七日目(8):悪神、目覚める
「……ふむ。
脆弱な。この程度の敵相手にまともに戦うこともできんとはな」
そいつが。
目を開けて最初に言ったのは、そんな言葉だった。
「おい、ライ?」
「魔術師か。不快な。
だがいまは生存を許す。そこの巨体の方が試し切りには良さそうだ」
言ってそいつは、剣を構えて薄く笑った。
次の瞬間、くわっ、と俺は目を見開いた。
「って、人の身体でなにを……あぐっ」
「黙れ」
不快げに、俺の口を使ってそいつは言った。
「もう起きたのか、馬鹿者め。おとなしく眠りについていれば、仲間が皆殺しに逢うのを見ずに済んだだろうに」
「バルメイス……なのか?」
震える声で問うコゴネルに、そいつは薄く笑い。
そして、剣を構えた。
「試し切りの相手に不足しない。よい寝覚めだ」
ごぅ、と石像が右拳を射出する。
だがそれを、そいつは剣の一振りで邪険に払い、それだけではじき返した。
「見た感じ、亜神の上位クラス程度か。悪くはないが――」
言葉の途中で、バルメイスは剣を軽く振り、
「こういう技には、慣れておるまい?」
とたん、ゴレムの右肩が爆ぜた。
剣の先から伸びた見えない棒状のなにかが、ゴレムの肩を叩き潰したのだ。いや……
(まさか……イェルムンガルド外殻を、刃の形にして攻撃転用したのか!?)
とんでもない器用さだった。円形のフィールドにしか展開できない俺とは、操作の精度が違う。
これが――戦神バルメイス。
スタージンが言葉を濁すようなろくでもない神だが、その力は本物だ。
「やはり脆弱だな! この程度ならば、わざわざ神威を用いるまでもないわ!」
「ま、待て!」
コゴネルが慌てて言う。
「あれには倒し方があるんだ! 左肩の文字を壊してから倒さないと、大爆発して――」
「だから?」
バルメイスは冷たく言い捨てた。
「たかが爆発であろう。その程度も防げない脆弱な命はそこで潰えればよい」
「……っ」
「さて、ではどう料理してやろうかな!」
バルメイスはノリノリで剣を振るい、ゴレムを切り刻んでいく。
その石の巨体は次第に、不気味に鳴動し、光を蓄えていた。いまにも爆発しそうである。
このままだと全滅だ。だが、俺は指一本動かせない。
気合いで意識を取り戻したはいいものの、さっき口を出せたのが奇跡のようだった。
(なにか、なにかできることはないか!? なにか……!)
と、俺はそこで気づいた。
いつのまにか、そろりそろりと俺の足を這い回っている、謎の生き物に。
「なに!? ぐっ、これは……!」
「コゴネル、いまです!」
言葉と共にコゴネルはダッシュして、絡みつかれて動けなくなったバルメイスの肩を飛び越え、
「石よ、腐れ!」
次の瞬間、ゴレムの身体から飛び出したパーツがコゴネルの脇腹に突き刺さった。
「が、はあああああっ!」
「馬鹿野郎、コゴネルおまえっ!」
動かない身体でバグルルは叫んだが、コゴネルは倒れたところで叫び返した。
「いまだ、やれ、テン!」
「無論ですとも! 鋼鉄攻弾、発射!」
声とともに、ゴレムの左肩が爆ぜた。
その瞬間、いまにも爆発しそうだったゴレムの身体の、鳴動が止まっていた。
コゴネルの魔術で防御力が低下したところに弾丸を食らい、肩の神聖文字を吹き飛ばしたからだ。つまり、爆発の解除条件を満たしたのだろう。
だが、バルメイスはそれを見て不快げに顔をしかめた。
「……興ざめな。やったのは貴様か、女」
「引きちぎられた程度では……竜祖イルルヤンカは、力を失いませんので。
ずっと、最も役に立てるタイミングでの奇襲を狙っていました。それが、このタイミングだっただけです」
コゴネルに合図を出したハルカが、しれっと言った。横にはテンがいて、その手に鋼鉄攻弾を構えている。
(あいつら、安全圏に避難しろって言われたのに……)
バルメイスはちっ、と舌打ちし、
「その行動、俺に対する侮辱と見なす!」
ばぁん! と、身体にまとわりつく竜が四散し、宙に解けるように消えていく。
バルメイスは憤怒に燃えながら剣を振り上げ、
「死ねい!」
「させない」
「なに!?」
ばちん! と音がして、バルメイスの身体が大きく揺れ、二、三歩よろめいた。
憎しみをたたえたバルメイスの目が見たものは、小さな魔女の姿。
服はぶかぶかなTシャツ、その上にマント。すらりと伸びた素足。全体的に白めのシルエットだが、黒髪と無骨な眼帯が強めのアクセントを与えている。それなのに、存在感だけは妙に薄い。
俺にとっては、とても見慣れた相手だ。
「サリ・ペスティ――見参」




