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神様の剣と懲りない悪党  作者: すたりむ
六日目~七日目:悪党と燎原の魔王
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七日目(1):悪党、燎原に来たる

 夜が明けて半日と経たないうちに、俺は無地の燎原(ロスト・ヴァルハラ)の入り口に来ていた。


「このすごろくみたいな地形が古戦場なのか……はえー、すげえな」


 言いながら後ろを振り返ると、そこには憮然としたセンエイと、他の魔人たちの姿。

 うち、コゴネルは真っ青な顔でかろうじて立っていて、ペイとマイマイはちょっと離れたところでリバース中。ハルカとテンも若干調子が悪そうだが、他はいたって平気。

 まあそんなことはどうでもいいので、俺は尋ねた。


「おい、なんかみんなリアクション薄くない?」

「知らん! ていうか、なんでおまえが無事なんだよライくん!」


 びしっ! とセンエイは俺に指を突きつけてきた。


「え、なんの話だ?」

「だから空輸の話だよ! 私が呼んだ奴!」

「あー。なんか早かったな、あのでかい鳥」

「感想が雑! ていうか、他の三半規管ザコ勢がもくろみ通り全員リタイアしたってのになんで一番狙ってたライくんが無事なんだよ!」

「おまえはなにを狙ってんだよ。敵か?」


 ちなみに俺は事前のサリのアドバイス通り、景色を見ようとせずにただひたすら鳥の背中を見ていただけである。

 途中、退屈だからちょっと寝てしまった。揺れたような気もするが、あまり覚えていない。


「あーもうつまんねえ! とっておきの技披露して損した!」

「いや、むくれてないで仕事しろよ。敵アジトに突撃するんだろ?」

「わ、悪い、ライ……ちょっと休憩取らせろ……うええ」


 と、コゴネル。かろうじて吐いてないが、そうとうきつかったらしい。


「ってわけだ。わりぃけど少し待ってくれや!」

「おめーが代表面すんな、バグルル……うぐぐぐ」

「さんかく~☆」

「バグルルは全然平気そうだな」

「おう! なんかトゥトの様子見て真似してたら余裕だったわ」


 にかっ、と笑ってバグルル。

 そう、今回は屋外とあって、さすがにいつも姿を現さないトゥトもはっきりと見える形で立っている。

 背丈は俺よりちょっと上くらいか。岩小人族の屈強な身体を、黒い装束で固めている。出立前に聞いたところ、これが彼の故郷に伝わる伝統的な衣装なんだとか。本来ならばこの上に黒頭巾も被るらしいのだが、さすがにこの地方では不審者扱いされる、ということで、姿を隠せないときには自粛しているそうだ。

 岩小人族と言えば普通はじいさんみたいな外見を連想するのだが、こうして頭巾もなく幻惑もない状況でトゥトを見ると、けっこうな美青年だ。口ひげをきれいに整えているところもおしゃれを感じさせる。


「あの程度の揺れに対応するは忍びの基本の一つ。皆、鍛錬が足らんな」

「いや、鍛錬の……問題か……? 意図して揺らしてただろ、センエイ……」

「そういう拷問もある。対抗するための鍛錬が必要なのだ」


 グロッキーのコゴネルに、トゥトは言った。

 ――このトゥトの正体は、岩小人の社会に根付く伝統的な異能者、『忍者』である。

 元々は、内乱で百年以上分裂し争った岩小人族たちの島国の中で発達した、相手勢力へのスパイの集団。それが独自発達して一大勢力となった後、技能集団として社会に定着したものだそうだ。

 その技術体系の一部に魔術が含まれるため、大陸では彼らは『魔人』と分類される。しかし本国ではまた違った扱いだとか。

 以上、すべて出立前の雑談で聞きかじった知識である。


「で、幻術の能力が重要になる場所だって聞いてたんだけど、どの辺がどうなんだって?」


 答えたのは、相変わらず憮然としたままのセンエイだった。


「だから、あのすごろくのタイルひとつひとつが全部、幻術の塊なんだよ。

 ここからは見えないがね。あそこに一歩侵入したが最後、訳のわからん幻術に襲われて進むことも引くこともできないまま死ぬことになる」

「死ぬの!?」

「対策してない場合はまず死ぬな。ここの幻術は強度が高すぎる。

 強度が高い幻術は現実を浸食する。本来の幻術は生物の意識にしか作用しないが、強すぎると無生物が持つ微弱な意識にまで影響を与え始めてな。たとえば大岩の幻術だったら普通はつぶされたと錯覚して痛いだけだが、強度が高いと身体が潰されたと理解して勝手に潰れてその結果死ぬ」

「うわー……こえー……」

「まあ、対策自体はある。撤退するだけだったら、とにかく破幻の術式を撃ちまくって、消えたそばからひたすらダッシュすればいい。ここの幻術は消しても自動再生するが、直るまでに時間がかかるからな。それほどの深さでなければ戻ってこれるだろう。

 だが侵入となるとそうはいかなくてな。桁外れに高い難易度になるわけだ」


 話しているうちになんか機嫌がよくなったらしく、笑いながらセンエイは言った。


「どの辺が特に難しいんだ?」

「まず幻術を消しまくって前進するのは視界不調がひどくてな。狙ったマスに行こうにもどの方向を向けばいいのかが不透明だから、たいてい路頭に迷う。

 その上、敵のアジトは「狙ったマスの幻術の中」だ。そこだけは幻術を消すわけにはいかない。アジトの入り口も消えてしまうからな」

「なるほど……そういうわけか」

「まあ、逆に言えばこの燎原にアジトを設ける方も、そうとうな技能者じゃないと無理なんだが。

 それも私が聞いた範囲では、入り口から三マスとか四マスとか、その程度のところが限界なんだがな。あのジジイ、どうやって十マスも向こうにアジトをこさえたんだか」

「アジトの中も幻覚がひどいのか?」

「さすがにそれはない。そうだったらアジトとして機能しないよ」


 センエイはそう言って、それからまわりを見渡した。


「というわけで、幻術を一定時間無効化する『見徹』の技術、合計九マス分が必要なわけだが……そうとうな魔力を使う作業だし、使ったらしばらく戦力にならない。どうやって捻出する?」

「はいはいはーい! あたし、七マスまでなら提供できるよ!」


 マイマイが、超元気に手を上げた。


「おまえ、さっきまでげーげー吐いてた割には元気だな……」

「全部出したら楽になった!」

「あ、そう……」

「でもグリートくんはまだあっちでへばってる!」

「うん、そうだろうね……」


 鳥で飛行中、マイマイと一緒になってずっと騒いでいたグリートである。おそらく体力を使い果たしたのだろう。

 もっとも、いまのグリートの『役割』はマイマイの護衛。マイマイがここに残るならへばっていても全然問題ないのだが。


「まあ、この場合マイマイは鉄板だろう。中より外で役に立つ人材だ。

 それ以外だと……バグルルはどうだ? おまえ幻術かじってたろ」

「いや悪いが無理だ。ていうか、かじった程度でできる技じゃねえだろ、見徹」

「だなあ。トゥトは?」

「残念ながら。我らが術に幻影を利用するものはあるが、単純に破るだけの技は得意ではない」

「……はあ、結局私がやるしかないか」


 センエイはため息をついた。

 コゴネルは、ようやく治ってきた顔色で、


「できるのか。さすがだな、センエイ」

「できるに決まってるだろあんなメジャー技術。私を誰だと思ってんだ。

 とはいえ、あの技がゴリゴリ魔力と体力を削るのは事実だ。見徹で道を開けた後はここでへばっていることになるわけだが、突入班が突入した直後に奇襲される可能性を考えると、護衛が一人欲しいな」


 センエイは少し考えて、


「ライくんでどうだろう? 本来イレギュラーな戦力だし、ここで使おう。おそらく相手もこちらに主戦力は割けないだろうし、マイマイと私が回復するまでだったらライくん一人でも十分だろ」

「それは駄目」


 ぴしゃり、とサリが言ったので、みんな驚いた。


「なんでだ?」

「……ここに来てから、私の『眼』がかなり不安定なんだけど。

 それでもわかる。ライを連れていかない場合、私たちは確実に()()()()()


 ……沈黙が、一瞬だけ場を支配した。

 サリの予知能力のことを俺は昨日知ったのだが、おそらく魔人たちはずっと前から知っていたのだろう。

 その威力は、改めて目にすると絶大だ。しかし……


「他に追加情報はないのか?」

「見える光景としては、複数の死体。わたしの行動指針次第で構成は変わるんだけど……なにが原因かまでは、見えない。

 たぶんなんらかの魔術的隠蔽がなされていると思う。普通じゃない感じ。予測だけなら、深く観察すればできるかもしれないけれど……」

「おーけー。その詮索はそこまでにしよう。

 とりあえずサリ、ライくんが同行すれば『なにも見えない』んだな?」

「いまのところ。ただ、まだ見えないだけかもしれないけど……」

「その情報だけで十分だ。ともかく、ライくんは突入組にしよう。異議ある奴は?」


 センエイの言葉に、全員が首を横に振った。


「よし、じゃあ残す戦力はペイに変更かな。頼めるか?」

「おう、任せろ。相手の予備兵力相手に時間稼げばいいんだろ?」

「結構。じゃあこれで突入組と待機組の組分けはできたな」

「よし、じゃあ突入班集合! これから打ち合わせを始める!」


 コゴネルが言って、全員が行動を開始した。

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