が変わったのは、それから1分も掛からなかった。

 再び、岩肌が姿を現し、遺跡の平坦な地面が消える。

 それらの境界線では、交わることのなさそうな人工物と岩肌が歪に絡み合っていた。

 どちらかと言えば、遺跡の壁が埋もれているという方が近いかもしれない。


 そこで、視線を前に戻す。

 先には光が通らないせいで、ほとんど景色が見えない。

 というか、むしろそんな状況でこんなスピードを出しているのが怖くなる。


 一応、さっきまでの道は完全に直線だったが、ここから先は予測のできない自然の洞窟にまた戻るわけだ。

 直線どころか、道がちゃんと続いているかも怪しい。

 ……にも関わらず、彼女たちは速度を緩める気はないらしい。


 だが、その疑念は案外すぐに当たった。

 文字通り、暗闇の中から突如壁が現れ、行く先を塞いでいる。

 とても、止まれる速度なんかじゃない。


 距離は大きく縮まっていきーーだが、速度はまったく落ちない。

 ついに、壁に近づきすぎ、即座に目を閉じた。

 だが、来るはずの衝撃は来ない。


 彼女たちは、その速度を緩めずに、体を傾けて本当にギリギリのところで旋回していた。

 

 それからも、旋回することを余儀なくされても、本当に壁にぶつかる寸前のところで、器用に曲がって行く。


 背後から見ている感じだと、急に目の前に壁が現れたと思えば、次の瞬間には目と鼻の先にある。

 その直前で、どうにか曲がっているという感じだ。

 本当に、このまんまだ。


 ……めっちゃ怖い。

 ジェットコースターよりも速度はないはずなのに、何故かあれ以上の恐怖を感じる。

 しかも、その恐怖の中に楽しさなどない。

 あるのは、恐怖と不安だけだ。


 また正面に凹凸の目立つ壁が現れ、その速度のままスレスレを曲がって行く。

 この瞬間が来るたびに、寿命が縮んでいく気がしてしまう。


 その速度で空気を切り裂き、このほとんど閉鎖された空間に風を生み出していく。

 ーーいや、違う。


 いくら早く走ったとしても、俺が風を感じるだけで、実際に風が巻き起きたりはしないはずだ。

 ……それが、ましてや後ろから吹いたとすれば、おのずと、可能性は一つに絞られる。


 ーーこれも、魔法なのか。


 きっと、うまい具合に風魔法で体重を載せているのだろう。

 だから、こんなにもスピードが出ている。

 ……だが、見たところ、俺を背負っている彼女は魔法を使っているようには見えない。

 片手はバランスをとるのに使い、もう片方には刀ガニ義られている。

 この状況で、魔法を使うことなど不可能だ。

 

 ーーなら、

 俺は、後ろを振り返った。

 

 やっぱりだ。

 後ろを進む男の両手が、白く光っていた。

 これで、2人分の動力を作っているのだ。


 片方は武力を任せ、移動を。

 片方は移動を任せ、武力を。


 誰が見ようと、息が合っていて完璧なパートナーだ。


「この先に分かれ道だ! ユカ、見えるか?」

「あぁ、少年が言った通り左で頼む」


 目から入ってくる景色には、未知どころか壁しか見えてこないのに、彼らはもう次の会話をしていた。

 それも、完全に役割が取れている。


 どこをどう見てるのかも、何を判断して動いているのかもわからないが、その声は互いを信頼し、自分の行動に自信を持っていた。

 そんな姿が見えてしまい、すぐに目を閉じた。

 ……見たくなかった。


 まるで、理想を見せつけられた気がして。

 何かあるたびに、思い出してしまう。

 脳裏をよぎり、たとえ忘れても記憶からはいあっがってくる。

 いくら決別しても、離れてくれない。

 ずっと、付き纏ってくる。


 急に、空気が冷たくなった気がした。

 それの環境の変化に忘れたいという気持ちを乗せながら、で、目を開く。

 相変わらず、景色は変わらないーーいや、すごい速度で過ぎていっている。そんな光景がなぜか心に刺さっていた。


 すると、それとタイミングよく、声が響いた。

 

「これから落ちる」

「だってよ、少年。舌噛むなよ!」


 そう告げるや否や、彼女が大きく飛び上がった。

 そのまま前のめりになり、前にある穴へ大の字で飛び込んでいく。

 それと合わせて、俺の視界も正面から真下へ向いた。


 その姿は、まるで上空を飛ぶ飛行機を降りる姿と同じだ。

 先の見えない縦穴へと、重力に従って落下していく。


 さっきの通路はそこまで広くは無かったのに、再び天然洞窟と繋がった途端に幅が広がっていった。

 そのおかげか、こんな無茶な飛び込みをしても大丈夫なのだろう。


 空気に置いてかれ、髪が上に吹かれている。

 女の髪がモロに顔に当たるせいで、くすぐったい……ていうか痛い。

 ……痛っ! 目に入った!


 自身が囚われの身ということも忘れ、苦情を申し立てようとした時ーー


「ガギャァァァァアッッ!!」


 上から、甲高い鳴き声が聞こえた。

 その声の高さは、悲鳴を思わせてくる。

 鼓膜を破るほどの音が、近づいてきてーーすでに近くまできていた。

 

「来たな」


 短くそう言って、彼女は器用に中空で体を回転し、仰向きになった。

 それのせいで、彼女が俺に覆い被さるようになっていた(俺に背を向けて)。

 だが、落ちているおかげで、体重が上へと行き背中に縄が食い込まなくなったのは嬉しいーーが、それ以外は最悪だ。


 だが、彼女が上を向いたということは、そういうことなのだろう。

 この空中で、勝負をつけるらしい。


 いつ地面が来るのかもわからない。

 男の方が明かりを持っているとはいえ、それだけでは上も、下も照らしきれない。

 ギリギリ、穴の壁がうっすらと見えるぐらいだ。


 それなのに、彼女はどうしてか地面に対して背を向けた。

 ならーー


 だが、そこで思考は強制的に打ち切られた。


 瞬きからめを開くその瞬間、闇の奥に見えたのは牙だった。

 くすんだクリーム色の歪な牙が、ずらりと不規則に並んでいる。

 そこには、舌があり喉がありーーそのさらに奥には、洞窟のような暗い闇が広がっていた。


 距離にしては、まだ数メートル残っている。

 だが、それもこの瞬間だけだ。


 いくら何でも速すぎる。

 とても、洞窟の中で出していいような速度じゃない。

 ……目で追えない。


 目を開き切る前に、その距離が一瞬で縮まっていく。

 空中にいることも忘れるぐらいにーー


 そして、瞬きから目を開き切った時、俺らを追うようにして空中に残っていたのは血だった。


 空気抵抗に負けて、切られた翼らしきものが頭上に置いてかれている。

 視界の脇にある共に落下しているものには、すでに翼が剥ぎ取られ、その体の小ささからは想像できないほどの血を撒き散らしている肉片に変わっていた。


 そんな景色の中に、刀が割り込んだ。

 よく見ると、それが赤く濡れている。


「もうちょっと耐えな! 少年」


 俺の方を向いていないのに加え、空気音で遮られて聞き取りづらかったが、確かにそう聞こえた。

 そして、闇の奥から再び何かが現れた。


 空気抵抗をものともしないように進むそれらは、昔に本の中で見た姿と酷似している。

 それはまるで翼竜のようだ。


 翼竜ーー恐竜時代を生き、実は恐竜ではない爬虫類。

 完全に、記憶の中のその姿をしていた。


 だが、よく知るプテラノドンとは違って、頭に鶏冠がない。

 アレとよく似たような名前のやつがいたような気がするが、流石に名前までは思い出せない。


 目の前で起きていることが非現実的すぎるからか、それとも囚われの身というのが生きるのを諦めさせているのか、恐怖すらも感じずにその光景をずっと眺めていた。

 他人事のように。

 ……いや、もしくは、どうにかなってしまうと、分かっているからだろうか。


 この2人ならーー


 突然、その翼竜の姿が見えなくなった。

 だが、それは翼竜が姿を消したわけじゃない。

 ……俺の視線が、下を向いていた。

 

 同時に、体が外側に引っ張られる。

 再び縄が肌に食い込み、それでも尚振り落とされそうになる。

 そして、再び視界にあの翼竜が映った。

 残像を作りながら……


 視覚の次には耳から、柔らかいものを切り落とす音が聞こえた……かと思えば、ドロッとした液体が顔に飛んでくる。

 そして、視界の横を、細い翼竜の生首が俺たちよりも素早く落ちて行った。


「ユカ! 立て直せ!」


 うるさい鳴き声が止み、ようやく男の声が聞こえた。

 だが、その声を聞き取り終わる前に、また上下が逆転した。


 体が振り回され、縄が食い込み、空気が顔を殴る。

 はち切れそうな腕から力を抜き、乾燥していく目を閉じ、喉から込み上げてくる酸っぱいものを途中で飲み込む。

 耐えて、耐えて、抗う。

 抗い続ける。


 何が起きてるのか考える余裕など無く、この拷問のような体験に耐えるので精一杯だ。


 そして、ようやく安定した。

 回転しなくなった……

 だが、それがどの方向を向いているのかはわからない。


 上なのか、下なのか、もしかしたら全然違う方向を向いているのかもしれない。

 だが、まだ浮遊感はある。


 落ちているのか、進んでいるのか……


 あるはずのない風が、体を吹きつけ、空気の音を耳に入れさせる。


 そんな、感覚が働いてるのか働かなくなったのかわからない状況の中で、それらが全て止んだ。

 久々に重力を感じられ、体が安定する。


 そしてーー


 ドサッ……


 次に来た感覚は、背中に地面を打ちつける衝撃だった。


「お疲れさん。少し休むか?」


 その声が聞こえ、ようやく瞼を上げる。

 未だ、地面にいるのに浮遊感がある。

 不思議な感覚だ。


「…………ん、んぶっ、んごごぼごぼっーー」

「ああ、ごめんごめん! 一旦解くから待って待って!」


 目から見えた景色は不思議なことに、竪穴の底なんかじゃなかった。

 もっと、馴染みのある光景だ。


 明かりが当たった場所は、普通に横穴の洞窟で、しかも竪穴なんか見当たらない。

 まるでーー


「いろんな方向に落ちてるみたいだっただろ? ゲイルの魔法はーー」

「おい、コイツにそんな話するな。敵に情報流してどうすんだ!」


 そうだ。彼女の言う通り、重力が別の方向にかかっているようだった。

 きっと、ここは竪穴から横穴に繋がっていたんだろう。

 そこを、重力を操って落下し切るなんて、とてつもない技術だ。


 けど、今はそんなことよりもーー


「オゲェ……」

「わっ! ちょ、ゲイル、水持ってきて!」


 猿轡されている中で吐いた、この口内をどうにかしたい……

 気分の気持ち悪さと、感覚の気持ち悪さが重なって……おえっ……


「おい、なんで俺なんだよ! お前の責任だろうが! ……うわっ、きったねぇ!」


 気持ち悪さでおかしくなりそうな中、どうにか気を保とうと辺りを見渡す。

 残念ながら、水はまだ来そうにない。


 薄暗いこの空間には、それなりの広さがあった。

 少なくとも、さっき進んでいた空間よりは広い。


 そして後ろの壁には、2つの横穴ーー分かれ道がある。


 それを見て、ずっと頭にあった疑問が蘇った。


 ーーレイナは、どこへ進んだのか?

 ーー本当に、こっちへ来たのか?


 俺はレイナに用がある。

 強制的に切られた話は、まだ終わっていない。

 ……終わらせない。


 そして、この疑問に答えてくれるように。

 分かれ道の手前に堂々と、みたことのない生物の死骸があった。


 ーーそれからは、まだ血が流れていた。


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