七日目(4):悪党、探索中
俺は、ふん、と息を吐き、
「なるほど、爆発したのか。攻撃を察知してあわてて自爆したが、剣圧に押されてまともに爆風を届けることもできなかったってところだな?」
「な……なぜ……!?」
幻覚が剥がれ、頭だけになった木でできた人形の丸い頭部から、うめき声が聞こえた。
おそらく、俺を言いくるめて魔人たちと合流したところで自爆して一網打尽。途中で疑われている気配を感じたら即自爆で俺だけでも排除。そんなもくろみだったんだろう。
幻覚自身もよくできてはいた。見た目は完全にリッサだったし、ひっかけ質問にもきれいに答えていた。だが……よくできていただけだ。
いくらなんでも都合がよすぎる。そう思えば、それが詐欺だと気づくのは簡単だ。
「いや、さすがにあれじゃ騙されねえよ。仕掛けが雑すぎるだろ。普通に知り合いの声だけで釣って爆破した方が、まだひっかかったかもな」
「ありえない……ありえないありえないありえない! 僕の掌握人形は完璧なんだ! 相手の不安に合わせて心の隙を突き、その人物が「あり得る」と思うギリギリの理想の展開を実現して心を掌握する、最強の兵装だ! おまえみたいな三下の小僧に、看破できるはずが……!」
「あー……なるほど」
俺は理解した。
いや、わかっていたことではあったが、ここまでとは。
「よくわかった。おまえ、勘違いしてるんだな」
ぎちり、と、頭部が音を立てた。
「たまにいるんだよ、そういう奴。弱いやつを食い物にする詐欺師の分際で、自分が騙せたのは自分が有能だからで、誰だって騙せると勘違いして破綻する奴。
実際には、おまえが成功してるのは自分より弱い奴しかターゲットにしなかったからだろ。思い上がるな。何人騙そうがおまえが小物なのは変わんねえよ」
「なんだと……貴様、チビの分際で!」
「おまえそれ挑発のつもり? 買わねえよそんな安い喧嘩。おまえみたいな小悪党、誰も興味なんて持たねえっての。どうせ同僚からもそんな扱いなんだろ?」
「ふざけるな! おい、僕を倒せると思ってるのかおまえ! かかってこい!」
「やだよ。どうせまだその頭に毒ガスとかあるんだろ。誰が相手にするかよ」
「僕を倒さないと後悔するぞ! 誰かまた別の奴が犠牲に――」
「いまのおまえの口八丁に騙される馬鹿は俺の仲間にはいねえよ。じゃあな」
言い捨てて、俺はその場を後にした。
意味がわからない罵声は、しばらく後ろから聞こえてきていたが、やがて途絶えた。
(さて、あいつの目的が合流してから自爆だったとすれば、この方向で合流できるってのは間違いないんだろうな)
思っていると。
(ん、んん?)
どこかから聞こえる音。たぶん剣が打ち合っている音だろう。
それがどこであるにせよ……たぶん、味方がいるはずだ。
洞窟は音が反響するので、遠くの音で方角を測定するのは難しい。だが……
(神託の力なら、方角くらいは見える!)
「……こっちか!」
俺は走り出した。
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「おうバグルル、腰が引けてるぞー! もっと踏み込め!」
「まるまるさんかくさんかくしかくー!」
「ええいうるせえぞテメエら! ちったあ真剣に応援し……うわっ!?」
「へっへーんよそ見すんなよおっさん! 隙ありだぜ!」
と、いうわけで。
俺がやってきた広場では、コゴネル、ミーチャ、バグルルが、なんかやたらカラフルな髪の毛の女の子と戦っていた。
いや、正確にはバグルル一人が戦っていて、残り二人は応援しているだけだったのだが。
「なにやってんの、おまえら?」
「おうライ、お疲れ。いや、なにしろ追加の敵が来る可能性があるからな。俺たちは待機組だ」
「まるまる~♪」
「どうせサボる口実だろ、それ」
「まあな」
にやりと笑って、コゴネル。思いのほか楽しそうだ。
「くっそ、なんだその剣! カチカチだし崩せやしねえ!」
「へっへーん、このプチラ様の単分子剣に目をつけるとはいいセンスしてんじゃんおっさんよう。解説してあげよっか?」
「いらねえよ! どうせサリが魔力付与したこっちの剣が格上だろ!」
「むきー! テメ、ホントのことでも言っていいことと悪いことがあるだろ!」
「隙あり!」
「あ、ちょ、まっ、どべ!?」
ごがぁん! と、バグルルの大剣がプチラと名乗った女の子の脳天にクリーンヒット。勢いよくプチラは地面に頭をたたきつけられてワンバウンドして倒れた。
「うわ……えっぐ。死んだか?」
「生きてると思うぞ。あの髪、たぶん耐衝撃機能を持った呪具だ。
とはいえ地面にたたきつけられた衝撃は殺し切れんから、しばらく動けないだろ」
「ずるじゃん!」
「うわ復活した!?」
がばぁ! とプチラが起き上がったのにコゴネルが二、三歩引いた。
「くあー、なんでだよ! けっこう長いこと打ち合ってたのに全然疲れないし動きが鈍らねえの!」
「わはは、そりゃそうだ俺は強いからな!
あと小娘、おまえさっき俺にこっそり呪いかけてただろ? 無駄無駄! 俺も一応元は聖職者だからな、呪い除去くらいの秘儀はお手の物よ!」
「ぐっはぁー!? 完全に相性負けしたぁ!」
言って、今度こそプチラは倒れた。どうやら一応無事だが、ダメージ的にはコゴネルの言う通り、ほぼ動けないようだ。
「おつかれー、バグルル。無事でなによりだ」
「おう、小僧こそよく無事だったな!」
わははと笑うバグルル。……こうやって見ると、やっぱ仲間は頼りになるなあ。
一人だと心細かったんだな、と、改めて実感する。まあ、口には出さないが。
「おまえの方は敵と会ったか? ライ」
「ああ、実は……」
というわけで、俺はコゴネルに、さっきのリッサもどきの話を語って聞かせた。
「……って感じなんだけど、どう思う?」
「人形だな、それは」
「人形?」
苦々しげに、コゴネルはうなずいた。
「魔人の世界じゃ二つの意味がある言葉だ。一つは人体に埋め込む形で機能することを前提とした呪具、自走人形。腕を失った人間に、自在に動く義手を作ったりするのがこちらの技術だな。だがまあ、こっちはいい。
もう一つが、その応用。人間を改造して自我を取り払った上で、自走人形を埋め込みまくって好き放題改造して兵器にする技術。それが『人形』で、それを好んで使う外道を『人形遣い』って言うんだ」
「うわ、怖……」
「すでにセンエイから報告されてるが、たぶんレイクル・サバーリッチとかいう奴だろうな。何百人という単位で人間を自分の兵器として改造している、外道の中の外道だよ。よく生きてたな、ライ」
「まあ、あの種の悪党には慣れてるからな、俺は」
素直に答える。
人を人とも思わない外道には、それなりに心当たりがある。悪辣なのは魔人だけではないのだ。
「それより、これからどうする?」
「他の魔人と合流を目指すべきだろうな。
ミーチャが見ていたらしいんだが、あの罠から回避できてたのはサリとトゥトだけだったらしい。だからハルカとテンは俺たちと同様、さまよっているはずだ」
「じゃあ行くか。ああ、そこで倒れてる奴はちゃんと拘束しとけよ?」
「はーい待った待った!」
言ったのは、まだ倒れたままのプチラだった。
バグルルは不審げに、
「なんだチビ。いますぐトドメ刺して欲しいってか?」
「喧嘩売ってんのかデカブツ! あ、いやそうじゃない。情報とか欲しくない?」
「どうせ偽情報掴ませようって腹だろ? いらんからそこで伸びとけ」
「いやいや、偽情報じゃないって! ていうか、あんたらが下手打つとあたしがとばっちりで死ぬっつーの!」
言葉に、俺たちは顔を見合わせた。




